健全なるパン、健全なるサーカス。
「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」
という言葉がある。
ゆーてどうせ世を忍ぶ仮の姿だもんなあ、
なんてイクスキューズで肉体の管理を放擲、牛飲馬食の限りを尽くした結果。
以前はいわゆる細マッチョ、つうんですか昨今の若人は?みたいなエモい体型で、モテモテだったにも関わらず、
今や腹踊りに適した、見るものをして白痴ではなかろうかと思わしむるほど極めてファニーな体型に成り下がってしまっていた。
これはこれで、JKからかわいい!等と嬌声を浴びる可能性はあるのだけど、
そのファニーさが精神にも多大なる影響を及ぼし始め、
最近はもうなんだかもう、何をするにしても、
ただ、いっさいは過ぎていきます。というような、途方に暮れるような心持ちで、
真理らしく思われるのは、ただ、いっさいは過ぎていきます。ということだけになってしまっていて。
さすがのポピーも、これはまかりならぬ!
と奮起して立ち上がり、拳を天高く振り上げた。
その際に、膝はポキポキと、肩はグキと鳴ったが、
ユウェナリスの言葉を信じて、肉体のドレスアップを決行することにした。
まずは贅肉を削ぎ落とすことが必要だとポピーは考えたね。
削ぎ落とすといっても、サバイバルナイフで本当に削ぎ落とすのは痛いし危ない。
よって、ダイエットを行うことにした。
インターネットで調査を行ったところ、ダイエットの敵はカロリーだということがわかった。
そうと決まれば話は早い、カロリーを撲滅する!
と奮起して立ち上がり、拳を天高く振り上げた。再び膝はポキポキと、肩はグキと鳴った。
このカロリーという悪い奴を、ひたすらに、親の仇みたく憎むのだ。
そして健全な肉体、健全な精神を手にするのだ。
ポピーは、何かを憎むことには昔から長けていた。
それからというもの、半紙に「カロリー」と書いてはビリビリに喰い千切るという作業を一日1,000回行った。
それから、3ヶ月。
体重は減るどころか、増えていた。
なぜだ。こんなにも努力したのに。
騙されていたのか?インターネットは、ポピーを騙したのか?
憎い。ポピーを騙したインターネットが憎い。
それからというもの、半紙に「インターネット」と書いてはビリビリに喰い千切るという作業を一日1,000回行った。
それから、3ヶ月。
体重はさらに増えていた。
お腹は半紙でパンパンになっていた。
なぜだ。こんなにも努力したのに。
こうなったらヤケ酒じゃあ!と、インターネット半紙をつまみに清酒をやっつけながら、ふと気づいた。
こんなに憎んでいるカロリーのこと、ポピーは1ミリも理解していないではないか。
憎んで憎んで憎み尽くしたインターネットにこうべを垂れて、教えを乞うた。
カロリーを征するには、大きく二つの方法があるという。
一つは、摂り入れるカロリーを抑える方法、
もう一つは、カロリーを浪費する方法である。
つまり、カロリーの「入るを量りて出ずるを為す」というわけだ。
どういうわけだよ?
中卒のポピーでも、質量保存の法則というものは識っているぜ?
カロリーだけがなぜいけないの?ねえ?ムーミンこっちむいて?
結局難しいことはよくわからなかったので、
とにかく食べる量を減らして、とにかくやたらと体を動かしまくった。
最初のうちは、辛かった。
動物の肉体というのは、厳しい地球環境を生き抜くために、
「最小の損失で飢餓を凌ぎ,最大の効率で栄養を貯蔵する」
という設計になっているため、
新陳代謝!新陳代謝!と叫びながら、それに反した活動を行うというのは、
実に虚しく、バカげた行為だと肉体は識っているからだ。
しかしながら、幼少の頃からバカげた行為が大好きで、
それゆえに中卒という華々しい学歴を持つポピーは、
そのバカバカしさをエンジョイすることにした。
シンチンタイシャ!シンチンタイシャ!うおー、レツゴー!
それからというもの、グングンと成果を発揮して、
3ヶ月間でなんと、10kgの減量に成功。
え、すごくね?
ポピー、やればできるくね?
ひとりライザップぢゃね?
3ヶ月前の写真と鏡の前の姿を比べると、
ゔぉーつ ゔぉーつ ゔぉーつ ゔぉーつ
てーでーつてって てーでーてれてれ てーでーつてって てーでーてれてれ
とあのCMソングが脳内で流れるほどの、劇的JOY!ビフォーアフター。カワイイはつくれるキレイはきたない。
マッシブ・スパルタンな肉体を手に入れてからというもの、精神も断然マッシブ・スパルタンとなった。
具体的には、こう、なんというか、鋭さみたいなものが増した。エッジの効いた精神?というか。
もっというと、破壊的な衝動が強まった。
むやみやたらと障子を指で突き破ったり、後輩の秘孔を突きまくったり、バーバパパと書かれた半紙を喰い千切ったりして日々過ごしている。
ダイエット以来、ポピーの背中を見た奴はこの世に居ない。
なぜなら背後に立った者は瞬時に切害されてしまうからだ。
もちろん殺すのはポピー。
シンチンタイシャ!シンチンタイシャ!うおー、レツゴー!
エッジの効きすぎた精神を少しく落ち着かせるために、とある作家の随筆を読んでいると、
ふと、こんな文章が目に留まった。
「健全な肉体に健全な精神が宿るという諺があるけれど、あれには、ギリシャ原文では、健全な肉体に健全な精神が宿ったならば!という願望と歎息の意味が含まれているのだそうだ。」
え?嘘でしょ?
それじゃあ、今までポピーが信じてきたものはなんだったの?
背後に立った者、たくさん殺しちゃったよ?