七尾旅人さんの歌は、心の痛みが愛になりえることを教えてくれる
七尾旅人さんの「Long Voyage」は、この時代に効く薬だ
2022年9月14日、七尾旅人さんのニューアルバム「Long Voyage(ロング・ヴォヤージュ)が発売された。発売を楽しみにしていた私は、毎日、毎日、何度も何度も聞いている。まるでなにかの薬のように。
私たちは今日まで生きて来た。そしてこれからも生きてゆく。心が傷ついた時、私たちはあまりにも無防備で、その直し方もわかならい。でも、もう大丈夫。私たちには、七尾旅人さんが居る。
この薬は、じんわりと気がつけば効いてくる薬だ。自分の免疫力や、自然治癒力を最大に高める周波数で七尾旅人さんは歌う(笑)。薬草や、森林の空気や、海岸の砂や、空や風や土や水や星が、私たちを癒してくれるように。いや、それ以上に。
それは、旅人さんが、痛みを引き受け、自ら血を流し、苦しみの中で手に入れた治癒力だからだ。
この時代に生きる人たちに、このアルバムを届けたい。早く傷の手当をしなければいけない。心の痛みが恨みになる前に。ヘイトが蔓延する前に。
泣いていい、痛いと言っていい、辛いと言っていい。気持ちを言葉にして出していい。そして、七尾旅人さんの歌を聴こう。心の痛みが愛になりえることを知ろう。私はそのことを知っている。
私が、コロナ禍で笑って生きてこられたのは、七尾旅人さんが居たからに他ならない。けっして大げさでなく、本当に!
七尾旅人・対コロナ支援「LIFE HOUSE」に出してもらう!
2021年2月28日には、七尾旅人さんのYouTube番組「LIFE HOUSE」に私と次郎と出してもらった(出演者を一般公募した時に書いた手紙を次の目次にあげる)。次郎の出演にあたり、旅人さんの愛犬・兄犬も参加することになった。その後旅立っていった兄犬と共演出来たことは、奇跡のような出来事だった。次郎と兄犬はライバルのように、旅人さんの気を引こうとしていたのが可笑しかった。タイトル写真の旅人さんのTシャツも、次郎のTシャツも兄犬のイラストだ。兄犬が今も、二人と一緒に居る。
実は私は、この番組に応募するにあたり、2度も手紙を書いたのだ。一度目の手紙を出してなお、まだ、書き足りないと思って書いたのが、次にあげる手紙だ。だれにも届かなかった思いを、旅人さんに受け止めてもらえて、どれだけ嬉しかったか!もうそれだけで、一瞬にして、それまでの苦しかったことは吹き飛んだ、そんな出来事だった。
鬼気迫る「七尾旅人さんへの2回目の手紙」は飛ばしてもよいので、同じ状況を次郎の言葉(私の翻訳)で書いた「ボクのコロナ・ハートブレイク備忘録」は、ぜひ読んでほしい。
七尾旅人さんへの2回目の手紙
○コロナに翻弄された1年間をお話したいと思います。
重度の知的障がいのある次郎は、1年前の今頃は、三重県在住で卒業した学校に週二回バイトに行って月に1万円のバイト料をもらっていました。突然の学校閉鎖を期にバイトもお休みになり、次郎自身の収入も0になりました。その後バイトが再開されることはありませんでした。学校なので、外部からの感染リスクを考えて極力人の出入りを止めたいということで。
それでも、生活介護事業所の利用もしていたので、居場所はそこにあったのですが、その生活介護事業所は、医療ケアの必要な人が大半の事業所だったので、動ける次郎が一番感染リスクの高い利用者でした。そこで、ちょっとした鼻水も咳も(実はアレルギーがあるので、その所為で鼻水が出ることがあるのだけれど)気を付けて、利用をひかえたりしていました。それでも、スタッフさんは優しく、「どうぞ、来てください」と言ってくださり、気を付けながら利用していました。
近隣で感染者が出たといううわさも飛ぶようになったある日、他の利用者さんから、「事業所での感染が心配」という声があったそうです。ほとんどの利用者さんが事業所と家を送迎車で往復する生活をしている中、動ける次郎の存在が心配ということです。私は、利用を控えようか?と考えていましたが、事業所のお知らせでは、『スタッフも普段の生活で買い物に行ったりと動いているので、感染リスクは同じだから、心配をされる方がお休みをされてもいいですよ』というものでした。スタッフさんは、次郎を守ってくださったのです。
けれど、医療を必要とされている方の心配は消えないでしょうから、私は、利用することに申し訳なさを感じていました。次郎は、心から、その場所を好きで、今でも思い出しては楽しかったと言います。けれど、もう私は感染リスクを抱えて、その事業所を利用することは出来ないと考えました。
もうひとつ、地方を離れようと思った出来事がありました。夏に私が熱を出したときのことでした。普段入ってくださっていた居宅介護事業所から、「ヘルパー派遣が出来ない」ということを言われたのです。私もそれはそうだな。もしコロナだったらと考えるだろうから、医者の診断を受けようと思いました。発熱している状態で診てくれる医者が少ないなか、やっと受診し、「胃腸風邪」という診断名をもらいました。これでやっとヘルパーを派遣してもらえると思いきや「コロナのPCR検査で陰性になったわけでないから、これから1週間は朝夕の体温を測ってください」と言われたのです。私は、「それは保健所や、行政に言ってくれ」と事業所に訴えました。事業所も戦々恐々としているのはわかります。だとすればなおのこと、PCR検査を心配のある場合、受けられるようにしてもらうよう、行政に言ってほしいと思ったのです。
けれど、そうはならずに、私と事業所の関係が悪化しただけでした。
次郎は近所のスーパーで、楽しく買い物をしていたのに、コロナ以降「マスクしろ」おじさんが現れ、マスクをすれば、「距離をとれ」と怒られ、怖くて出かけられなくなっていたし、住んでいた県営住宅では、「うるさい、迷惑だ」という張り紙を貼られるなどあり、逃げるように東京に転居してきました。
東京なら、少なくとも、PCR検査を自費でするにも安く受けられる方法があるだろうし、公的支援が受けられない時の、友人の助けもあると思いました。母数が大きいので、ヘルプに答えてくれる人も居るだろうと。
そして、東京での暮らしがどうなったか?というと、私の仕事は決まっているにも関わらず働けない状況です。緊急事態宣言下で、次郎を受け入れる事業所がない(新規受け入れストップ状態)のです。
そんなお話を聞いてくださったら嬉しいです。
今回、2度目の応募になります。すいません。どうぞ、よろしくお願いします。
追記・その後次郎は、とても素敵な生活介護事業所に出会い、現在も楽しく通っています。
ボクのコロナ・ハートブレイク備忘録(2020年のこと)
空気がピリピリしてきたね。
ボクはマスクが出来ないから、スーパーで知らないおじさんに、「マスクをしていないヤツは帰れ!」って怒られるよ。そのおじさんは5時過ぎに、フードコートに居るお客さん。だから、5時過ぎにはスーパーに行かないようにしたよ。
スーパーには、買い物友達のおばちゃんや、おばあちゃんたちがたくさんいたから、すごく残念だったよ。コロナの前は、お買い得品を見せ合って、ワーワー楽しく買い物していたんだよ。
でも、楽しそうにしていても、そのおじさんは怒るから、しかたなく、スーパーにいかないようにしたよ。
だから、『マスクしろ!間隔を空けろ!静かにしろ!』おじさんは、なんとか避けられていた。
でも、いよいよボクが、毎日楽しみに通っている施設(生活介護事業所)で、事件は起こった!
その日も、ボクはいつものように、食事が終わって、他の人の食器も片づけようとした時だった。「席を立ってはいけません。」と職員さんに注意されたんだ。
「え?」
昨日まではよかったのに、『なんで?』
職員さんは、他の利用者さんの食事介助に忙しく、詳しい説明はしてくれなかった。してくれたかもしれないけれど、ボクには理解できなかった。
それから、「これからは、送迎の時には、車で待っててね」って言われた。ボクがお友達(他利用者)の荷物を持って、おうちまで運ぶのはしないでってこと。
「え?」
で、おうちに帰ってママの顔みたら、『今日、辛いことがあったんだ~』って、泣きついたんだ。ママはわかってくれると思ったから。
それで、ママに頼んで、施設に電話してもらったんだ。
「どうして、昨日までよかったことが、今日から、ダメになったんですか?」
そしてわかったことは、「他の利用者さんの連絡帳に、『今は、このような状況なので、利用者同士の距離を保ってほしい』という要望が書かれてあったから、事前に説明する余裕なく、突然禁止することになって、すいませんでした。」
ということだった。「けして次郎さんのことを言っているわけではなく、気を付けてほしいというだけの要望でした」ということを言われた。
でもね、車椅子でない利用者は、ボクひとりなんだよね。近づき過ぎって、ボクのことじゃん。ああ、ボクはこれからどうすればいいんだろう。
昨日までのボクは、車椅子のお友達の荷物を運んだり食事を運んだり、そんなことで役に立てるのが幸せだった。ボクは本当にそんなことが好きなんだ。
でもそれは、しちゃいけなくなったらしい。
新型コロナウィルスを運ぶから?
ボクに新型コロナウィルスが付いてるから?
でも、ママは言うよ。それはそうだと思うって。だって、誰にもわからないことだから、近づかないことしか防ぎようがないのだから、近づかないでほしいと思うだろうってね。
ママは、最初から言ってたんだ。
PCR検査がもっと受けられたらいいねって。
ボクだって検査を受けて、新型コロナウィルス持ってませんって、証明されたい。
♪白岩次郎の歌(仮)♪
七尾旅人さんが、10しか語彙のない次郎の為に、10の言葉で歌を作ってくれた。瀬尾高志さんのウッドベースも素敵過ぎる。なんて贅沢なんだろう!私は幸せ過ぎてふわふわ飛んでいってしまいそうだ。曲の後半で、兄犬が聴きにくる様子も可愛い!
七尾旅人さんが居る世界なら、もう少しがんばれる気がする。
そして、旅人さんが身を削って産み出した歌が、私を包んでくれているように、私も、大きな愛でこの世界を包もうと思う(努力する)。そして疲れたら、また膝をかかえて、繭に包まれるような「Long Voyage」を聴こう。
そして、とびっきり居心地のいい船旅に出るのだ。
それは、流した涙を忘れないと言ってくれる人が居る旅だ。