【Traveling】令0603〈03.中洲,天神〉
1.歓楽街〈中洲〉
博多川を渡り,那珂川に挟まれた文字通り「中洲」へと入る。
「中洲」交差点から北側。
この筋は「中洲中央通り」で,この「明治通り」から「昭和通り」へと繋がる。
明治通りより北側は,それほど歓楽街色は濃くないようである。
「中洲中央通り」を南方へ入る。
ああぁぁぁ。カンラクカンラクしてきている。すごい。
西日本一の歓楽街として名高い福岡・中洲。
新宿・歌舞伎町,札幌・すすきのと並ぶ「日本三大歓楽街」として括られることもある。
夕方ともなると,夜の街でも人通りも出てくる。
入り組んだ道に入っていくと色々発見が有るだろうが,あまり,小路に深入りしないようにしつつ…。
一瞬,通ってきた川端通方面を覗く。
アーケードがちらっと見える,明治橋の通り。
博多川が全く見えないので,地続きのようにも見える。かなり近接している。
中洲のメイン通りは,木の枝っぷしのようにカクッカクッ,と角度をつけて進んでゆく。三戸の旧国道みたいに(伝わるでしょうか)。
市街地の真ん中にある歓楽街は漠然と直交路のイメージがあったが,ここは立地が特殊すぎる。この斜交する道路も「中州」という地形の故だろう。
来た道を振り返る。
この「街灯が少しずつ灯っていく時間帯」が実は好きで,この時の中洲もそうだったろうと思う。次第に点る街灯は,雫石や六戸が印象的だったなあ。
2.川縁〈那珂川〉
中洲の那珂川河岸へ。
あぁぁぁぁぁぁぁ。
川だ。川ですよ。
大都市には水場が必要だと思う。空の色を映す水面が。
都市における水場オタクである自覚は持っているつもりだ。
良い。
中洲はこの那珂川が運搬してきた土砂が形成したのである。
奥にはキャナルシティが顔を覗かせている。
川べりの歓楽街,中洲。
福岡でしか観られない光景だと思う。とても好きである。
夜に来たらネオンサイン,広告看板の光なんかがさぞかし綺麗なんだろう。
那珂川通りには屋台が軒を連ねるという。
ここに架かるのは「福博であい橋」。向こう岸はもう「福岡・天神」。
中洲は,福岡城と商人町博多を結ぶために架けられた橋から始まった。
この橋を渡ると,行政区も博多区から中央区へと代わる。
川に面する広告看板が愛おしい。
であい橋中央からそれぞれ南側,北側。
陽が沈んでゆく。
真っ白の吹雪だった花巻とは正反対の,広く澄んだ3月の淡い青空である。
この那珂川の風景は,この旅の中でも印象的な場面だった。
FUKUOKAモニュメントがこの場所にあるのも,かなり理解している(設置者が)。
撮らざるを得ない。
中央区に入ると,旧福岡県公会堂迎賓館。
1910年(明治43年)にここ,西中洲に建てられた。
1981年まで県教育委員会の庁舎として使用されていたといい,結構最近まで現役の官庁として使用されていたことに驚く。
当初は解体予定だったというが,市民の訴えにより保存が決まり,84年には国の重要文化財に指定されている。
現代的なビルの立ち並ぶ福岡都心の一角に在る,この空間の大切さ。
ひと休みして,天神へ歩きだす。
3.変革〈渡辺通り周辺〉
明治通りへ戻り,薬院新川を「天神橋」で渡る。
「薬院」に後置的に「新」がついているのが気になりつつ,二級河川の標識を撮る。
アクロス福岡北側を歩く。
ああ,陽が。
17時49分,照りつける西日がビルの隙間から両眼に飛び込んでくる。
地元はどれくらいの時刻に日が沈んだっけ,どうだっけ……。
ときどきピントが合わない写真も生まれる。
「天神1丁目」,相変わらず西鉄バスが傍をひっきりなしに通過していく。
工事現場の白い囲いに掲げてあったのは,「天神ビッグバン」のロゴマーク。
「天神ビッグバン」は福岡市主導の都市再開発誘導事業。
2015年から,国家戦略特区指定による建物高の規制緩和等を含め,老朽化の進んだ天神地区内のビル建替えを促し,民間投資を呼び込むことで雇用の増進,都市機能の活性化を図る。
15年2月〜23年3月までの建築確認申請数は63棟,23年3月時点での竣工棟数は52棟に上る(福岡市HPより)。
この工事現場は「天神一丁目南ブロック」内の「福ビル街区建替プロジェクト」にあたる場所で,絶賛工事中であった。
この後も天神の街中では幾度ともなく聳え立つクレーンを目撃することになり,大変革を控える天神の現状に気付かされた。
九州一の繁華街の名を冠する「天神」交差点に辿り着いた。
博多とはまた異なるまちの骨格を感じる。
この大通りが「渡辺通り」。天神を南北に貫く主要道路である。
福岡パルコ。天神の超一等地だ。
永らく空きビルだった天神岩田屋跡へ2010年に開業した。
この本館は地上8階,地下1階建て,店舗数は約150。
2022年度の売上高は197億円であり,パルコ中第5位を誇る。
「天神」交差点から「昭和通り」と交わる「天神橋口」交差点方面を観る。
渡辺通りは少し西に曲がっているので,ミーナ天神が正面に見える。右隣には福岡中央郵便局。局舎ビルは「ビッグバン」による建替対象である。
「天神橋口」交差点まで歩き,暫く行き交う車を眺める。
ときどき「日田」や「長崎」,「佐賀」なんかを表示した高速バスが通り過ぎるのが楽しい。福岡と九州各地を結ぶ,高速バスネットワーク。
福岡の街中は結構佐賀ナンバーが多いんだな,という気付きもあった。
楽しすぎるらしい。いがったなす。
実はこの辺りで結構寒さを感じていた。
地元よりは数℃高かったと思うが,体感はあまり変わらないように感じた。
厚手では荷物になるだろう,と考えて,どちらかと言うと薄手の上着を着てきたからだろうか。
生粋の末端冷え性であるから,歩いている分には足先は温まるが,振られるだけでほぼ仕事をしない手先は凍える冷たさだった(机に向かって筆記する時は逆になる)。
「天神北」交差点から須崎橋方面。
那の津通りに斜めに突っ込む一本南側の通り。
彩度を増す陽光と明度を落とす陰とのコントラストが,強まってゆく。
都市高速に触れたのは初めてだと思う。
「URBAN EXPWY」の都会的な響きが良い。
4.雑踏〈きらめき通り,天神西通り周辺〉
渡辺通りから天神の内部へ入っていく。
パルコとソラリアステージとの間の空間,かなり好きかもしれない。
パルコを抜けると現れたのは新天町商店街へ繋がる通路だった。
アビスパ福岡の幕が目に入る。
「新天町」は「新しい天神町」から来ているという。なるほど。
この新天町ビルを抜けた先にアーケード街が広がっているが,パルコを含めた再開発により,この一帯も将来的には複合ビルとして再スタートを切るようだ。
時間の都合上,今回は新天町を歩くことは叶わず。
何時になるか判らない次回訪問時にとっておこうと思う(期限は僅かである)。
パルコと新天町ビルに挟まれた空間。
自動車メインの大通りから,歩行者メインの街中へ入る。
きらめき通り方面へ歩こう。
「きらめき通り東口」。
市役所前の突き当たりから渡辺通りに交差して天神西通りにぶつかる「きらめき通り」は,天神でもかなりの往来をみる通り。
突き当たりは西鉄が所有・運営するファッションビル「ソラリアプラザ」。
ホテルも併設した17階建ての立派なビルで,'89年開業。
年代を感じる豪奢な造りの玄関に目を惹かれた。
西鉄福岡駅やバスターミナル,福岡三越の入居するソラリアターミナルビルの北側にあるのが'99年開業のソラリアステージ。下層は専門店街で,上層にはインキューブ,西鉄ホールが入居する。
…しかし,この西鉄グループの開発による一連の巨大施設群には目を見張るものがある。
三大都市圏以外で唯一「大手私鉄」に名を連ねる西日本鉄道。
鉄道,バス,物流,不動産など多角的な事業展開により福岡有数の大企業として君臨する。
私鉄という資本の強大な力が地元に与える影響に圧倒される。
きらめき通りを西へ。
見えてきたのは百貨店,岩田屋。
1936年,当時の九州鉄道福岡駅に隣接するターミナルデパートとして開業し,以来天神の発展を牽引してきた。
本館と新館の2館から成るが,元来の本館は現在の福岡パルコ本館の建物であったという。
両館ともウェーブをえがいたガラス張りの壁面意匠が特徴的で,モダンでとても綺麗な百貨店だなあ,と感じた。天神の街並みに良く似合っていると思う。
岩田屋の向かいにはファッションビル,ヴィオロと前述のソラリアプラザ。
大都会天神のど真ん中にも,軽トラが走っているんだなあ。
四つ角を大規模商業施設に囲まれたこの「きらめき通り中央」交差点は,やはり人通りに目を見張るものがある。
暫く交差点を眺めてみたりした。
何処に住んでいて,誰と行動していて,どの移動手段でやって来て,何処で買い物をして,何処で食事を摂り,何処へ歩くのか。
各々千差万別であるが,目的を持って特定の方向にその歩みを向けているのは確かである。
この街の内情をほとんど知り得ない部外者中の部外者であるから,あくまでも想像に留めながら,ぼんやりと雑踏を眺めていた。
きっと,その人その人に決まった動線やルートがある。
雑踏はその交錯の結果である。
自分がこの街の住人だったら如何だろう。
西鉄の駅から出て,ソラリアステージで文房具でも見るだろうか。
週末は家族と天神に来るだろうか。
友人と,この交差点を通るだろうか。
街中で知り合いと会うだろうか。
日常生活に必要な行動としての意思が介在する結果の動きなのであるとしたら,結局は全部,本当に住んでみないと判らない。
自分はいま,この景色を120%非日常としてしか捉えられないから。
これが訪問者としての視点の限界である。
が,想像して損は一切無いだろう,とも思うのだった。
警固公園方面へ歩きだす。
西鉄福岡駅,福岡三越,天神高速バスターミナルが入る「ソラリアターミナルビル」を裏側から見る。ソラリアプラザにも囲まれたこの広い空間が警固公園。ビル群に囲まれながらも,神社はおそらく昔と変わらない姿で鎮座している。
この辺りで気になったのは,通りすがりに聞こえる中国語や韓国語の多さ。
韓国語も多少聞こえるが,とにかく中国語が割合多く聞こえてくる。
東アジアに対するフロント的位置に立地する,この福岡の訪日観光客事情が垣間見えた気がする。
少し路地チックな警固参道を西へ進むとぶつかるのが,天神における歩行者のもう一つの軸,「天神西通り」。
渡辺通りやきらめき通りとは異なり,旗艦的な大規模ビルというよりかは比較的小規模なテナントビルが軒を連ねる。
道にせり出す数多もの看板が輝く,繁華街らしい繁華街をした通りだ。
西通りと国体道路が交わる,ドン・キホーテ前の交差点。
正直,訪問前に地図で見た限りでは繁華街の端の方面に見えたので,とんでもない人通りに驚いた。
それこそ歩行者の動線のぶつかる交点だと思う。
踵を返し,西通りを大名方面へ。
歩道の幅の割に本当に人が多い。すれ違うのにも難儀するくらいだ。
所々で脇道を覗くと,道を跨ぐ幾つもの連絡通路が見える。
大規模なビルがひしめく西鉄駅まわりの特徴的な光景だと思う。
5.疑似的帰路〈キャナルシティ,地下鉄〉
ふう,ちょっと疲れた。
18時41分,陽はとっぷりと沈み,福岡空港に降り立ってから早くも2時間以上が経っていた。
喧騒から距離を置こうと見つけたのがこの芝生空間。
「福岡大名ガーデンシティ」の中にある広場だった。
静かでいい。
ほとんど人がいない。
暫く腰掛けて,ぼーっとしていた。旅はまだ始まったばかりだ。
明日は長崎だな。楽しみだ。
そんなことを考えながら,そろそろ夕餉を取り込みたいところだなあ,と腹の中と相談する。
キャナルで何か,折角だしラーメンでも食べようかな,と考えた。
結構脚がアレだったので,赤坂駅まで歩いて,そこから地下鉄で向かおう,と考えた。
空港線だば中洲川端から歩がねばねえごったし,櫛田神社前で降りるすけ,七隈線さ乗り換えないばな………。
とか母国語で考えながら,にわかに飲み屋の店内が灯り始めた大名を突っ切り,赤坂駅へ歩き出した。
ちなみに,ここから写真は急減する。
疲れると一気にシャッターを切る気力が無くなるらしい(分かり易い)。
ガラガラの赤坂駅ホームで,「福岡空港ゆき電車」を待つ。
〈6.3月2日 19:02~19:04 福岡市地下鉄空港線 福岡空港行き(赤坂~天神)〉
天神で降りた。
今振り返って書いていると解るが,かなりの無駄足ではないか…(笑)。
そのまま天神へ徒歩で戻る,という頭が無かったのだろう。
天神駅を出て,地下街を経由して天神南駅へ向かう。
なっっっがい。
結構歩くんだなあ…。
東京駅のごった返す地下街だとか,相鉄ジョイナスだとかを思い出す。
博多まで七隈線が伸びる前は,わざわざこの乗り換えをこなしていたのか,とはっとした。
思わず全世界に嗚咽を漏らす当時の自分。
真っ白な七隈線改札をハチカで通り抜け,ホームに立つ。
ここで偶然博多弁使いのサラリーマン2人組の背後に並び,肥筑方言を味わった。
数ある日本語の方言でも,かなり好きな方言。
オープンでくだけた印象をもつからだ。外の人間にも親しみやすい。
〈7.3月2日 19:25~19:27 福岡市地下鉄七隈線 博多行き(天神南~櫛田神社前)〉
櫛田神社前駅で降車し,夕方通ったあの歩道橋からキャナルシティへ向かう。
前も後ろも中国語の集団。凄いな……。
やっとで建物へと入り,黙々とエスカレーターを昇り続ける。
何だこれ…………………。
これがあの「キャナルシティ博多」。
あまりに,とんでもない。
画角に収まりきる訳がない。
どこか,日本でないような気すらした。
どうやったら,こんな超弩級のハコが建つのだろう。
いやあ…………。
半ば思考停止に陥りながら,勢いよく噴き上げる噴水を眺めていた。
福岡の人はこれが日常にあるんだもんな。凄い。
我に帰り,夕飯へ。
博多ラーメン。
地元の濃い煮干ラーメンが好きな人間だけれども,美味しく食べられた。
よし,宿へ行かねば。
来たエスカレーターを戻り,再び七隈線へ。
今日から2日間泊まる宿は,福北ゆたか線沿線にある。
予定していたチェックイン時刻より遅れそうであったので,連絡を入れた。
結局その日にならないと,チェックインの時刻ってあまり掴めない。
〈8.3月2日 20:34~20:35 福岡市地下鉄七隈線 博多行き(櫛田神社前~博多)〉
博多駅に到着。
まだ真新しいホームに折り返しの橋本行き電車。
右往左往しながら,JR線の改札へ向かう。
広い広い博多駅はまだ掴みきれない。
福北ゆたか線は端の8番のりばだった。
列に続いてホームへ。
8番ホームは奥まった場所にあるらしい。
向かい側ホームを眺めてみる。
九州らしいフォルムの特急列車が発車していった。何処へ行くんだろう。
快速直方行きが停まっている。
土曜夜,今日の福岡市の昼間人口を支えた人たちが家路に就く。
ちょうど車内が埋まる程度の乗車率で,少なくもなく,満員というわけでもなく。
快速は見送って次の各停に乗車する。
ドアの煤けた窓から「はかた」の文字を凝視しながら,動き出した列車に身を揺られる。
〈04〉へ続く。