🐒川柳光子猿🐵を読む
発行者の湊圭伍さんからの原稿提出条件は、サイズA5.モノクロで作成、というシンプルなものだったから様々なデザインのものが掲載されているのだろうなと思っていた。まさかそれぞれの頁に対して湊さんが評を書かれるとは予想外でちょっと驚いたけれど、ゆるい感じの評で笑えます。
特にお気に入りなのが小野寺里穂、南雲ゆゆ、森砂季の頁。
三名とも、とても画面の完成度が高い。いずれもどのような順番で句を読んでもよいように構成されており、(ただし連作の仕立てに一応なっているので世界観は保たれる)小野寺作品の美しさ、南雲作品のレトロミステリーな構成、昭和チラシの面白さを活用した森作品(いちばん川柳味があると思う)と、三人三様の個性が愉しめる。
提出句については一句出しの方から、数えきれない程たくさんの句を詰め込んだ方まで様々。 いくつか句を抜粋。
三男は隣の家に亡命した スズキ皐月
「三男」が絶妙。そして「亡命」というくらいだから、二度と実家へは帰ってこないんでしょう。「隣の家」に対してこのくらい大袈裟な言葉を並べると一気にドラマティックに世界が変わる。
特高の部屋に声優ゼミナール 川合大祐
「ゼミナール」って言葉、最近使うひと、いるのだろうか。
なんか懐かしい感があります。でも私は昭和生まれなので、この句が時事吟に見えてしまう。普通に怖いです。
肉をなだめて水際に立つ 小野寺里穂
名付けを逃れて仏滅を掘る 〃
湊さんがとても佳い評を書かれているので、小野寺さんの川柳がお好きな方は是非読んでみてください。それはそれとして、私は一句ごとに見つめてみました。
境目というのは魅力的なもので、掲句の水際もとても危うく、臨場感がゆらゆらしています。逃れて行く先が仏滅というのはものかなしいですが、そこを更に掘る、というのはなかなか激しい展開で、にわかにエネルギッシュ。このような展開を短句で表現する、作者の力量を感じます。
なぜひとつひとつの音が大きいの 南雲ゆゆ
花束のひどい出血 〃
「なぜ」ときかれても「なんでだろうねえ」としかお返事できそうにないのですが、「ひとつひとつ」は、まさにひとつだから。逆説的な問いかけのような気もします。
花束の句も、見たまんまの描写のようにも読めるし、深読みできる余地をわざととってあるようにも感じられるので、なぞ解きを楽しんでね!ということなのでしょう。
イラストを含め、仕掛けが多いつくり。ただし難解ではないところ、軽みのバランスがちょうどいい具合。
お電話で予約ください骨の果て 森砂季
労災が向こう側までおってくる 〃
骨盤をリリース(海に逃げていく) 〃
陰湿さがない、ドライなブラックジョーク。川柳らしい川柳の見せ方がとても上手で、面白い。
私は確認不足で当初カラーで作成をしてしまっており、モノクロで再作成する際にサイズのことを考慮して、句の数を少なくした。自己紹介的な文面もカラー版の時には入れていなかったのだけれど、画面自体を一から作り直すことになったため、ちょこっと入れた。
今見返すと、我ながらほんとうに謎の画面構成・・・。
やや遠い貯金箱から駒が出る 竹井紫乙
大人のパフェの中でお会いしませう 〃
壇ノ浦からの苦情受付中 〃
釘付けの古墳を揺らすメンターム 〃
読んでみたい方は、たぶんXアカウント@umiumasenryuのDMへ問い合わせるとよいのではないかと思います。300円(のはず)