毎日俳句に親しもう【冬に入(い)る】
★聖堂の葉巻の匂い冬に入る
はぁっと吐いた白い息が手袋を湿らせる。凍った空気を吸い上げるような、ムクドリの小刻みな音色だけが耳を貫通した。
イエス・キリストと聖母マリアのイコンのレリーフのあしらわれた重たい木のドアをゆっくり開ける。私は祈りたいのだ。祈りたい目的を持っている人は、今日この時間にこの私だけだろう。
聖堂に入って真ん中通路を十字架増に向かってぐんぐん進む。祈りたい、ああ祈りたい。一番前の席まで歩いて、1mもあろうかというステンレスの十字架と向き合った。膝まづく。手を組んでゆっくり瞼を閉じる。
ぷんと、煙った空気が鼻につく。たばこじゃない。少し、香った煙。
目を開けてあたりを見回した。
私の前にここで膝まづいた罪びとの残滓が、ただ私にまとわりついた。
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