見出し画像

ユーザーインタビューの大切さと罠から考える、顧客インサイトとの向き合い方

プロダクトマネージャーとして社内でユーザーインタビューを最も実施している一人として、改めて「ユーザーインタビュー」というものと向き合ってみました。

そもそもなぜ私がユーザーインタビューを大切にしているのか?
また、ユーザーインタビューを大切にしているからこそ言えるユーザーインタビューの罠は何か?を記しながら、
顧客インサイトとの向き合い方について考えたいと思います。

なぜユーザーインタビューを大切にしているのか?|教科書的なアンサー

それは「無駄なリリースを避けるため」です。

ユーザーインタビューでユーザーの課題やニーズを知ることで、そもそもニーズのないものをリリースすることを避けられます。
また、リリース予定のものを触ってもらったり見てもらったりして問題点を把握することで、リリース前に対処し、使われない/求められていないプロダクトになることを極力避けることができます。
もちろんリリース後にフィードバックをもらい、その後の改善に活かすことも、それ以降の無駄なリリースを防ぐことにつながります。
ユーザーインタビューにも時間やコストはかかりますが、リリースのそれと比べるとそのリスクは非常に小さいです。
リリースしてしまうと、保持することにも、切り戻したり捨てたりすることにもコストがかかるからです。

NOT教科書的なアンサー

世の中のプロダクト開発に関わる人に「ユーザーインタビューはなぜ重要か」と聞くと大体上記に近い回答が返ってくるのではないかと思っているのですが、
私がユーザーインタビューを大事にしている理由は他にもあります。

①誰よりもユーザーに詳しい人となることで信頼を勝ち取るため

※これは Research conferenceでもお話しした内容になります

不確実なプロダクト開発の現場において、全てがロジックで通るわけではなく、プロダクトマネージャーのこうしたい!や、これはいける!という感覚が働くシーンもあると思っています。
そんなシーンにおいて、「ユーザーにめちゃくちゃ話を聞いているコイツがいうならまあやってみるか」となれる、聞き手側の信頼が私は非常に大切だと思っています。
もちろん、そのために数をこなせば良いというわけではないですし、結果的にユーザーにたくさん話を聞くことで成功確率が上がり、実績が伴い、実績で信頼されることが理想です。
ただその過程で、「誰よりもユーザーのことを知っている人」になれていると、信頼を得る段階も早くなると思っています。

②引き出しを増やし、細部に宿らせるため

ユーザーにたくさん会ったり話を聞いたりすることで、さまざまなユーザー像が脳内にインプットされます。
ママリにもたくさんのユーザーがいますし、私が話してきたユーザーにもいろんな方がいます。

  • 妊娠初期でつわりにめちゃくちゃ悩んでママリでたくさん検索して、安定してからママリをご卒業した人

  • 地方の産院の口コミが知りたくてママリで質問してみたら、すごく親身な回答がついて感動してくれた人

  • お子さんがNICUに入って、毎晩会えない中で搾乳を頑張る中、ママリに励まされたという人

  • etc

議事録を見なくても「こんな顔のこんな人がいたな」というのが思い出されるユーザーさんが何人もいます。
常日頃できているわけではないですが、さまざまなユーザーがインプットされることで、施策を考えたり実装する際に、「いや、この場合こういう人にとっては微妙かも」「こういう人はこんな風に使ってくれるかも」みたいに考えることができるようになります。

③自分のモチベーションを上げるため

結局そこかという感じですが、ユーザーが抱えている悩みを実際に顔を見ながら話を聞くことで課題解決したい思いは強まりますし、ユーザーがママリをめちゃくちゃ愛用してくれていることが実感できると頑張ろう!という気持ちになります。


この辺まではなぜ大事にしているか、というありきたりな話にはなりましたが、
ここからはユーザーインタビューを重ねていく中で学んだ「罠」についても話してみたいと思います。

罠①聞きたいことを聞けばいいってわけじゃない

インタビューには、間違ったやり方があります。
そのうちの代表的なものが「顧客に欲しい機能を直接的に聞く」というものです。
上からも目盛が見える計量カップをご存知ですか?

OXOの計量カップ(Amazon)

すごく便利な計量カップだと思うのですが、これは顧客に「計量カップに求めるものは何ですか?」と聞いて出てきた解決策ではないそうです。
というのも、「計量カップに求めるものは何ですか?」と聞くと、「丈夫であってほしい!」とか「快適な持ち手が欲しい!」とかが返ってくる。しかし、実際に計量カップを使っているところを観察して、計量カップに注いだ後に横から目盛を見るためにしゃがむ行動を発見し、それが元となり開発されたそうです。
(「プロダクトマネージャーのしごと」より事例引用)

このように、「欲しいものは何ですか?」と聞かれてユーザーが言語化するものをそのまま実装すればいい、というわけではありません。

インタビューではないですが、ママリでも日々ユーザーからのご要望が上がってきます。
これも大切なのはその要望の裏側に抱える課題です。

ママリでの実際の事例を1つ紹介します。
ママリでは、質問を投稿する際に「妊娠・出産」「子育て・グッズ」「妊活」「お出かけ」といったカテゴリが選択でき、投稿した質問は選択したカテゴリのフィードに流れるようになります。
そのカテゴリに関する要望で、ある特定のトピックについて「Aというトピックで一つのカテゴリを作ってほしい」という内容がよく上がっていました。
実は、この裏側に抱えるニーズは「Aの投稿を見ると不快な気持ちになることがあるので見たくない(ので、トピックとして独立して欲しい)」というのが正しいニーズでした。
そこで、「新規でカテゴリを作る」のではなく、「アプリ内で非表示にしたいトピックを設定する」ことができる機能で解決するという意思決定をしました。
(ママリには、さまざまな境遇、さまざまなお悩みを抱えるユーザーがいらっしゃるため、多くの方が快適にママリを使えるようにと考えて実装しています)

ちなみに、この類の話については、この記事が好きです。

では、考えている解決策が当たるかどうかをインタビューで検証したい時はどうするのか?
実際にMVPを世に出して検証するのがベストではありつつ、確度の高さを確かめるためにインタビューをうまく使うケースもあると思います。
私自身完全な正解を持ち合わせているわけではないですし、後から振り返って「聞き方ミスった!」と思うことはありますが、例えばこんな工夫をしています。

  • いくつか機能候補を並べて、直感的に相対点数をつけて評価してもらい、深ぼる(それにより、頭よりも心の声を聞く)

  • この機能があったら嬉しいですか?ではなく、これがあったらアプリの使い方は明日から具体的にどのように変わりますか?と聞く

検討している機能に相対点数をつけて評価してもらった時のスライド

ちなみに、課金して欲しい系のサービスの検証だと、「こういう機能があったら買いますか?」という問いかけだけではなく、実際に契約書にサインしてもらうくらいまでやらないと本当に購入意思があるかわからないため、検証としては不十分だと言われています。
(私も過去新規事業で、メールで実際にユーザーから注文を受け取った後に「まだ検証中のプロダクトなので実は代金は要りません」とネタバラシした経験があります)

ちょっと話が膨らんでしまいましたが、大前提ユーザーインタビューでは「事実を深ぼり、仮定の質問はあまりしない」のが理想です。

できるだけ事実を深ぼるための私なりのインタビューの心得を社内向けにまとめたものはこちらです。

罠②インタビューだけやればいいってわけじゃない

インタビューで得られる情報はいわゆる「定性情報」ですが、同時に「定量情報」も掛け合わせる必要があります。
インタビューする数には限界があるので、ママリを使ってくれている数多くのユーザーを捉えるには不十分ですし、
事業を運営している以上、「どのユーザー層に向けて課題解決することで、どのように事業にインパクトが出るのか?」を検討する上で、定量情報は必要になります。

例えば、パン屋さんを経営しているとします🍞
ランダムな対象にインタビューを行った結果「高くても健康志向のパンが刺さりそうだ」と思い、グルテンフリーの全粒粉パンを開発します。しかし、実はその地域は育ち盛りの子どもを持つ親世帯が多く、高くてヘルシーなパンは全く購入されない…
よく来店してくれている人にインタビューを行った結果「パンと一緒に買えるドリンクがあると良さそうだ」と思い、テイクアウトのドリンクメニューを増やします。しかし、実はよく来店してくれている人はすでにロイヤリティが高いごく一部の偏った属性で、そのほかの顧客には全く刺さらず売上としては全くインパクトが出ない…
すごく当たり前ですが、定性情報だけに頼って商品開発をするとこんなことが起こり得ますよね。

せっかくの定性情報が事業貢献につながらないことを避けるためには、定量情報も掛け合わせていく必要があります。

  • 新規プロダクトの場合、そもそもどんな人をターゲットにするのか?そこに市場はあるのか?

  • 既存プロダクトの場合、見つけた課題仮説に対し、その課題を抱えている人はどれくらい存在するのか?

といった定量的な観点は必ずセットになります。

定量と定性は行ったり来たり

(自分で書いていて「当たり前のことじゃん」と思いつつ、言葉にすると常にこの考え方ができているかは怪しい。)

結局何が言いたいかというと、定性情報は、定量情報と掛け合わせて解釈しないと、事業にとっては危険なデータになりうるということです。

罠③ユーザーだけ向き合えばいいってわけじゃない

「ユーザー体験」
よく聞くし、私もよく使う言葉です。
ユーザーインタビューを行うことで、より良いユーザー体験とはどんなものなのか、想像しやすくなると思っています。
でも、時には「ユーザーにとって嬉しいユーザー体験」を捨てるべきシーンも存在していると思っています。

これについては、この記事が私はすごくいいなと思っています。

車を運転する人なら経験したことがあると思うが、「近づかないと識別できない信号」というのがある。この手の信号は、近付くまで青なのか赤なのか判別できない。そのため信号の近くになるまで、このまま進むべきか、ブレーキを踏むべきか、とドキドキさせられる。 先日までペーパードライバーだった私は、当初、スムーズな運転を妨げてストレスを感じさせるこの信号を、液晶の表示角度などの計算を誤った設置ミスだと思っていた。 しかしこれは、複雑な交差点などでの交通事故を防ぐために意図的に仕掛けられたもののようである。 いちドライバーとしては、けっして心地よい体験ではない。しかし、社会全体にとっては良い方向に向かうようデザインされた信号といえる。

UXだけでは足りない何か

つまり、
会社としてどんな社会を実現したいのか。
どこで収益を得て成長していきたいのか。
どうなったらユーザーとして成功なのか。
それによっては、ユーザーが「短期的に」喜ぶ体験を提供すべきではないこともあります。

目的によっては、「UXを良くする」ではない選択肢を取った方がいいケースも出てくる。となると、UXをあやつる職能者は、「UXを良くする」「嬉しい体験を作る」という一方向からの解釈を前提にするのではなく、その先の「真の目的」をビジネスサイドと共に見据えたうえで、UXという「レバー」をどの位置に合わせれば丁度よく全体最適されるか、という考え方が必要になる。

UXだけでは足りない何か

ユーザーは向き合うべき対象ですし、ユーザースタートなプロダクト開発をすることが最終的な収益にもつながっていくと信じていますが、
短期的なユーザー体験だけに目線が偏っていないか?は気をつける必要がありそうです。
ただし当たり前ですが、ダークパターンや、極端にネガティブなユーザー体験は、ユーザーが離れていってしまうので、避けるべきだと思っています。

顧客インサイトとの向き合い方

ここまでの話をまとめると

  • 大前提、顧客インサイトを捉えるために実際の声を聴くことは重要である

  • ただし、表面的なニーズを捉えるのではなく、真のニーズを掘るためには聞き方に気をつける必要がある

  • また、定性情報のみに頼るのではなく、定量情報を掛け合わせてより有効な材料にしていく必要がある

  • そして、本来のそのプロダクトや顧客の成功状態を忘れず、「短期的なユーザー体験だけに目線が偏っていないか?」を問い続ける必要がある

つまり、ユーザーインタビューはあくまでプロダクトの成功のための手段の一部であり、ユーザーインタビューだけをしていればいいわけではないし、ユーザーインタビューに頼りすぎるのも危険です。
ユーザーインタビューをたくさん行っている(という自負がある)からこそ、その罠に気をつけて顧客と向き合っていきたいと思っています。

それでも、顧客インサイトを正しく捉え、プロダクトの成功確度を高める(また、冒頭に書いたように信頼関係を作ったりモチベーションを高めたりする)ために、私はこれからもユーザーインタビューをやめないと思います!

ユーザーインタビューをはじめとするユーザーリサーチ文化を作った取り組みについてはぜひこちらをご覧ください💌

長々となりましたがここまで読んでくださりありがとうございました🫶

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?