【SS】この悪いあたしに聞きますか。(1049文字)
「やんぐじゃんぷ、どこですか。」
バイト先のコンビニのスナックコーナーにしゃがんで品出しをしていたら、不意に聞かれた。
振り向くと、天使のように可愛い顔をした男の子。
小学校1年生くらい?
もう少し小さいかもしれない。
「え?ヤングジャンプ?」
こくり、と男の子は頷いた。
「キミが読むの?」とか、「お兄ちゃんに頼まれた?」とか、「コロコロコミックにしときなよ。」とか、言おうかとも思ったけど面倒なのでやめておいた。
「あそこ。」
窓際の雑誌コーナーを指さす。
ヤングジャンプは下の段にあるので、この子の身長でも取れるだろう。
それにしても、スイーツコーナーで品出しをしている咲じゃなくて、あたしに何かを聞いてくる客は珍しい。
咲は可愛い。
透明感のある黒髪をゆるりとひとつにまとめている。
万人受けする愛らしさで、常連のジジババからも人気だ。
昼のピーク時、レジに長蛇の列ができているにも関わらず、咲を気に入っているジーさんに丁寧に対応しているときはイラっとくるけど。
まあ普通にいい娘だ。
対するあたし。
あたしは悪い。
顔がじゃないよ?顔面はまあまあ整ってるほう。
なんていうか、根元がプリンになった金髪にピアスっていうヤンキーちっくな見た目をしてるから、「悪いやつ」って思われがちなだけ。
まあ、この見た目をしていれば面倒な客が絡んでくることが少ないから楽なんだけど。
その分、よくシフトがかぶる咲に負担がいってるのはちょっと悪い気もするけどね。
***
「にんにくすなっく、おいしい?」
また、さっきの声が聞こえた。
振り向くと、あたしが手に持ってる「やみつき!ニンニクスナック」をじい、と見つめるさっきの天使。
ちゃんとヤングジャンプを持ってきている。
「うん、おいしい。」
よく酒のつまみにしているから美味しさは保証できる。
にっこり笑った天使はあたしの手からそれをそっと奪い取り、ヤングジャンプと重ねて持つと、そのままレジに向かっていこうとする。
「あ、ねえ!」
思わず呼び止めてしまった。
「それ、キミが読むの?」
そして結局聞いてしまった。
「うん。きれいなおねえさん、すきだから。」
天使はあたしを見てまたにっこりと笑った。
なんと。潔い。
おそらく巻末のグラビアのことを言っているんだろう。
呆然としているあたしを置いて、天使はそのまま行ってしまった。
あの子は将来たぶん、きれいなおねえさんを沢山泣かせる。
天使のような子供に対してそう思ってしまうあたしは、やっぱり悪いやつなのかもしれない。
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