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「実現したいこと」を今必要な粒度で表現する能力はリーダーやマネージャーのスキル

はじめに

こんにちは。えりりんこと白井恵里です。株式会社メンバーズ(東証プライム)執行役員 兼 メンバーズデータアドベンチャーカンパニー(以下DA) カンパニー社長をしています。DAは企業のデータ活用を支援する事業をやっています。事業立ち上げ時から社長を務めています。

今日は、ビジョンとか方針とか目標とか何かそういう「実現したいこと」にも粒度があるって話と、適切な粒度を判断して表現する能力はリーダーやマネージャーなど複数のメンバーをまとめて成果を出すことを担う役割の人には必須のスキルだって話をします。

(とはいえリーダーってなんだとかマネージャーってなんだとかあんまりよくわかってないんで、これに当てはまらないケースの場合ごめんなさい。雰囲気でリーダーとかマネージャーとかいう言葉つかってます)

※仕事にかこつけて山の話をしたいだけの「山と事業と仕事の話」というシリーズ記事も書いているのでそこに入れようか迷ったのですが、今回は山というよりほぼ仕事の話なので独立した記事にしました。といいつつ導入は山用品の買い物の話からです。あしからず。

お買い物というタスク

皆さんお買い物してますか?お買い物好きですか?楽しいですよねお買い物。といいつつ私はお買い物は疲れるので苦手ではあるんですが。なんで疲れるかというと、何と何をトレードオフするのか、自分はこの購買決定において何を得ようとしているのかを考え、調査し、見極め、決めないといけないからです。仕事でも何と何をトレードオフするかみたいな判断ばっかやってるのに、プライベートのお買い物でまでそんなことしたくないわっていうのが正直なところ。でもやるしかありません。店員さんは相談に乗ってくれるし豊富な知識で色々とよいものを提案してくれますが、それによって何を実現したいかは誰も自分の代わりに決めてはくれません。

まずは検討すべき項目を洗い出す

さて、私は今年の初夏に山用のテントを買いました。ギア類にテンションが上がるタチではないので、メーカーがーとかスペックがーとかわからないし、調べる気力もありません。迷うのを楽しむタイプでもないので、あれこれ見たり聞いたりして欲しいもののイメージをつけていく、ということもしたくありません。買うと決めたらさっさと買うというタスクを完了してしまいたい。特に店頭であれこれ悩んで出直しますーとかできればしたくない。なので、テント買おうと決めてから、何を買えばいいのか考えるのは結構気が重かったんです。

といいつつそこそこのお値段の買い物だし、一度買ったら数年間は使い続けることになりますから、できればいい買い物をしたい。そのためにはお店にいってフィーリングで決めるというわけにもいきませんから、ネット記事を読んだり、山の雑誌を読んだり、周りの人の意見を聞いたり、多少お勉強しました。

結果、判断に使うべき情報はほぼ以下項目であるということがわかりました。

  • 付属品を含めた総重量

  • 収納時のサイズ

  • 構造タイプ(シングルウォールかダブルウォールか、自立式か非自立式か)

  • 居住性(広いとか、結露しにくいとか、そういうこと)

テント選びを支援する記事ではないので詳細の説明は省きます。とりあえず検討すべきポイントが絞られた!やったね!

「それによって何を実現したいか」を考え、「購入するものを決めるにあたって必要な解」を出す

私は大体検討すべきポイントがわかった時点で、「それによって何を実現したいか」を具体化することにしています。なぜこのタイミングかというと、「それによって何を実現したいか」って結構広い問いなんですね。無限に解がでてきてしまう。しかし、このタイミングになれば、「購入するものを決めるにあたって必要な解」をつきとめることができます。何をどのくらい具体的に決める必要があるかとか、どういう粒度で決める必要があるかとか、そういうのがはっきりしているということです。

このときは、他の制約もあり以下のように決めました。

  • 無雪期に普段行っているような山で使いたい

  • 安眠したい(エキスパート向けのモデルにままある研ぎ澄ませすぎて安眠できないのは困るので、安眠できる程度の堅牢性・機能性があること)

  • テント内でゆっくりご飯食べたりコーヒー飲んだりができる程度の居住性はほしい

  • 風雨のなかでも一人で設営できるといいな(大体風速20mまでは山に行く)

  • 手持ちのザックに収納できるサイズがいいな

  • 自分にとって登山行動に支障をきたさない重さだといいな

  • 製品の耐用期間中に元が取れる価格だといいな(山小屋泊より安くあげたくてテントが欲しいので、例えば山小屋100泊分の価格とかだと意味がない。例えば5年使うなら、1~2年くらいで元取りたいなー)

という感じ。ビジョンとか方針とか呼ばれるものよりかなり具体的ですね。もう要求や要件に近いかな。

ということで、これを元に、店員さんに出すオーダーを考えます。あ、店員さんに相談して選んでもらうのは前提です。だって自分でスペック調べて比較とかしたくないから。

  1. 無雪期の3シーズンで、国内の3,000m級の山での使用が想定されているものがよい

  2. 予算上限〜万円で、それ以内であれば高くても安くてもよく、他の条件を優先する

  3. 総重量、収納時のサイズともに小さければ小さいほどよいが、収納時のサイズを優先する

  4. 総重量は〜キロ以内、収納時のサイズは体積で〜リットル以内

  5. 構造はダブルウォールで自立式がよい

  6. 広さは私が一人で座ってストレスがない床面積と天井の高さがあれば十分

  7. 全てを満たすものがない場合、一度方針を練り直します

となりました。1は行き先から。2は元がとれるかどうか。3・4は、ザックの収納力はほとんど拡張の余地がないが、重さに関しては私がトレーニングすれば許容上限が上がる可能性があるので収納サイズ優先。そのなかでこれを超えたらかつげないしザックに入らないという数字を割り出した。5は、安眠と風雨のなかでも設営できるという点から。6は、広くて快適なテントを求めればキリがないが、その分重量と収納時のサイズとのトレードオフが発生するので、テント内で飲食するのにストレスがない広さがあれば十分。7は、実現したいものを削ぎ落とさないと現実に解がないということなので、一度帰って実現したいことを考え直す時間が必要です、というかんじ。

さて結果やいかに

って感じでお店に行って店員さんに上記を伝えたら5分で決まりました。で、それをこの夏山シーズン使い倒しましたが、実現したいことは実現できていて、大きな不満や不便を感じることはありませんでした。よかったよかった。

私は買うと決めたらさっさと買うというタスクを完了してしまいたいと思っていたので、店頭であれこれ悩む必要なくさくっと決まったのは大変気分がいいです。なぜさっさと買えたのかというと、店頭に行く前に何と何をトレードオフするか、というか何を優先して何を優先しないかを決めていたからです。つまり、「購入するものを決めるにあたって必要な解」を出せていた。

まず、価格については、予算内なら価格の多寡は購買決定に関与させないと決めていました。また、広さについては、荷物を広げてもゆとりのある居住空間とか求めないと決めました(が、ウルトラライト志向の製品のなかにはほんとに寝る分の天井高しかなく座れない製品もあるのですが、雨の日も山に行く私にとってこれは不適として、座れる高さは必要としました)。全ての条件を満たすものが複数ある場合、収納サイズがもっとも小さいものを選び、他の優劣は決定に関与させないことも決めていました(それでも候補が複数残っちゃうなら見た目が可愛いやつにしようとも思ってた)。もちろん、私が買ったものよりもっと軽い製品や小さい製品も存在するのですが、それらはそもそも他の条件で跳ねられて候補に残りません。結果、悩むでもなく、店頭にあるうちの1つの製品しか候補に上がりませんでした。

アンチパターンとして、なんとなく、「軽い方がいいなー、小さいほうがいいなー、そんなに広くなくていいけど狭すぎたらやだなー、設営が手軽な方がいいなー、できたら安いと嬉しいなー」みたいな気持ちで売り場に行くと長引きます。全部がぶっちぎりで一番の製品は多くの場合存在しないからです。あれこれ迷うのも買い物の楽しみの一つだと思うので、楽しむつもりならむしろ長引く方がいいんですけどね。

でもテント買うの決めた時に実現したいものを決めてなかったっけ?

あれ、でもおかしいなと。テントを買うというのもなんらかの手段ぽいから、そもそもテントを買うって決めたときに、「それによって何を実現したいか」を決めてなかったの?という疑問を持つ方もおられるとおもいます。私のnoteの熱心な読者ならきっとみんなそう思うはず。そもそもそんな人いるのか?という話はさておいて、そうです、テントを買うって決めたときも「それによって何を実現したいか」を決めています。こちらの記事に書いています。

このとき決めたのは、「テントを買うという手段を採択するか決めるにあたって必要な解」なんですね。買うぞと決めてから、「購入するものを決めるにあたって必要な解」ではありません。もちろん、テントを買うことで実現したいと考えていたことが、買うテントによっては実現不可能になるとなったら元も子もないので、包括関係はありますが、イコールではありません。

「実現したいこと」は入れ子構造になっている

両方の「実現したいこと」を並べるとこうですね。

【テントを買うと決めるにあたって決めた実現したいこと】

もっと多くの日数を山の中で過ごしたい、特に夜と朝に山にいたい

【購入するものを決めるにあたって決めた実現したいこと】

無雪期に普段行っているような山で使いたい
安眠したい
テント内でゆっくりご飯食べたりコーヒー飲んだりができる程度の居住性はほしい
風雨のなかでも一人で設営できるといいな
手持ちのザックに収納できるサイズだといいな
自分にとって登山行動に支障をきたさない重さだといいな
製品の耐用期間中に元が取れる価格だといいな

もう文字量からして違いますね。前者はより広く、概念的で、後者はより具体的です。でもこれはどっちも「実現したいこと」です(語尾的に願望も混じってますが)。

前者はすぐアクションに紐付けられる粒度ではありません。その分色々と思考をめぐらす余地があります。後者は割とすぐアクションに紐付けられます。その分やることは自動的に決まっていって、自由度は少ないです。今回も、後者の実現したいことを決めたのちは、買うべきテントはほぼ自動的に決まりました。

これね、仕事でも、多くの場合、トップの方針〜部門の方針〜個人の方針みたいにブレイクダウンしていく組織の場合は、こういう感じの入れ子構造になっていると思います。目標とか、ビジョンとか呼ばれるものも同じ。

すぐアクションできるのがいい方針なのか?

そもそも方針ってなんだとか、アクションできる情報は方針とは呼ばないだろとか色々あるんですが、一旦すっとばして、なんとなーく何か上から出された「これをやるぞ!」「これを目指すぞ!」っていう情報で「具体性に欠けていて何をしていいかわからないなあ」って思ったことないですか?私はよく思っていたし、今も思うんですが、組織のトップが出す方針ってそういうものなんです。なぜなら、その何をするかを決めるのはトップ以下の階層の仕事であることが多いからです。なので、今も私は「具体性に欠けていて何をしていいかわかんないなあ」って思いながら何をするか考えています。思うのは自由だからね。

必要な情報は組織の成長に従って変わっていくんだと思うのですが、ある程度の規模になったら多くの場合トップはすべての実行に関与しなく(できなく)なったり、現場が得ているすべての情報を掌握しなく(できなく)なったりします。そのときにトップの出す方針がアクションできる粒度のものだったらどうでしょう。現場がやることは自動的に決まります。すると、現場に即していないものになったり、現場のちょっと先にある機会を無視したものになったりします。方針が具体的であればあるほど、やることを決める自由度は下がるからです。アクションできない粒度だが、目指すものに関して共通認識が持てる方針であれば、その方向に向かって、情報を持っている現場が何をするかを思考をめぐらし、やることを決めていくことができます。

ちなみに後者の方がいつでも成果があがるというわけではないです。現場だけが持っている情報が判断の結果に影響しない場合や、現場のやることを決める能力が育っていない場合は上がやることを決めたらいいですし、そうでなくても突出した商売勘、コミット度合いのトップがやることを決めて現場は実行に徹する方が成果が上がる組織はたくさんあると思います。

「実現したいこと」を今必要な粒度で表現する能力はリーダーやマネージャーのスキルの一つ

ただ、「実現したいこと」の入れ子構造を理解していて、今必要な粒度を判断できることは、重要な仕事上のスキルの一つです。特に、リーダーとかマネージャーとか、複数のメンバーをまとめて成果を出すことを担う役割の人には必須です。

そのときに、具体性を突き詰めすぎちゃうケースをよく見ます。これは多分私のいる業界の特性として、若いうちからリーダーやマネージャーというものを任せる風潮があったり、リーダーやマネージャーとしての体系的な技術を学ぶ機会がなかったりすることに関係していそうです。変化が早く市場が成長しているので、しっかり教えてしっかり育てるより前に、やらせてみたほうが早いんですね。一定の合理性はありますが、弊害はもちろんあり、例えばプレイヤー時代に個人の目標や方針を立てて「具体性に欠ける」「アクションできる粒度で書くように」みたいなフィードバックを受けたことがある人が、それをそのまま引きずって無思考でリーダーやマネージャーとして方針や部門目標を作ってしまう。教えを素直にかつすばやく身体化して実践する優秀なプレイヤーほどそうなりがちです。

リーダーやマネージャーが立てる方針や目標は、それを受け止めるメンバーの立場や習熟度によってどの程度の自由度を設定すべきかは変わりますが、具体性をあげればあげるほどメンバーが自分で考え自分で動く余地は減ります。それは習熟度の高いメンバーにとってはパフォーマンスが最大限発揮できていない状態を作ることにもつながりますし、多くの場合モチベーションを下げます。また、習熟度の低いメンバーの成長機会が生まれません。結果として、リーダーやマネージャーとして期待される成果を出すことから遠のくことがあります。

トップの方針(「実現したいこと」)、外部環境の状況、部門に期待される成果、今のメンバーの立場や習熟度と、リーダーやマネージャーとしてメンバーそれぞれに期待する今後の成長を鑑みて、適切な粒度の「実現したいこと」をつくり、表現し、伝えられること。これがリーダーやマネージャーの仕事の全てと言っても過言じゃないです、いややっぱ過言です(リーダーやマネージャーを定義していないから)。とはいえ腕の見せ所なのは間違いないです。

じゃあどうやって鍛えるかというと場数を踏むのがよかろうと思います。そのときに、ただ漫然と方針を作るより、今必要な粒度の方針って何だ?って考えて、それによって得たい効果を考えて、それから最適と思われるものを作って、結果を見てみる方が習熟が早いです。場合によっては部門一律の方針ではなく、メンバーごとにつくったほうがいいこともあります(それを方針と呼ぶのかはさておく)。方針をつくる、目標をつくる、というときに、実現したいことは、方針をつくることや目標をつくることではなく、実現したいことが実現されることだと思うので、言葉や定義に囚われずに色々やってみるといいのかなと最近は思っています。

以上、白井さんのお気持ちでした。

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