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パンのエッセイでこんがり赤面する日がくるとは思わなかった



ハロー!志織です。


パンの本を読んでいたら、夜ごはんにパンが出てきました。




本でタロット占いみたいなことをしてしまった。




水曜日の夜、いかがお過ごしでしょうか。
と言ってもまた、これをアップするのは日付を跨いだ木曜日だと思いますが…。



週の半ばで、仕事の疲れも溜まってくる頃よね。

分かる、分かる。
すっごく分かるよ。
今日もおつかれさまでした。

たいへんな日常をくぐり抜けて、よくぞ私のnoteまで辿り着いてくださいました。

私が差し出せるのは、素晴らしい本と、そこにある言葉だけなのだけれど、あなたにとって、ここがささやかな心のセーファースペースになったなら、これほど嬉しいことはありません。

一緒にゴニョゴニョ言いながら、1日1日を、なんとか、のらりくらりと、過ごしていきましょうね。




さて、今宵、紹介するのは、
『こんがり、パン おいしい文藝』です。

この本を持っていたら、
母が「美味しそう〜!」と喜んでいた。
かわいかった。



みなさん、お待ちかねの、河出文庫の本ですよ〜!
(わたしの河出書房への愛は、また今度ゆっくり語らせてください。自分、いけます!!!)


これは、ちょうど1年前くらいに、仕事帰りの駅ナカの本屋さんでサッと買って、一部のエッセイをサッと読んで、本棚に積んでおりました。
(読み方も、なんだかパンを食べているときのようだね)


最近、少しだけ本棚の整理をしたときに出てきて、「あ。そういえば読み途中だったな。改めて読もう。」と思い立って、それこそ冷凍していたパンを解凍していただくように、味わって読みました。
すごいね。パンの本も、寝かせても味が落ちないんだからね。


この記事を読んでくれているあなたは、きっと週の半ばでお疲れで…(そんなことない?)



お疲れ気味のココロとアタマに、フルコースの物語を入れるのは、なかなかヘビーなことだと思います。


私にもそんな日はたくさんあります。
文字を追うことや物語を読むことって、やっぱりエネルギーがいるんです。
だから、読めない自分を責めないでね。
一生懸命、必死に生きてたら、当たり前の反応なんだ。



そしてそんなときは、ひと匙でも「うまー!」と唸るような物語を、いただくのです。


腕のあるシェフなら、旨みを最大限に引き出した一品料理を作れるように、一流作家たちにペンを握らせれば、たちまちに芳香ただよう一つの物語が出来上がるのです。


どれも甲乙つけ難い物語ばかりなのですが、私の好きなエッセイを紹介しますね。


フレンチトーストを食べると思いだす恋がある。
私はその恋に、それはそれは夢中だった。
それはそれは日々愉しく、それはそれは羽目を外した。

そのころ、私たちはよく朝食にフレンチトーストを食べた。
ただでさえ甘いフレンチトーストを、その男は小さく切って、新たに少しバターをのせ、密でびしょびしょにしてフォークでさして、差しだすのだった。
幸福で殴り倒すような振舞い。
私はそれを、そう呼んだ。

江國香織『フレンチトースト』より引用



出ましたよ…。
俺たちの江國香織。

学生の頃でしょうか。
初めて江國香織さんの本を読んだ時の私は、
「こんな女性と出会ってしまった男性は、ほかのおんなのひとを愛せなくなるんじゃないか」と勝手に心配になるほどに、一節一節が、独特の色気と、甘さと、儚さで、きらめいていました。



女の私だって、彼女の小説を読んでからその存在を忘れられないんだから、彼女と恋仲になった殿方たちはもう…。

だって、こんなに短いエッセイで、こんなに甘い甘い恋の香りを漂わせて、くらくらさせられるのは、江國香織しかいない。


「それはそれは羽目を外した」


この一文だけで、その恋に溺れてひたひたになっていたことが、ぐつぐつと伝わってくる。

甘いフレンチトーストの描写ひとつとっても、相手の殿方が江國さんに差し出し続けた愛の比喩でしかなくて、読んでいるこっちが赤面して、こんがりパンになってしまうわな。

パンひとつでこんなに艶っぽい、映画のワンシーンのようなエッセイになって、出てくるのです。


すごすぎ。



そして、恋愛に関するお話がだめな人でも、このエッセイ集なら大丈夫。




穂村弘は、夜中の禁断のはちみつパンの話で、堕落した俺たちのことを救ってくれるし、


おしゃれが好きな乙女の貴方は、中原淳一のサンドイッチのたのしい飾り方を読んで、嗜みを覚えてください。


川上弘美の『しょうがパンのこと』から、長田弘の『ショウガパンの秘密』は続けて読んで、たのしんでね。


米原万里の『パンを踏んで地獄に落ちた娘』の解説から、私は「慧眼」という言葉を知り、本編を読んで、私たちの国、日本が地獄に落ちる日についての語りに震えつつも否定が出来ない自分を見つめています。



ぜんぶで、40篇!



筆者によってちがう思い出のパンのエピソードに舌鼓を打ちながら、自分のパンのエピソードを心に浮かべる夜です。



スープカレーにパンを浸しながら、すこしスパイシーだった今日を憂う。




だけど、ピリリとしたことばかりではなくて、大好きなお客さまとのやさしい時間や、チームメンバーとの和やかな会話の時間、家族とのおだやかな時間を思い出して、もちもちじゅわあ、とした、いつもそこにあるしあわせも思い出す。



おいしいパンを食べてすこし元気が出たら、明日もそれなりに、そこそこに、もうひとがんばりだけしましょうか。
ブレイクに、コーヒーやティーも忘れずにね。




それでは、本日はこのあたりで。
また本を片手にお会いしましょう。
アデュー!


いつかの、パン。
悪魔的な美味しさだったことだけは覚えている。

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