『what's』vol.6を読む
広瀬ちえみさん編集・発行の文芸誌。
川柳・俳句・詩・エッセイ・句会報などなどで毎号ボリュームアップ中。
暗喩です紙に包んだものもらう 広瀬ちえみ
不穏なような、美味しそうなお菓子のような紙包み。
手に握らせるものにはみな、喩が潜んでいる。
回らないレンジに父が入りません(ように) 月波与生
毛量はパティ・スミスのそれである 叶裕
二句とも一読、吹き出してしまった。
(ように)が効いている。そしてパティ・スミスのぼさぼさ髪。
乾いたユーモアは、すっと心に入ってくるものだと思う。
季語やがて死語になる日の遠からず 鈴木節子
季語自体が関西を中心に設定されているのだろうけれど、それを差し引いても最近は気候変動がすさまじいので、幻のような扱いになってしまう言葉は
将来増える可能性がある。未来には未来の言葉が生まれて、また消えてゆくのだろう。
春という熱で膿んでいる北の国 佐渡真紀子
なごり雪今日はムーミン谷の雪 〃
秋田在住の作者。句には春へのひたむきな感情がきらきらしている。
不完全であろうと月は抗う 高橋かづき
林檎が欲しかっただけの母の出奔 水本石華
お月様の“まんまる”への反乱・・・。抗うことはとても大事ですね。
出奔の母が欲したのが林檎というのは意味深ですが、これも一種の抗い。
ハイカラが通り過ぎたら二度見せよ 兵頭全郎
かっこいい命令形! で、今時のハイカラって何なんだろ?
選挙中の戦争中の食事中 佐藤みさ子
目の前の空気を描いているこども 〃
樹を削る人のかたちが浮かぶまで 〃
みさ子さんの句はいつも無駄がない。身も蓋もないくらいに。
虚飾とは遠い書き方を貫いている。
回転椅子がどうしても反対に回る 中内火星
耳鼻咽喉科を避けてコンビニに行く 〃
拾った棒で蟻をイジイジしちゃう 〃
気持ちよく桜を見ていたら猿がいた 〃
お互いがセーターを脱ぐために会う 〃
今回の参加者の中で最も自由に句を書いているなと思った火星さん。
見習いたい。
自由といえば柳本々々さんが詩を五篇出されていて、(これはさすがに長いので引用できない)すごくおかしな詩ばかりで、そのおかしさが素敵。
特に「めがね」という詩がお気に入り。
多分、上記に引いた句群だけを見てどなたが俳人なのか、柳人なのか判断できる人は少ないと思われる。
編集者の広瀬ちえみさんの意向というか、趣旨でもある“境界は滲む”というエッセイにも書いてあることだけれど、ジャンルって何のためにあるの?という、ちえみさんの問いかけが反映された誌面となっていて、それは『what's』は順調にすくすく育っているという事の証なのでしょう。