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信じられないぐらい幸せな経験と悲しい出来事が今日も、自分の価値観、考え方を揺さぶり続けている話。

独自の世界観を持つ人に憧れていた。「休日は家にこもってヘッドフォンで音楽を聴くのが至福の時間だ」と話す人になりたかった。親しくなりたい人の好きなバンドが偶然にもLINKIN PARKだった。憧れの連鎖がいつの日か私とA Thousand Sunsを電撃的に出会わせる事になる。高田馬場のCDショップでChester Benningtonの歌声、この世で一番好きだと感じた声に出会ってしまったのだ。

10年前のSUMMER SONIC2013東京前日。BAPE渋谷店に開店前から並ぶこと数時間。先着100人限定だった(と思う)コラボTシャツを購入し、サイン会の整理券をもらって夕方に再集合。日が暮れた店の前には既に無数の人だかりができており 店内には既にメンバー全員の姿があった。中では取材や撮影が行われており ガラス越しに食い入るように見つめていると Chesterが笑顔で手を振ってくれたり  Mike Shinodaがこちらの写真を撮ってくれたりした。夢みたいな現実だった。

メンバー全員と会える券

高鳴る胸の鼓動を抑え 店内へと案内されるとファンは各々サインを書いてもらいたいものを持って 壁沿いに並ばされた。「これからメンバー全員が歩いて回ってきますから」という予想外のアナウンスと共に。こちらへ向かってくるChesterの姿を見た瞬間に感情があふれ 泣きながら「大好きです。ハグしてください...」と言うのがおこがましくも精一杯。あの吸い込まれてしまいそうな笑顔で「Thank you〜」と快くハグしてくれた瞬間 二十歳の私は一度そこで死んでしまった。

帰り道はいつもの渋谷の景色が輝いて見えた。日常の中に潜む非現実の尊さに「生きててよかった」などと口ずさみながら帰った夜、次の日はサマソニだった。昨日の余韻を抱き締めながら灼熱の中で初めて観るリンキン。あまりにも完璧すぎた2013年の夏休み。

それから4年の月日が経過し 久しぶりの来日公演が発表され 跳び上がるほど喜んだ私は Meet&Greet付き6万円のチケットをほとんど躊躇する事なく購入した。幕張メッセで10番台、想像しただけでクラクラしてきた。生きていれば必ずきっとまた会える。どれほどあなたの存在に、歌声に救われ続けてきたかを今度こそ伝えきりたい。サイン会の途中から一緒に写真を撮ってもいい流れになったというのにChesterとは華麗に撮りそびれてしまった写真も、そこで。

多忙すぎる毎日だったが、再会の秋を励みに生きていた。胸が張り裂けるような出来事が起きてしまうまでは。チケットはただの紙切れになり、お金は払い戻され、理解しがたいような どこまでも深く救いようのない悲しみが残った。人はいつか必ず死ぬという至極当然の事実を無慈悲にも突きつけられ 立ち直れなかった。音楽を聴く意味が失われ 誰の声も聴く気が起きなかった。なんのために生きているのか、生かされているのかわからなくなった。2017年の夏は一番生きた心地がしない夏だったと今振り返っても思う。

時の流れが悲しみを軽減させ、打ち消してくれる事なんてなかったが、それでも時計の針は進み続ける。来日公演に行く予定だった日はCROSSFAITHの名古屋ライブに、その翌日はcoldrainとの対バンライブを観に行った。まさか聴けるなんて思っていなかったDemise And Kissをやってくれただけで感激した。すると突然、馴染み深いイントロが流れてきた。全身に衝撃が走った。会いたくてたまらなかったチェスターが目の前に現れて自分に向けて歌ってくれているようだった。何年もずっと見たかった光景が目の前に映し出された。MasatoさんがChesterにしか見えなかった。泣きじゃくる私に一緒に見ていた友達がそっと寄り添ってくれた。人生で何度再生したかわからないFaintの魂こもったカバーだった。

一生忘れられない夜

思い返せば 来日公演をただ待つのみだった自分は人生でたったの1回しか最愛のバンドを観る事ができなかった。あふれるほどの感謝の気持ちを十全に伝えきる事ができなかった経験。今でも折に触れては思ってしまう、新しいアルバムが出ないだろうかと。次はいつ来日してくれるのだろうかと。リンキンを観て感動している自分の姿が容易に想像できてしまう。2018年のサマソニでMikeが来日して歌ってくれた時のIn the End、Chesterのパートはみんなで歌った。誰も埋める事のできない大きすぎる空白。きっとこの傷は癒える事がない。

宝物のTシャツと

それでもやはりフェスやライブハウスに行った際ふいに彼の歌が聞こえてくると その存在を感じられてうれしくなる。「Chesterのシャウトは世界一」「出会わなかったら今の自分はいない」「彼の声、彼の痛みを決して忘れない」そう表現した人が今でも好きだ。偉大なるその存在は今も昔も変わらず私の人生を照らしてくれている。

「Chesterの歌声と結婚したいわ」などと言っている私は周囲の人たちからすっかり置いてけぼりを食らっている。同級生のSNSが「結婚した」「子ども生まれた」「子どもが何歳になった」の三拍子だとすれば私は「ライブ行った」「大好きな曲が聴けた」「生きててよかった」の三拍子だ。「楽しそうでいいね。好きなものがあっていいね」と言われる。それでも「一過性の趣味でしょ」などと いとも簡単な言葉で片付けられ「いつまでライブ行ってるの?」と言われた事もある。「好きな人がやめるまで」とでも回答すればいいのか?

ありきたりな日常における、無数の選択の積み重ねの先に、私はChesterに会えた。29年生きてきて人生最大の経験であり誇りである。信じられない事ばかり起こるのが人生だ。他人の幸せはさておき、自分にとっての幸せだと思える出来事、心から好きなものを大切にした方がいい。好きじゃないものはどう頑張っても愛せない。

Chesterがこの世に居ないなんて、いまだに信じられない。彼の姿に憧れてバンドを始めたというわけでもない私は、生のライブを観なかったなら、実際に会わなかったなら、これほどの衝撃を受けなかったと思う。「悲しい」などとツイートして次の日にはケロッと楽しい写真でも上げていたかもしれない。でも本当の悲しみなんてそんな一瞬で癒えるはずがない。あの日を境に自分の人生で大切にしたい事がすっかり変わってしまった。いずれ互いに居なくなるのだとしても、いつかは必ず別れるのだとしても、何回だって好きな人に会いたいと願うし もう二度と聴けない曲の分まで好きな曲を全部生で聴いてから死にたい。Chesterに直接愛を伝えられてから今年の夏で丸10年が経とうとしている。これから先も、いつだって愛する音楽と共に生きる人生を。



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