五島の味を想う
お昼どき、有楽町にある東京交通会館の中を歩いていたら、「五島」の文字を見つけた。吸い込まれるようにして入った先は、「和食処 五島 有楽町店」。冷やし五島うどんなど、5種のメニューが並んでいた。
私が注文したのは、「五島列島直送 幻のクエが入った海鮮ちらし」。いたんだよなあ、あの時。漁港の近くの市場にクエが。それが、なんだか懐かしくなって。
五島を訪れたのは、ちょうど一年前のことだ。眩しいほどの日差しから、逃げるようにして歩いた。夕焼けが紫色で、なんだか遠いところに来たなあ、と思った。小さな、プロペラ機で。
ツルツルとコシのある五島うどんがいたく気に入ってしまい、ホテルのそばにあるスーパーでたくさん買い込んだ。お土産やさんよりもだいぶ安く手に入れられるのだ。椿油が塗られた麺の肌は驚くほどなめらかで、とぅるんとすするとやみつきになる。
五島は、柚子胡椒もいい。漁港近くの食堂で、自家製の柚子胡椒をいただいた。柚子の皮や青唐辛子が粗い状態で混ぜ込まれていて、食感が残る。ほんの少しの量で、びりりと辛い。塩味も濃くて、これだけでお酒が飲める。
間近で見た漁に、圧倒された。無数の魚たちが、網の中で泳ぎ、船の上で跳ね回る。
今ここでピチピチと生きている彼らと、お皿の上にちょこんと乗せられたお刺身が、同じであると実感するのは難しい。命がなくなる瞬間も含めて、すべての工程を自分の目で見て初めて、「ああ」と思う。生きていたんだから、せめて大事に、美味しく食べたいって、そう思う。
今年は、五島が度々豪雨に見舞われているようで心配だ。あの町には、快晴がよく似合う。太陽の下、ゆったりと流れる時間。海の青さも、空の青さも、忘れられない。