「悪い夏 」読書ノート
「悪い夏 」染井 為人
この小説は、26歳の守が生活保護受給者のもとを回るケースワーカーとして生活し、善悪や正義についての葛藤に直面する姿を描いています。同僚の不正や暴力団の脅迫により、彼は普通の世界から足を踏み外し、生活保護を不正受給する小悪党や貧困に苦しむシングルマザー、地方ヤクザといったさまざまな人々と交わります。
主人公は市役所の仕事に満足していましたが、生活福祉課への異動を言い渡され、専門的な知識もないまま生活保護世帯の状況を観察し続けます。物語では、暴力団が生活保護の弱みを利用し、市役所をも巻き込んだ「貧困ビジネス」が行われている様子が描かれます。そして、主人公がセクハラや脅迫に直面し、警察の出番もない中、精神的な葛藤と戦います。
生活保護を軸にしたストーリーは、読者に善悪や正義について考えさせ、他人事が自分事になる瞬間の脆さを突きつけます。この物語は、善良で大人しい市の職員がヤクザの罠にはまり、奈落の底に突き落とされる姿を通じて、現実と虚構の狭間で揺れ動く人間の心理を描き出しています。彼の転落は一瞬でありながら、読者をグイグイ引き込む秀作です。この作品は、生活保護という社会問題を背景に、人間の複雑な心理や現実との対峙を描き出し、読者に深い考察を促してくれます。
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