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物語とアイデンティティ

音声で聴きたい方はこちら。

みなさん、こんにちは!
しらいです!

以前、こんな記事を書きました。

その後、この記事で触れた「オーダーメイド本体」について、お二人の方が興味深いことを話されていました。

その中で、アイデンティティの話題が出ていたので、アイデンティティ、それにプラスして物語について書いてみます。


まずは、お二人の会話を見てみましょう。
※内容を変えない程度に修正を加えています。

Aさん
すろーす君だと、やっぱり自分って感じはしないですね。所有って感覚はありますが、自分とはやっぱり違う…
そこから先の感覚は、実際にオーダーメイド本体で体験してみないとなって思いました!
(しかし、自分を言語化するのが難しすぎる)

Bさん
自分を言語化っていうか、自分のアイデンティティを言語化ってイメージです。
僕も別に自分がお猿だとは思っていないけど、アイデンティティを集合させたらお猿に行き着いたってイメージです。

Aさん
違いがよくわからない!
実は、アイデンティティという概念が、全然理解できてないんですよね…
体感的にも、よくわかっておらず…

Bさん
<自分>
・田中一郎、一児の父、長男、国語が得意、30代男性
・いわゆる「プロフィール」
・客観的事実

<アイデンティティ>
・家族を大切にしている、仕事が好き、考えることが好き、自分にも他人にも嘘をつきたくない、ブッダに憧れている
・これが失われたら自分が自分でなくなるもの
・自己の根幹だと自分が認識しているもの
・自分が自分に抱いている自己認識
・主観的事実

Aさん
ラベルの集合体とも、似て非なるものなんですよね。自分が自分に抱いてる自己認識か…
これ、みんな普通に持ってます?
(実はアイデンティティを持つ重要性もわかってない)

Bさん
思春期に「自分とは何者なのか」ということについて深く悩む、とかのことを「アイデンティティの拡散」といって思春期の発達課題として存在しているんですよね。
その、拡散している自己認識を統合していくのが「アイデンティティの確立」です。

アイデンティティの拡散は、人が狭い世界から広い世界へ出ていく過程で「俺って今のままで良かったんだっけ?」とか思う気持ちが生むので避けられないものだったりします。

一方でアイデンティティの確立は「私は世界一のアイドルになる!」と決めて小学生の頃からアイドル活動をしているよ、とかいう人ははやく確立できますし、それがなかなか定まらずに「自分とは」というのを探し求めている人もいます。これはどちらがいい悪いということではないです。アイデンティティの確立が早すぎて困ることもあるし、遅すぎて困ることもあります。

ただ大事なのは、「自分がその状況の自分を受け入れている」という自己肯定感だったりもするので、アイドルになりたいと思っている自分が好き、自分とは何かを探している自分が好き、と思えることか重要だったりする。

なんなら、自分は自己を探し求めている「旅人」なんだという思いこそがアイデンティティだったりもします。

Aさん
なるほど!
自己肯定感はめっちゃあるのと、思春期に「自分とは何者なのか」の悩みがなかったので、多分そもそも考える場面がなかったのかも!

多分、思春期を狭い村ですごして、何も疑問に思わずにいたんですが、それで十分満足していたんですよね!

「どうせ変化するのだから、確固たる自分みたいなのは無いよね」っていう感覚はすごくありますね!

知識も立場も、ちょっと離れた場所に置いてあって、必要に応じてたぐりよせて使うみたいな!
なので、めっちゃ流動的でいいって思います!

むしろ他者との関係の中での、相手から見た私の集合体が私、って感覚かもです!

Bさん
流動性については僕も近しい感覚があるので共感します!

他者との関係の中で相手から見た私の集合体が私。これ仏教の縁起・空の概念(※)ですね!

人はどっちみちどちらかに偏ることはなく、あるのは「どちらかに偏りたい」と願う気持ちが「自己」を形成するので、
「人から見られた時の自分が自分なんだ」という「流動性」のみを「固定」している感覚がBさんなのかな!
となると、Bさんがオーダーメイド本体を作るなら「雲」かな!

雲って「自分は何者だ」という固定概念は微塵もないけど、「わたあめに見える!」「いやいや亀だよ!」「イルカじゃない?」みたいな、人によって捉えが変わることを全部受け入れている気がするので!

※しらい注釈
縁起と空は、仏教において「関係性」や「相互依存」といった観点から、あらゆるものが存在していることを意味する概念。

<縁起>
意味:因縁によって生起していること
解釈:すべては他に依って存在し、それ自身で独立して存在してはいない
<空>
意味:関係の中で存在していること
解釈:物事が永遠に不変であるという幻想を打破し、すべてのものが相互依  存し、一時的で変わりやすいものであること

Aさん
「流動性が個性」って、言われるとなるほど!
これは…当たり前のことだと思っていたので、絶対に自分では気が付けない!

「雲」たしかに、それがアイデンティティなのかもですね!
「これが自分なんだ」って固定したら、逆に自分じゃないかもです。

Bさん
現状、Aさんのことを「雲」だと思っている人はいないはずなので、それを宣言できるオーダーメイド本体はやっぱめちゃくちゃ魅力的ですね!


こんな感じです。

盛り上がっていますね。
見ているこちらまで楽しくなってくるような会話でした。お二人ともありがとうございます!

さて、会話の中でAさんは、「アイデンティティを持つ重要性がわかってない」ということを言っていました。

なのでここから「アイデンティティ」について書いていきたいのですが、その前に、アイデンティティを形作る「物語」というものが大きな役割を持つので、先にそちらを見ていきましょう。


物語によって自分(アイデンティティ)を変えられる

そもそも物語とは何でしょうか?
以下の本ではこのように述べられています。

理解に苦しむ不可解な現象に原因と結果のつながりを与え、世界の複雑さに秩序をもたらすのが「物語」の最初の役割でした。
ランダムな死と隣り合わせだった原始の生活においては、その物語が正解か不正解かは関係なく、「このような原因で問題が起きたのだ」と思えたほうが心の安らぎを得ることができます。最初の「物語」は、無秩序への不安をやわらげるバッファーとして誕生したわけです。

ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45

物語は、ある事象の因果関係を説明するために生まれ、私たちの心の安らぎに寄与していたんですね。

そしてこの「物語」を通して人間は、自分を見出していたそうです。

本書では、例として『聖書』を挙げています。

西洋の人々が「聖書」のストーリーを心の支えにしてきたのはご存じのとおりで、ある人は「創世記」に自らの起源を求めて安心感を抱き、またある人はキリストの物語によって「自分はどう行動すべきなのか?」の指針を手に入れました。

ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45


さらに、別の本を見てみましょう。以下の本ではこのようにあります。

カナダの精神科医、犯罪学者で深層心理学の専門家である、アンリ・エレンベルガー氏は、人間には無意識的に物語を紡ぐ神話産生機能があり、これが個人の人格の統合にも役立っていると提唱した。
また、米心理学者の、ダン・P・マクアダムス氏は、そもそもアイデンティティとは人生物語であり、人生にまとまりや目的、意味を与える個人的な神話だと指摘している。セルフナラティブはその人の現在と過去と未来をつないで一本のストーリーにするが、結び付けていく作業そのものが、アイデンティティの形成につながるというのだ。

人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか

また、ナラティブ(物語)の力について以下のようにも言っています。

不安神経症の人は不安を自分の物語の中に入れて納得のいくように語ることができない。だから、人間が生まれながらにして持つナラティブ生成力を活性化させて、過去の記憶にプロットをつけて、再構築する必要がある。そうやって、不安神経症の人が、全体を「なるほど」と見渡すことができ、自分の人生を物語ることができるようになると、不安症状は消えるという。

人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか


こうしてみても、物語とアイデンティティは密接に結びついていることがわかります。


ここから、物語を変えることによって自分(アイデンティティ)を変えることができる、という部分に移っていきます。

再び、『ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45』から引用してみたいと思います。

タバコが体に悪いのは常識ですが、それでも欲求を抑えられない喫煙家たちは、なんの根拠もなく「昔から吸われてきたのだから、そこまで体に悪くないはずだ」と考え、実際のダメージを低く見積ることが多くの調査でわかっています。タバコを吸い続けたいがために、間違った「物語」を採用してしまうわけです。

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これは、自分にとって望ましくない「物語」を採用してしまった例です。ですが、そうであるならば、自分にとって望ましい「物語」を採用すればいい。

本書では「読書」を例に説明しています。

あなたが「私は根本的に読書家なのだ」と自己を定義していた場合は、(中略)もし集中が続かなそうな状況に襲われたとしても、反射的に「読書家」という自己像を守ろうとする意識が働き、本の内容に意識をもどす確率が自然に上がる

ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45

これは、「自分は読書家であり、読書家であるならば本を読み通すことができる」という物語を採用したケースです。

このように、物語を“でっち上げる”ことで自分(アイデンティティ)を変えることができるようです。

これは読書以外にも使えます。

ランニングに集中したければ「私はランナーだ」と自分を定義し、仕事に集中したければ「私は仕事をやり抜くタイプの人間なのだ」と自分を定義する──。

ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45

しかしながら、ことはそう簡単にいきません。
新しい物語を作ったからといって、全てが思うようにいかないのが世の常。

本書でもこのように言っています。

個人の世界観がそう簡単に再定義できるなら苦労はありません。私たちが抱く世界観とは、長年の暮らしで少しずつ構築された生活習慣病のようなものであり、改善するには相応の時間が必要になります。

ヤバい集中力 1日ブッ通しでアタマが冴えわたる神ライフハック45

基本的には反復して、何度も自分に刷り込んでくることが必要なのですが、ショートカットする方法があるようです。

そんなショートカットの方法を、本書から一つ紹介したいと思います。


ステレオタイピング

ステレオタイピングは、「有能な人を思い描くだけでも人間のパフォーマンスはアップする」という現象を指す言葉です。(中略)
ステレオタイピングには、あなたが作る物語に彩りを添える働きがあります。おもしろい物語を生み出すには、個性的なキャラが欠かせません。(中略)ヨーダやガンダルフのように自分を導くキャラがいてくれれば、あなたの物語は鮮明さを増すでしょう。

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これは、『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』という本でも類似のことが書かれていました。

本書では、「キャラクターと物語の関係は、相互に影響を与え合う関係にある」とし、キャラクターは物語を動かす原動力となり、物語はキャラクターの成長を促すとしています。

これはここまで見てきた文脈とも一致しますね。

また、本書で提示される、なりたいキャラクター像を設定し、そのキャラクターになりきって行動することで、現実世界を自分の物語として展開していくという考え方は、ステレオタイピングに共通しています。

具体的にはどちらも、理想的なイメージを設定し、それに向かって行動することによって、パフォーマンスや行動に変化をもたらすという点で共通しています。

このように、ステレオタイピングすることは、アイデンティティを書き換え、自分の望む物語を紡いでいく一助になります。


というわけで、物語とアイデンティティについて書いてみました。

これが何かのお役に立てれば幸いです。

ではでは!

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