Pしんぶん その14
今日も銀座に行かなくちゃ
街の緑のパワーと恩恵について
銀座通りにいつ頃まで柳の木があったか知らないけど、東京の超一等地だから何の利益も産まないどころか、手入れと掃除に費用がかさむ木を植えようなんて酔狂なことは、もう考えられないのかも知れない。でも縦の通りにはちゃんと柳もあるし桜もあるし紫陽花もある。そういや並木通りは横の通りだけど、木が無いと名前を変えなきゃいけなくなるからなぁ。
軒を連ねる高級ブランド店のショーウインドウが目立つから、季節には花が咲くことに気付かない人もいるマロニエ通り。銀座通りとの交差点近くの一本が伐採された。しばらくしたら、樹皮近くから小さな芽がびっしり出てたんだ。いつか根こそぎ消えるだろうけど、公園の巨木よりも生命力を感じてしまった。
町一帯に点在する沢山の工事現場の囲いは、都市の激しい新陳代謝を思い知らされる。綺羅びやかな商業ビル群に挟まると、「今に見てろよ」っていう風情たっぷり。でも天気の良い日は、街路樹の影をきれいに写し出す。ついでに無数の道路標識も寄り添って、刻々と移動する影まで街の景色だなと合点する。
今や銀座の観光名所とも言えそうな奥野ビルのシックな佇まい。京大阪の如く普通に借りれる古手のビルが少ない東京では、貴重な物件だ。円形ウインド前の植え込みからばっさと伸びる柘榴の木が、今年もきっちり実を結んだ。あんな小さな植栽スペースで、これほどたおやかに果樹が育つのは、さぞや管理も大変だろうな?それとも案外水遣り程度で、あとは本人の生命力任せなのかな?そして、いつか収穫するのかな?
銀座の樹木は強かだ。いや、銀座育ちって誇りがそうさせるのかも知れないね。
人が多いと疲れるね
今や休日も平日も区別なく大混雑の浅草、この日の雷門脇の静けさは奇跡だったんでしょうね。レンタル着物店に海外の方々が押し寄せる前に、さっさと吾妻橋を渡っちゃいましょうよ。
例のビルの向かいで、そっと下町炭酸水を作り続ける興水舎。アズマタンサンのケースが積まれた風景は、いつ見てもホッとします。そこいらの居酒屋じゃお目に掛かれないのが残念ですけど。
そのまますぐ押上に向かうと、浅草に勝るとも劣らぬ人出のスカイツリーに出ちゃうので、大通りを渡って東駒形に行きましょう。ちょいと裏に回れば軒先庭園のお宅もまだ健在だし、注文を受けてから揚げてくれるフライ屋さんもあるし、噺家の師匠に教えて貰った大好きなお店もあるし。
スカイツリーは路地や裏通りから見るに限ります。小さな神社の鳥居から眺めるとか、洗濯物たなびく年季の入った物干し越しに眺めるとかね。
そのまま鉄塔をやり過ごしての業平、定食の看板も誇らしげな食堂で、日替わり定食ってのもいいなぁ。場所柄英語メニューもあるけど、きちんと下町価格なのが嬉しい。ご飯食べ過ぎちゃうのが難点だけど。
亀戸線の踏切を渡ると、どこかホッとします。文花や京島も少しづつ建物が変わったり更地になったりしてるけど、浅草から見りゃ雲泥の差。でもキラキラ橘は若い子が増えたなぁ。そりゃ魅惑的に感じるでしょうね。おや、空地卓球場ですか?腹ごなしにお手合わせ頂きますか。
街角卓球場
どこ曲がったっけ?路地をくねくねしたら、路地のくねくねした東向島に入りました。つい玉の井って文字を探しちゃう癖は卒業しないととは思いますが、辻々の掲示板には普通に書かれてますもん。
大正通りからたぬき通り。ほらもうちょいで鐘ヶ淵ですよ。浅草で見過ぎた人の群れの残像も、流石に消滅しました。お風呂屋さんは準備中だから、水神様に詣でますか?(銀の輔特派員)
小島はふふふ
大島は江東区だけど小島は台東区。名も高き佐竹商店街と名も麗しき下谷と三筋と鳥越に囲まれたエリアで、確かに面積は小さめだけど、近場の上野や浅草に東西南北や元だの新だのを付けた安直な町名にされなくて胸を撫で下ろす、東京では数少ない町。
でも江戸の昔には三味線堀なんて粋な名の一隅もあり、清洲橋通り沿いの年季の入った集合住宅の一階に三味線堀公設市場も頑張ってたけど、とおの昔に消え、集合住宅自体も解体作業が始まっていて、建設計画看板の建築主欄には、都知事の名前が書いてある。そんなものより、並びにある堺打刃物特約店と看板にある砥石屋さんや、どうみても建築系にしか見えない事務所の入口に提げられた浅草開化楼特性麺の木札の方がずっと気になるけど。
春日通りに面してるし、つくばエクスプレスの駅も近いから、マンションもあれば、新しめの戸建ても昔より増えたけど、棟割長屋二階建て、波型トタン張りまくり家屋もまだまだ健在。路地か私道か判別不能な小道の奥に聳える細長マンションと、袋小路のお稲荷さんが目と鼻だったりして、密度濃厚な小島なんだ。
なのに周囲とは若干違う妙に道幅の広い一本が左衛門通りに続いてて、そういや鳥越辺りにもあったよな、ここだけ空が広い道ってと頭を過る。こういう道には大抵素敵な物件があって、小島なら幸楽でしょうなぁ…と誰もが賛成してくれそう。初老の御夫婦と娘さんかも知れない方が切り盛りしてて、まぁ旨くて懐かしい半ちゃんラーメンに泣きそうになるけど、店先にテーブルがあってね、一度ここで食べたいけど、どうも間が悪くて叶わない。
小島に来たらカフェテラスコーヒーで豆を買う。コーヒー豆だけ買いに来ることもあるくらい。元々は大阪でタイガーコーヒーと名乗ってたらしいけど、今は小島の焙煎工場。道に迷っても匂いを頼りにたどり着けばいいのさ。ここの深煎り激安ストロングスタイルの風味は、確かに大阪流だね。
豆を買った帰り道には、すぐ側のお宅にあるドラム缶真っ二つな水槽を覗いて、あ~良かった、まだ健在でと笑顔になる。見た目小さいけど関東大震災後の復興公園という由緒正しき小島公園には、トイレもあるからご安心下され。
印刷、製本、箔押し、活字に自動車修理といった下町らしい町工場もまだ散在する小島。次は大村庵の風情とラーメンも味わわねば。
「この不安定な天気にゃ参りますねぇ」、「おはようございます、鐘ヶ淵さん。熱燗かビールか悩ましいです」、「この町の空き店みたいにコロコロ変わりすぎですよ」。鐘ヶ縁さんの言う通り、相変わらず店舗の入れ替わり激しい大塚だ。
「宮仲公園沿いのコッペパン屋はアジアン食料品店になりました」、「北口商店街の豚山ラーメンの隣にあった不動産屋の後釜も似たような店になるみたいですよ」、「空蝉橋から降りてくる坂の交差点から先、商店街を埋め尽くすアジア食材店が、どんどん駅寄りに進出してるんですね」、「それだけ需要があるってことなんでしょう」。もはやアジアンタウンの様相を呈してる町。
「そういや聖楽堂の跡はドラッグストアになりました」、「それも何やら高級な、海外旅行者向けっぽい店」、「大塚唯一のCDショップも永遠のお別れです」、「向かい角にあったウマウマってレストランも閉店して、テナント募集の張り紙が」、「その昔、ここは本屋でしたね」、「あぁ懐かしいですね、鐘ヶ淵さん!子供の頃にさんざ通った店ですよ。突き当りが帳場で、怖い顔したご主人が座ってて、下さいって言うと、上目遣いで僕を見る」。頭の中はあっという間に半世紀上遡ってしまった。「ふふふ、怖いおじさんがいるけど、欲しい本があるから行くんですね」、「それと今も健在な南口の大松堂書店を行ったり来たりしてました。短期間だけど折戸通りに支店があって、きれいなお姉さんが店番してました」、「本を探しに行くんだか、店員に会いに行くんだか…」。鐘ヶ淵さん、図星です。
編集後記・のようなもの
つい先日、大阪に行ってきました。万博が始まったら行けないだろうなと思いまして。コロナ禍を挟んで無沙汰してた商店街や飲食店を巡って、長々抱え込んでた欲求不満を一気に解消しました。大阪以上にご無沙汰してた神戸の町を一日歩いたんですが、誰もが抱くモダンでハイカラなイメージだけでなく、気さくな下町感を知り、それが大阪とはまた違う雰囲気なことを再確認しました。懐が深いなぁ。
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