『人と組織の関係性』 加納一樹×安藤健ダイアローグセッション【Dialogue in the SHIP 2022 〜価値観の対話〜④】
2022年12月10日、ヘルスケアコミュニティSHIPのイベント「Dialogue in the SHIP 2021 〜価値観の対話〜」が行われました。この記事では「人と組織との関係性」をテーマに人事領域で働くお二人が対話したセッションをレポートします。
Dialog in the SHIPは医療・介護・福祉業界で活躍するゲストの方々をお迎えし、トークセッションを通じて、さまざまな価値観に触れることのできるイベントです。4回目となる今回のテーマは「対話を通じて関係性を考える日」。人がいるところでは必ず生じる人と人との関係性について、4つの切り口から考えました。
プロフィール
●加納一樹さん(まちだ丘の上病院 人事課長/経営企画室室長)
医療人材紹介、医療経営コンサルタントを経て、まちだ丘の上病院に入職。人事課長、経営企画室室長に就任し、人事、経営企画、組織開発、マーケティング業務に務わる。個人として、人事・組織開発コンサルティングや医療介護福祉に関わる人のコーチングを実施。2018年にヘルスケアオンラインコミュニティSHIPを立ち上げ、現在も運営。慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科公衆衛生学コース修了(MPH)
●安藤健さん(株式会社人材研究所シニアコンサルタント)
組織人事に関わる人のためのオンラインコミュニティ『人事心理塾』代表。青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人材研究所へ入社、2018年から現職。これまで大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務と、心理学の知見(関連する統計学や組織論も含めて)を踏まえた数多くの組織人事コンサルティングに従事。企業の面接官向けトレーニングや採用時に使用する「適性検査」の開発などにも携わる。デジタルハリウッド大学、情報経営イノベーション専門職大学の教員。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)、『新しい自己分析の教科書』(日本実業出版社)など。その他『日経ビジネス電子版』にて人事・マネジメント系コラム「安藤健の人事解体論」を連載中。
対話は大事だと思うけれど。組織のなかでの関係性をつくる難しさ
加納:さあ、灰色の時間を始めましょう。
「人と組織の関係性」という、かなり大きなテーマですが、まずは自己紹介からいきましょうか。
安藤:私は人材研究所という、人事、組織のコンサルティングをやっている会社で、外部から組織をサポートする仕事をしています。
加納さんと最初にお会いしたのは研修でしたね。
医療系の組織の仕事で自分と共通する思いを持っていて、ここまで現場に入り込んでやってらっしゃる方がいるんだと知って自分も触発されまして、最近携わるようになった医療業界の案件も熱意を注いでやっているところです。
加納:うれしいですね。
僕はもともと医療系の人材紹介の仕事をしていて、その後、経営コンサルに入って医療HR周りをやっている時に、ストレスと性格の研究から生まれたFSS理論に興味を持ちまして。安藤さんと研修で一緒になったのは、その辺りの研修を受け出した頃でした。
僕もずっと外から医療系組織を見てきて色々学びも得てきていたので、今度は中から組織開発に関わってみたいと思って医療機関で働くようになり、今は人事の責任者のような立場で仕事をしています。
ただ思っていたことは現場では全然できないですね。組織や人の話って、頭で思うようなことはほとんどできないじゃないですか。
安藤:う〜ん、そうですね。
加納:そうした日々の葛藤みたいなものも今日は話してみたいと思っています。
よく「医療業界にいる」というと、人事や組織開発の仕事をしている他の業界の方から「大変ですね」と言われるんです。たしかに大変なことは色々ありますが、安藤さんはどう見てます?一般業界と医療業界の組織開発は何が違うんでしょうね?
安藤:全然違いますよね。
違いは2つあって、1つは医療業界の場合、お金の稼ぎ方が基本的に固定されているという点があります。
組織の形というものは事業戦略やビジネスモデル、経営者の思想にしたがってつくられるのが原理原則だとすると、医療業界はそのあたりがフリーじゃないですよね。
たとえば、人事制度でがんばっている人を評価しても、そのがんばりに報酬や給与で報いる仕組みをなかなか自由につくれないという難しさがあります。
加納:どうしようもない部分はありますね。
決まった報酬があるなかでの、パイの分配になってしまう。
安藤:もう一つ特徴的だと感じているのは専門職の集まりだということです。
一般的な組織のなかにも営業、エンジニア、マーケターなど多様な職種の人が働いていますが、医療業界ほど「連携」という言葉は聞かれません。
医療業界では「多職種連携」が非常に重要で、研究が進んでいるんですよね。これはなぜだろうと考えると、職種における業務独占、名称独占というのはあるのかなと思いますね。
加納:なるほど。多職種が連携していこうとすると色々問題も出てきますが、その問題を制度で解決しにいくのか、対話で解決しにいくのかって結構、難しい問題だと感じていて。
色々アプローチがあると思うんですが、安藤さんはどういうところからアプローチしますか?たとえばもし目の前に関係性の良くない多職種のチームがいた時、何から始めます?
安藤:僕は仕組みから変えていきますね。なぜなら、着手できるのが早いからです。
どちらもやらないといけないと思いますが、関係性を見直すのは時間がかかりますよね。
組織を変えていくにはハード・ソフト両面のアプローチが必要で、両輪が一貫して動いていることがいちばん大事だと思うんですが、着手しやすいのは仕組みだと思います。
今日のテーマにもなっている関係性をどう見直していくか、これは難しいですよね。
加納:組織のなかで関係性をつくるのは、むちゃくちゃ難しいですね。
「心理的安全性」という言葉が注目されて、対話を通じた関係改善でパフォーマンスを最大限に引き出していこうとする文脈は多いと思うんです。
ただ「いいよね、いいよね。」みたいな話をしていても前には進まないじゃないですか。アウトカムは出さないといけないし。
友達と仲良くなるのとはワケが違うので、組織のなかで本当の心理的安全性や関係性を追求していくっていうのは難しいですよね。
なぜ人は心理的安全性の高い状態をつくろうと思えるのか
安藤:そこ、実は今日話したいと思っているところです。
我々の仕事って「そもそも組織ってなんだろう?」って考えさせられる仕事ですよね。組織と組織でない人の集まりの違いって、何だと思います?
加納:答えられる気がしない(笑)
オーソドックスな回答でいうと、目的があるかどうかですよね。
グループとチームの違いでもいいますが、ビジョンを達成するためといったように、何かしらの目的のために集まっているのが組織だと考えています。
安藤:チェスター・バーナードっていう組織論の大家みたいな人がいるんですが、彼が組織を定義する要素を3つ挙げているんですね。
1つは今おっしゃった目的ですね。2つ目は組織成員がチームのために貢献しようとする意欲、メンバーのモチベーションです。3つ目が僕はいちばん大切だと思うんですが、コミュニケーションなんです。
関係性を深めていくとか、関係性が悪化するとか言いますが、具体的な行動としてはコミュニケーションに尽きると思うんです。
ただ、そのコミュニケーションというものがつかみどころがないから難しい。それで「心理的安全性」とか「対話」とか、みんな色んな言い方をするんだと思うんです。
加納:なるほど、コミュニケーションをどうするかという話のなかで「心理的安全性」や「対話」が出てくるんじゃないか、ということですね。
安藤:そうですね、すべてはコミュニケーションに帰結すると思うんですよ。
加納:そうすると、みんなはどういうモチベーションでコミュニケーションを高めようと思うんだろう?
仕事に対する価値観は人それぞれで、たとえば、誰とも話さなくてもちゃんと働いてればいいと考えている人もいますよね。仕事相手とコミュニケーションをとろうというモチベーションはどこから出てくるの?
安藤:それは根源的な欲求というんでしょうか。
僕は、コミュニケーションをとらずに完結する仕事はひとつもないと思うんですよ。
就職活動でよく「コミュニケーションが苦手なので、人と話さなくていい仕事につきたい」という学生がいるんですが、たとえば、個人事業主だって営業する相手は人ですよね。一人でこもって仕事をしていそうな漫画家だって、編集者としっかり息が合わないとうまくいきません。
加納:たしかに。そういう意味では、どんな人でも絶対に仕事上でコミュニケーションはとるのか。
人と話さずに仕事はできないとしても、「心理的安全性」が求めるコミュニケーションってレベルが高いですよね。日常会話から一歩踏み込んで、耳の痛い会話、お互いを高め合うような議論をやっていかないといけない。
小さなスタートアップが「この組織を何とかしよう」と結束するのはわかるけど、なぜ決して楽ではないコミュニケーションをメンバーがとろうと思えるんだろう?
安藤:それはやっぱり、心理的安全性がある状態での会話から得られるものが大きいからだと思います。
ちなみに、僕と加納さんはよくディスカッションもしていて、ここの関係性では心理的安全性があると信じてるんですけど、あります?
加納:僕はあると思ってるけど、今は画面に映ってるんで緊張感はあります(笑)
安藤:今の場はね(笑)
普段お話しするなかでは「僕はそうは思わない」と自分の意見が否定されるような会話もあると思うんですが、話し終わった後にスッキリした、気持ちいいなという感じがしません?
その快感が人が「心理的安全性」を渇望する目的ではないかと僕は思います。
加納:なるほどなぁ。
そう思うと、やっぱり難しいよね。
普通に考えて、会議でも下を向いて反対意見なんて言わないでいる方が絶対いいじゃない。「そうは思わない」と言い出すのはすごく勇気が要る。
それでも、組織内のコミュニケーションを大事にしていこうと思うと、その壁を乗り越えて双方向でのやりとりを生み出していく必要はあるよね。
安藤:「心理的安全性」って、決して特別なものじゃないと僕は思うんです。
たとえば友達関係で、親友になる人とならない人の違いはなんでしょう。
耳の痛いことを言ったり、自己開示をしたりするなかで、パーソナリティをどれだけさらけだせるかだと思うんですね。お互いにさらけ出せる関係が築けた時に、気付いたら親友になっている。
組織でもそれは同じじゃないかと僕は思っています。
組織のなかで自己開示しようと思えるには何が必要?
加納:組織というのは非常に自己開示がしにくい場所ですよね。
評価や業務について本音を伝えたとき、「よく言ってくれた」と組織の問題として捉えてもらえることもあるけれど、単に個人の我がままだと思われてしまうこともあります。
関係性を築く自己開示って、どうすれば組織のなかでも上手くできるんですかね?
安藤:たしかに自己開示するには、場やきっかけが必要ですよね。
プロジェクトのキックオフでいきなり「実は自分はこういう人間なんです」と開示されたら、聞かされた方はひいてしまいます。
自己開示にも方法があって、「玉ねぎモデル」というのがよく知られています。
玉ねぎの皮を1枚1枚めくっていくと最後に芯の部分にたどりつくように、最初は「住んでいるところ」「出身地」などの表層の情報からはじまって、徐々に「趣味」や「過去にやっていたこと」へと深まっていくんですね。そうやって少しつづ「今抱えている悩み」のようなコアに迫っていくと、聞き手も準備ができるわけです。そういったプロセスは必要だと思いますね。
加納:そうすると、にわとりとたまごじゃないですが、関係性があるから自己開示できるのか、自己開示したから関係性が深まったのか、どちらなんでしょうね。
メンバーが自己開示しやすいように上長からあえて先に開示するというようなスキルはあると思うけど、関係性が何もできていない状態でメンバーの方から「実は、こういう悩みがあって」と開示してくれるのはミラクルですよね。
安藤:なかなか、あることではないですね。
だから、僕ら人事や人事コンサルタントというのが存在するんだと思うんです。
本当は自然発生的に関係を深めるようなコミュニケーションが生まれていけばいいんだけれど、それはやっぱり難しい。だからこそ、自然な自己開示ができる場を用意するというのが僕らの仕事なんじゃないですかね?
加納:いいこと、いいますね(笑)そうそう、そうなんだよなぁ。
加納:少しずつお互いに自分を開示していって関係を深めていくことが結局は近道だとは思うけれども、それってすごく遠回りというか。対話の最大の敵は時間ですよね。
何かを決めなければならない時にもっと背景が知りたい、色んなことを知った上でやっていきたいと思うけど、決めなければならないというような状況は往々にして生まれます。
安藤:組織のもう一つの特徴として「目的がある」のほかに「タイムリミット」もありますね。
家族関係や友人関係には基本的にタイムリミットはないけれども、組織にはプロジェクトや事業計画があって、期限があるなかで成果を出していかないといけないので、悠長にはやっていられないですよね。
加納:特に、医療が難しいのはコロナもそうですけど、緊急度も重要度も高い問題が多いんですよね。本当は対話したいけど、目の前に重傷者がいる、感染が拡大しているといった状況では話すことに時間をかけられない。
医療・介護・福祉関係の組織はそもそも構造的に対話がなくなりやすいんですよね。でも、だからこそ、対話が必要だと思うんです。意識しないと勝手に対話が消えていくから。
安藤:いちばんの優先順位は命ですもんね。
「悠長に対話している場合ではない」というのはその通りだと僕も思います。
加納:でも、やっぱり「対話や話し合いは大事だ」という文化を組織内につくっていくことは大事だと思うんです。それは誰がするべきなのかというのも悩むところですね。
人事なのか、経営者なのか。組織文化にもつながることじゃないですか。
安藤:経営者、人事、部長などの現場のトップ、その辺りが一枚岩になって対話を重視する考えを持っておかないとまずいですよね。
現場が忙しすぎて、人事が研修を企画しても「受けている時間がない」といわれることはよくあると思うんです。
ここはあまり詳しくないんですが、ある医療系の事業法人では稼働率を6〜8割に抑えているそうです。赤字の病院も多いなかで、どこまでそういう方法を許容できるかという話はありますけどね。
加納:余裕がないところには対話は生まれないですね。
すごく忙しくて帰るのも遅い、目の前に色んな問題があって困ってるなかで「対話しましょう」というのは、言ってしまえば経営のエゴだと思う。
だから、「現場の人たちは今何を感じていて、どこなら話したいと思えるか」を問うていくということになると思うんですが、それを上だけが考えるのでなくて、みんなでまず話し合おうという組織になるといいなと思いますね。そのためには対話研修も大事だけど、日々の業務のなかでやっていくことが大事なんじゃないだろうかとか、ずっと考えています。
心理的安全性は誰がつくっていくもの?対話に始まり対話に終わる人事制度
加納:「心理的安全性」をつくっていくにはまずマネジメント側がメンバーに寄り添っていかないといけないと思います。メンバー側から急に関係性を深めるために「さらけ出しましょう」みたいな感じにはならないから。
ただ、「心理的安全性」のある組織づくりに対しての責任がマネジメント側だけにあるかというと、そうとも言えないんじゃないかと思うんですよ。
安藤:僕も同じですね。「心理的安全性」って最近でてきた言葉ですけど、これって捉えどころのないものを経営陣が議論するために概念化しただけだと思うんです。
「従業員同士が仲良く、耳の痛いことも言い合えるような関係性をつくっていくにはどうしたらいいか」という経営会議のトピックを、端的に定義したものが一人歩きしているだけなのかなと。
加納:まぁ、言葉として便利だというのはありますね。
安藤:そもそも「心理的安全性」という概念自体、マネジメント側の都合で生まれてるものだと思うんです。個人的にそういうものはあまり好きではないんですが、言葉があることで「心理的安全性が大事だ」という考えが組織内のメンバーの心に浸透していくことには意義があると思います。
加納:ここまで「人と組織の関係性」について話してきて思うのは、我々は矛盾のなかで生きているんだなということです。
人や組織の問題って、「理論としてはこうだけど、実際どうだろう?」ということが多くて、白黒つかない灰色の世界なんですよね。
心理的安全性が大事だから評価制度は要らないかといったら、そんなことはない。結果の差は能力の差ではないからがんばっている全員を賞賛したい一方で、めちゃくちゃがんばって成果を出している人とそうでもない人の報酬が同じでいいのかという議論もある。
色んな矛盾が組織にあるなかでルールをつくったり、制度を設計していくことって、どう捉えていますか?
安藤:人事の仕事はやればやるほど、曖昧でグレーな世界に入っていきますよね。人事の仕事って、社員の給料や評価はいくらか、学生や求職者を入れるか入れないか、研修をやるかやらないかと白黒つけるだけのように思われがちなんですが、本気になればなるほど自分のなかで決めにくくなって、何が正しいのか分からなくなっていきます。
加納:そうですよね。
安藤:だけど、人と組織の可能性をどちらも最大化させたいという思いがあって仕事をしているじゃないですか。そこで一番大事なことは働く人たち全員が納得感があることなんじゃないかと思います。
たとえば、評価制度をどうするか。AKBの総選挙のように投票で誰が一番なのかをアナログに決めていく方法がいいのか、アップルウォッチみたいなものを全員がつけてデジタルに一番を評価するのがいいのか、どちらがいいのかは永遠に終わらない議論です。
でも、納得感があればいいんです、どちらの方法でも。
逆にいえば納得感をつくることは絶対に必要だと思います。
人事の仕事で設計と運用のどちらが重要かと言えば、設計は2割ぐらいしかないです。設計したものをどれだけ現場できちんと回してもらえるかにかかっていると思いますね。そのためには納得感をつくれるかどうかがすごく大事で、そこは仕事のなかでもいちばん気をつけているところです。
加納:その場合、何が納得感をうむんでしょう?
安藤:何でしょうね。難しいですけど、まず最初はそれぞれの話を聞けるかどうかですよね。
加納:そうか、そこに対話が生まれるのか。
安藤:生まれると思います。
人材育成や組織開発で言われる、いわゆる「ダイアローグ」なんじゃないですかね。
人が100人いたら100人全員、性格もキャリア観も、この会社で実現したいことも役割も違って、100人全員が納得する制度はつくれません。そこで大事なのが納得感をうむコミュニケーションだと思うんです。
「こういう方針で仕組みをつくりました。この制度にあなたの夢やキャリアはこう接続できます」ということをコミュニケーションしていくのはマニュアルではできないですよね。やっぱり人と人との対話だと思います。
対話から始めた制度設計が運用局面に入ってまたコミュニケーションにもどってくるんですよね。
無視できない人の気持ち。人の心理を踏まえた組織づくりとは?
加納:安藤さんは「人事心理塾」というコミュニティを運営されていますよね。心の領域に焦点を当てている背景をきいてみたいです。
僕もコーチングをやっていて思うんですが、頭で考えても心が納得しないと人は動かないですよね。意識領域でどれだけ必要だと理解しても無意識領域で心がざわざわしていたら動きたくない。
となると、心の話って人事のド本命だと思うんですけど、人と組織の関係性と心理的な部分との関わりはどう捉えていますか?
安藤:すべて、じゃないですかね。
月並みですけど、僕らの仕事って、みんなが生きがいを持って働けるとか、この仕事楽しいなと思って働ける環境を整えることだと思うんです。そこを仕事としてやっていく上で、心のことを知らなかったら何のアプローチもできませんよね。
心理学の世界では人の心について色んなことが理論化されています。ベテラン人事は現場経験のなかでそういったことを感覚的に知っていたりもしますが、勘と経験でやっていくと、その方が退職した時点ですべての知見が失われてしまいますよね。
「人事心理塾」は、本気で検証した理論や世の中にある研究と、実際の実務で培われてきた実践知をもっと接続した方がいいと思って、やっています。
心理学の研究成果について30分くらいシェアした後、参加している現場人事マンが「理論ではこう言われてるけど、実際こうだよね」と意見交換をするんです。その時間はまさに「対話」ですね。
加納:組織でも心の話をしたいと思った時に「加納一樹」としての心と「人事課長」という組織の役割が乖離することがあります。どちらかが大事なのではなく、どちらの僕も必要。そうやって相反する心と戦っているのはみんな同じだと思うんです。
そこで、また同じ問いに戻ってくるけど、組織の中でどう関係性を築いていくか。
安藤:これは自分のなかだけでの話ですけど、人生のなかで自分の価値観や嗜好と任されている役割をできるだけ近づけていくこと、これがキャリアを築いていく意味、人生の目標なんじゃないかと思いますね。
加納:とてもよくわかります。価値観と役割が近づくことは幸せにもつながりますね。
僕らはFSS理論を学んでいるので、活躍している人としていない人の差は能力の優劣ではなくて、その人を取り巻く外部環境やその人の特性の違いに過ぎないという基本思想は共通していると思うんです。
デキる人できない人はいなくて、ハマってるかハマってないかだと。まずその人がハマれるベースが整ったところにスキルが掛け合わさって能力を最大限に発揮できるわけで、土台の状況に目を向けないままスキルだけに目を向けるのはどうだろうか、と。
安藤:誰と働くか、チームの組み合わせは大事ですよね。
僕の考えでは「組織」というのは「その人の半径3m以内にいる人」だと思うんです。
社員1000人の大企業に勤めていても「うちの会社」という時に思い浮かべているのは普段関わっている人たちですよね。
転職会議のような口コミサイトを見ると、同じ会社のことについて全く違ったことが言われていて評価がバラバラです。これは自分に見えている範囲のなかで、組織を語っているからだと思うんです。
つまり、組織の関係性を良くしようとしたら、今、目の前にいる人たちとの組み合わせのなかで、どうしていくかを考えることになります。
そこで僕らにできることは、対話で社員にどうにかしてもらうのではなく、そもそも対話しやすい組み合わせをつくることだと思っています。
これはたしかにFSS的な考え方ですね。
悩むことしかないけれど、悩み続けていくこと大事
加納:いやぁ、一生話せますね。
一生話せると思うし、話していて反省しかない。
組織のなかでの関係性というのは「これでよかったんだろうか」と自問自答しながらも、意思決定はしないといけないから、悩みながら施策をうっていく、そういうものなのかもしれないですね。
そうやって手探りで積み重ねてきたことがアクのように浮き上がってきた時に、感覚でわかるベテラン人事みたいな領域にいけるのかな。だから、あきらめちゃいけないと思ってます。
安藤:僕らの仕事って、色んな意味で人の人生に関わるものだと思うんですよ。そういう仕事をする上で、どういう態度が誠実なのかというと、悩み続けることなんじゃないかと思います。
「もう分かった、人はこうだ。経験的にこうなるに違いない」と決めつけてしまうのは絶対にダメだと思うんです。
僕はそういう姿勢で仕事をしていきたいし、悩み続けていきたいですね。
加納:いいですね。
人と組織の関係性についての結論は「悩み続けよう」という。
安藤:そうですね。
加納:灰色の世界のなかで自分がどう耐えていくか、今日見てる方も色々悩んでる方も多いと思うんですが、正解はないからそれでいいというところで、ぜひ一緒に追究していきたいなと思いました。
安藤:一緒に悩んでいきたいですね。
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