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クリスマスと言えば

クリスマスといえば社会鍋
 じいちゃんの家のすぐ近所に救世軍の日本本部があった。かなり前に建て直しちゃったけど、その前はかっこいい建物でね。界隈では学士会館と双璧だった。そういや村田簿記学校の建物も雰囲気あったっけな。
 子供の頃は不思議な存在で、何をしてるのか分からなかった。年末恒例の募金活動だと知ったのは、すこし後だったかも知れない。
 この時期は本部前に行けば毎日活動してると思うけど、僕が神保町以外で見かけるのは銀座の松屋前くらい。それもタイミングが合えばの話。

 田舎の囲炉裏にかかってそうな古式ゆかしい両手鍋、ぱっと見軍服っぽい制服に身を包み、讃美歌を奏でるコルネットの音色、たいがい3人一組。写真集や展覧会で見かける戦後東京の暮れの繁華街写真にも時々登場する。その頃とほとんど変わってないスタイルを貫いている気がするから、大した記憶がなくても郷愁を感じるのかも知れない。
 世間にはありとあらゆる募金活動があって、どこに賛同したらいいのか?これって怪しくないのか?大人になって疑う気持ちが芽生えると、余計に選んでしまう自分がいる。これを成長と言っていいのか退行と言っていいのか分からない。色々まみれちゃったなぁと若干の自己嫌悪はどこかにいつもある。

 でも社会鍋は何故か無条件なんだ。あの姿、あの音色、あの風景を見聞きした途端、一気に何十年もタイムスリップしてしまい、恐る恐る近寄って、あの古めかし鍋の中に持ち合わせの小銭や、親から渡されたお金を入れた頃が蘇る。
 今じゃ滅多に出会わないけど、たまに見かけると、あぁ暮れも押し詰まってきたなって、バッグの中をゴソゴソやって、小銭入れを総ざらいするんだ。

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