天才!成功する人々の法則(講談社)書評⑵-自己の適性に気づく
前回の記事で「天才!成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル著・勝間和代訳/講談社)について、「自己の偏見について気づく」という視点から言及したのですが、今回は同じ本について「自己の適性に気づく」という視点で言及していきたいと思います。本書では「ノーベル賞の授賞者」と「IQの高さ」には相関関係があるのかについて言及します。本書では少なくともノートルダム大学やイリノイ大学に入る頭は必要だが、「そこまで」しか相関関係は見いだせないとします。そしてIQがその程度あれば他の能力が要求されるとして「ディヴァージェンス・テスト」に言及します。
「ディヴァージェンス・テスト」とはどのようなテストかと申しますと、外資系のコンサルティング・ファームで働いていらっしゃる方の間では有名らしいのですが、「レンガ」や「毛布」の用途を思いつく限り考えよ、といったテストです。共通テストや多くの入試問題が答えを一つに収れんさせる「コンヴァージェンス・テスト」であるのに対して、答えの数とそのユニークさを重視するというものです。その答えの数が多く、ユニークであるほど創造力があるとみなされるようです。この本ではイギリスの名門大学に通うフローレンスとプールの答えを比較します。IQに関してはフローレンスの方がプールより高いのですが、このレンガや毛布の「ディヴァージェンス・テスト」では答えの数やそのユニークさではIQの低いプールのほうがIQの高いフローレンスを圧倒してしまったのです。そして著者のマルコム・グラッドウェルはノーベル賞を受賞するには、一定のコンヴァージェンス型の能力が備わっていさえすれば、あとはこのディヴァージェンス型の能力等、他の能力のほうが重要なのではないかと話を展開します。私個人の考えですが、コンヴァージェンス型の能力は医師や弁護士に、ディヴァージェンス型の能力はコンサルタントや起業家や研究開発者に向いているのではないかと思います。
当時の私は大学時代からコンヴァージェンス型の能力が要求される法律学に苦しんでいたので、この本を読んで「なるほど!」と思い、法律の勉強が得意でなくても仕方がないかなと思えるようになりました。それと同時に「ホンマかいな⁉」とも思ってしまいました。というのも私自身、この本を読んでレンガや毛布の「ディヴァージェンス・テスト」に取り組んだのですが、レンガについても毛布についても、創造力があるとされる本の登場人物のプールよりもその用途をたくさん思いつくことができたからです。「この程度の連想ゲームの答えがたくさん出ただけで創造力が測れたら苦労せえへんやろ⁉」とこの時には思ったのですが、民間企業に転職後、このディヴァージェンス型の能力は自分の思っていた以上に威力を発揮することとなりました。その一例として私が在籍したサンディ社で受けたクリンリネス(衛生管理)研修での事例を取り上げたいと思います。それは私がサンディ社で受けた研修の中でもっとも面白いと思った研修なのですが、そこで出された「ディヴァージェンス・テスト」をここに掲載します。おそらくレンガや毛布の「ディヴァージェンス・テスト」で飽きていらっしゃる方にも楽しんでいただけると思います。
問.
ペットボトルが収納されている段ボールケース(2L×6本入、1.5L×8本入など)の天面(蓋の部分)の四隅に荷崩れ防止用にホットメルトという、ボンドを固めたような滑り止めが付けられています。サンディ社の店舗ではペットボトルを売場に陳列するに際して、ペットボトルのケースをカートラックという細長い台車に乗せて運んでいくのですが、そこからペットボトルのケースを降ろして陳列するに際してホットメルトが段ボールケースから剥がれて床に落ち、それに気づかずにカートラックや人がその上を通ると、ホットメルトが床にチューイングガムのようにへばりつき、そのうちに黒ずんできて汚れが目立ってしまうので、それをスクレーパーというヘラのような器具で剥ぎ取る、という作業がありました。このへばりつくのが強力で、剥がすのがなかなかの重労働であったため、何か作業を楽にする妙案はないでしょうか?という問題です。ちなみにホットメルトの色は白、床の色は橙です。少し考えてみてください。
以下の答えは、この記事を書くにあたり新たに思いついたので付け加えたという答えもあるのですが、9割の内容は課題に回答した当時と同じ内容です。皆さんも「その程度なら思いついた。」「お前が思いついていない答えも思いついた。」等突っ込みを入れながら、眺めていただけると幸いです。
私はまず、5つに分けて分析しました。
⑴スクレーパー
⑵ホットメルト
⑶床
⑷段ボールケース
⑸その他
⑴スクレーパー
てこの原理を利用して床からホットメルトを剥ぎ取りますので、てこの原理がより強力にはたらくスクレーパーに変更する、というものです。具体的な商品名になってしまうのですが、「オルファ スクレーパーL型」から「オルファ ハイパースクレーパー」に変更する、という感じです。全然面白くないので⑵に行きます。
⑵ホットメルト
・白いホットメルトが落ちると橙の床では落ちたことに気づきにくく、その結果その上を人が歩き、黒ずむうえにへばりつくことになるので、ホットメルトの色を床の橙色の補色である青色に変更する。それによりホットメルトが落ちてもすぐに気づけるので、その結果すぐに落ちたホットメルトを拾うことができ、床にへばりつくことがなくなります。「それってメーカーにホットメルトの色を変更してもらわな無理やん!」と思われるかもしれません。実際、その面は多いのですが、PB(プライベート・ブランド)ならば、自社のデザインにメーカーが合わせてくださることが多いので、ホットメルトの色に関しても変更していただけるかもしれません。これと同じ考え方でホットメルトは融点の関係からか夏の気温が高い時の方が剝がれやすい傾向にあります。そこでホットメルトを融点の高い、夏でも剝がれにくいものに変更する。またコストは上がるかもしれませんが、ホットメルトをラメ入りにする、といった方法も考えられます。また、四隅にホットメルトを付けていたのを、荷崩れの心配がなければ、ホットメルトの量はそのままで対角線の2か所だけに変更する、といった方法もあるかもしれません。落ちるホットメルトの個数が半分になりますし、1つのホットメルトの大きさも四隅についている時の倍ですので、落ちた時に気づきやすいという利点があります。さらにはホットメルトが剥がれて床にへばりつくなら、そもそもホットメルトを使わなければよい、という考え方もできます。「いやいや、それなら滑って荷崩れしてしまうやん!」と思われるかもしれませんが、これについては後ほど⑷でまとめて言及します。
⑶床
床にへばりついて最終的に黒ずむのなら、もともと黒ずんでも気にならないように床を黒色にする。また白いホットメルトが床に落ちてへばりつくなら、床の色を黒にすれば目立つからへばりつく前に気づいて拾えるかもしれません。(この点については大手コンビニがすべて床の色を白にしていることからも購買意欲等に悪影響が出るかもしれませんが。)また、ホットメルトが落ちてもへばりつきづらい床材にすればよいかもしれません。
「いやいや、床の色とか材質を変更するなんて、コストがかかりすぎて無理やろ!」と思われるかもしれませんが、床を貼りかえる、それと同じ状況が出現する時があります。どういう場合かと申しますと
・店舗改装時
・新店の出店時
です。実際、私の答えが影響したかは分かりませんが、私が研修の課題としてこの問題への回答を提出してしばらくしてからのサンディ社の新店は床材が橙色から、ホットメルトと同色の白色ではありますが、防汚コーティングが施された床材にすべて変更されているはずです。
⑷段ボールケース
⑵でホットメルト(荷崩れ防止用の滑り止め)を使わない、と申し上げたのですが、要はペットボトルが入っている段ボールケース自体を滑りにくいものにすればよいということです。どういうことかと申しますと段ボールケースの天面と底面の表面をやや凹凸のあるものにすることで、レゴブロックのようにはまるので、荷崩れをしなくなるということです。実際にコカ・コーラ社のコーラやスプライトやファンタの1.5L ×8本入のペットボトルケースはホットメルトを使用せず、天面の表面にはやや凹凸がある構造になっていたはずです。最近ドン・キホーテの売場に並んでいる綾鷹の2L×6本入りのペットボトルケースを見る機会があったのですが、トタンのような波状の凹凸があり、やはりホットメルトは付いていませんでした。
また、これは後で思いついたのですが、ケースをなくし、滑りにくいビニール等でケースと同じ本数をパックすることも考えられます。これについてはトルコから輸入されたミネラルウォーターの500ml×12本入がそのようになっていました。(ただしパックが1.5L×8本入の重量に耐えられるかは分かりませんし、今後プラごみ削減の流れの中では少し時代に逆行することになるかもしれません。)この⑷段ボールケースについてはPB(プライベート・ブランド)商品ならおそらく可能ですが、メーカーのNB(ナショナル・ブランド)では少し難しいかもしれません。
⑸その他
もしかすると照明の色や光度によっても床に落ちたホットメルトが簡単に識別できるかもしれません。セブン・イレブンのようなコンビニでは新店の出店に際して、蛍光灯の並ぶ向きにまで気を配るとのことですので、照明を利用する方法も可能性としては考えられます。
これが私が民間企業に在籍していた際に受けた、もっとも楽しい研修とその課題およびそれに対する回答(※ただし一部追加)でした。私はこの課題への回答を作成する段階で、自分はコンヴァージェンス型の能力よりディヴァージェンス型の能力のほうが相対的に秀でていることを自覚したのですが、マルコム・グラッドウェルの「天才!」を読んでいなければ、おそらく自分の能力の適性について明確に意識することはできなかったと思います。振り返って考えてみると、公務員時代もこのディヴァージェンス型の能力を使って業務改善案を作成した(別の記事で投稿しています。)わけですし、当時は業務改善案を作成した後にバッシングされた記憶しかなく不愉快で仕方がなかったのですが、おそらく私をバッシングした人たちにはディヴァージェンス型の能力が欠けていただけなのだということに思いいたり、納得がいったものです。当時のクリンリネス研修をしてくださった管理職のうちのお一方が、私が働いていた店舗の助言・指導をしてくださるスーパーバイザーのような役職の方でもありましたので、この「ホットメルト」の課題に回答してからは店舗巡回の際に何がしかのディヴァージェンス型の課題を持ってきてくださることが多く、私自身、エサを待つ犬のように巡回に来てくださるのを楽しみにしていたのを覚えています(欲を申しますと、ディヴァージェンス型の課題は、基礎知識さえあれば24時間365日考えられる遊びのようなものですので、もっと持ってきていただいても良かったくらいです。)。
この記事をご覧くださっている方の中にも私よりたくさん回答を思いついた方や、よりユニークな回答を思いついた方もいらっしゃると思います。おそらくその方は私以上にディヴァージェンス型の能力が高いとものと思われます。仮に私より回答数が少なかった、あるいはユニークな回答を思いつけなかったという場合でも、おそらく私よりコンヴァージェンス型の能力には秀でている可能性が高いです(私が在籍していたサンディ社の役員クラスでは、手本としていたドイツのアルディ社が売価の下一桁を「9」に統一していた時期があったことから、自社での売価の下一桁についてもそれ以外の数字にすることを躊躇していらっしゃいましたが、これはレジにお金を打ち込まずにポケットにねじ込むのを防ぐためにレジを操作してわざとお釣りを出さなければならないような状況を作出するための売価設定であったということさえ知っていれば何の躊躇もなく売価の変更を検討できたはずです。ここではディヴァージェンス型の能力はまったく必要なく、コンヴァージェンス型の能力のみが要求されます。)。またディヴァージェンス型の能力やコンヴァージェンス型の能力でなくとも、何がしか他の能力に秀でていることが多いので心配することはないかと思います。私はYouTubeで東京藝大の出身者が歌謡曲やポップスを歌っていらっしゃるのを拝見することが多々あるのですが、拝見するたびに自分とは明らかに違う、異次元の能力をお持ちなのだなと畏敬の念を抱いてしまいます。また、能力が高いことがすべてではない気もしますし、エヴァリスト・ガロワやアラン・チューリングのように能力が高すぎてもしんどい面があるのだろうとも思います。個人的には人の足を引っ張る能力や人を貶める能力なら、ない方がいいとすら思いますし。
もし今、自分の能力の限界に直面して苦しんでいらっしゃるなら、この「天才!成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル著・勝間和代訳/講談社)は何かのきっかけになるかもしれないので、ご覧になられても損にはならないと思います。
最後までご清覧くださいましてありがとうございました。
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