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【SS】朝起きても、(1059文字)朝シリーズ(3)

このお話は「【SS】朝起きたら!」の続編です。

朝起きても、やっぱりサトくんはいない。

悪い夢だって思いたいけど、4週間も経ったいま、流石に哀しい現実を認めざるをえない。

警察の人はサトくんの失踪を家出としてしか扱ってくれなかった。
だから、自力で探すことにした。
枕元のスマホを手に取って、以前投稿したツイートを見返す。

人々の同情と、好奇心と、善意と、悪意によって得られたのは7万いいねと2.6万リツイートという数字だけで、有用な手がかりは掴めなかった。

私を心配してくれるたくさんの言葉に混じって、
「消えた旦那をダシにいいね稼ぎかww」
といったコメントもあった。

別にどうでもいい。
顔も知らない他人の悪意で傷つくことなんてないし、善意ですら今はなんの役にも立たない。

私はサトくんに帰ってきてほしいだけ。

事件性がなくて、これだけ何の手がかりも掴めないってことは、サトくんが自分で身を隠したって思うほうが自然だよね。

サトくんは、私に愛想をつかして出て行っちゃったんだ。

思い返せば私はいつもサトくんに頼りっきりで、朝も自分で起きられないし、朝ご飯も当然のように作ってもらってた。

どれだけ後悔しても、サトくんが帰ってくることはなくて。

泣きつかれて、体中の水分が全部抜けちゃって、カラッカラに干上がっているような感じがする。

ちゃんとしなきゃって思うんだけど、何のやる気も起きなくなっちゃった。
布団の中でくるまったまま、灰色の日々を過ごしている。

***

ふと、手の甲に何かが触れた気がした。

蝶が私の手の上に止まっている。
どこから入ってきたのだろう。
いつもなら驚いて振り払うけど、今はそんな気力も起きないや。

「きれい…。」

黒地に半透明の青白い筋が一本入っている美しい蝶。

サトくんが育てているハーブにつられてやってきたのだろうか。
昔、ベランダのペパーミントにモンシロチョウが止まっているのを見たことがある。

すこし手を動かしても蝶が私の手を離れることはなく、何故だか私を見守っていてくれているような、不思議な感覚を覚える。

やっぱり、このままじゃだめだよね。
サトくんが帰ってきてくれたときに、見直してもらえるような女にならなきゃ。

美しい蝶のおかげか、久しぶりに少し前向きな気分になれた。
最近は眠りが浅かったけど、やっとゆっくり眠れそうだ。

もうひと眠りだけしたら、ちゃんとしよう。
カーテンを開けて、ハーブ・ティーを入れて、トーストを焼こう。

サトくんは優しいから、もう一回だけチャンスを貰えると信じて。

よければ続編「【SS】朝起きたら。」もご覧ください。




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枝折(しおり)
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