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夫に拒否されるということ

これは私が離婚する前、夫にセックスを、いや女であることを拒否されていた頃の話。

いやいやめっちゃ辛かったですよ、正直。   私にとってセックスってすんごく大事なものだったから。女としての存在価値を与えてくれるものだったから。好きな男が私に欲情している、という、女としての承認要求の最高峰みたいなものだったから。

夫が寝てる布団にもぐりこんだらめんどくさそうに背を向けられ。

手を背中に伸ばしたら「暑い」と払われ。

疲れてるからまた今度ね、なんてウソ丸出しの言葉さえもかけてもらえずに、迷惑そうにため息をつかれる。

その時の恥ずかしさと悲しさ。これはやられた人にしかわからない。

セックスは男から誘うもの。そう思ってきた。もちろん情熱的な夜には女から誘うこともあるだろう。でもそれは、「必ず受け入れられる自信があるお誘い」だ。だってセックスは物理的に、男が興奮しないと成立しないから。

今晩抱いてくれるかもしれない期待を胸に、夫の好きなものを夕飯に並べたり、夫の機嫌が夜までいいように気遣ってみたり、夫の趣味に合いそうな下着を買ってドキドキしてパジャマの下につけてみたり、いつ誘われてもいいように毎日お風呂でムダ毛の処理をしたり、媚薬入り!と謳われたフェロモン香水までネットで買った。←行動は早い

でも全て無駄だった。ムダ毛の処理をしてお風呂から出てきた夜には、彼はグーグーといびきをかいてコタツで寝ていたし、そもそもフェロモン香水をつけても、それを嗅ぐ距離まで近寄られることがなかった。

たぶん違う。そういうことじゃない。拒否されるたびになんとなくわかってた。いくら小綺麗にしていても、お化粧をきちんとしていても、体型をキープする努力をしていても、夫の好きなロングヘアを切らずにいても。夫は私を女としてもう見ていない。

そんな日々が何年か続いたとき、夫婦喧嘩の時に言われた。私のことなんだと思ってるのと泣く私に、「またその話か。もう家族なんだよ。家族は抱けない。お前もお父さんとはできないだろ。それと同じだよ。でも家族として大事だ。それでいいじゃないか。俺はお前と子どもたちと外食するだけで充分幸せなんだよ」と。

泣くと頭がいつもより回らなくなる中で、あぁ、もうダメなんだなと思った。私はもう、この人に愛おしそうな目で見られながら抱かれることはない。それどころか性欲のはけ口としても求められていない。 

私は一生夫だけとセックスすることを結婚という形で誓った。そしてそれを守ってきた。だけど夫がセックスを、抱きしめてくれることを、手を繋くことを、横で寝顔を見ながら幸せな気持ちで眠ることを、家族になったからムリ、という理由で全て拒むなら、私は何のために結婚したのか。 家族になるために結婚して、家族になったから拒まれる。意味がわからない。でももうそんな理論なんて通用しないほどに、夫の私への言葉は私の心をまっすぐに突き刺さした。

これから一生誰にも触れられず、誰にも求められず、誰の体温も感じないまま死ぬのか。 

いや、そんなこと人生では重要じゃないのかな、とも思った。夫は家族のために働いてくれていて、私も家族のために働きながら家事をして。日々の生活に余裕はあって、明日のお米にも困らない。子どもたちも健やかに育ってくれている。たまに好きなものを外食することもできる。それに感謝していたら、私のこの虚無感はちっぽけなことにも思えた。そもそも全てを満たされている人などいない。みんな何か我慢して生きている。だから私は女として求められるなんてことを我慢しないといけない。それが結婚ってことだ、と、思おうとした。そしてまた何年も経っていった。

でも、間違いなく私は満たされていなかった。

夜、家事を済ませて一人でベッドに入ると、夫のイビキがリビングから聞こえてきて、それが「お前の事なんてこっちはさほど考えてない」って感じに思えて、夫婦関係で悩んでいるのは私だけなのか、って悲しくて悔しくてたまらなかった。

二人でショッピングに行った時に、二人で出かけることが嬉しくて自然に腕を組んだら、彼のその腕がとても堅く緊張していた。まるで処女の女の子みたいに。腕を組むことを承諾したら次は私を抱かなければいけないと思っているのか。昔は私の手を持って自分から腕を組ませてきたのに。

私のことを大切に思ってくれている親友に相談したことがある。彼女は夫から今でも求められていた。「求められるなんてステキなものじゃないよ。ただ、うーん、たまーに、風の便り?お加減いかがですか?みたいにやってくるからさ。はい、元気ですよ、おかげさまで、みたいに応じるって感じなだけ。」             うん、十何年も夫婦をやっていると、そんな感じになるのもわかる。情熱的なセックスをしている訳ではないよ、と親友は私を気遣い言ってくれた。それでも彼女たちは求められている。求められない自分との間に、チグリス・ユーフラテス川くらいの隔たりがあるのを感じさせられた。あっち側ではキラキラした楔形文字がメソポタミア文明を作っている。こっち側は、はじめ人間ギャートルズだ。大声を出しても石になってガラガラと崩れるのがオチだ。    

私には魅力がない、もう女として終わってるのか、一番近くにいる男もろくに興奮させられないのか。たいして仲良くないママ友の、『うちの旦那さん子どもたち横で寝てるのに触ってくるのー。ほんとヤダ。こっちは眠いっちゅーのにねー!』というどうでもいい愚痴も、キリマンジャロくらいのマウンティングに感じて、すっぴんの彼女のチュニック姿にさらに気を落とす毎日だった。

外に彼氏でも作ったら?とも言われた。でも私が望んでいるのはただ挿れられたいんじゃない。 夫に抱かれたいの、毎日一緒に暮らしている、平凡だけど愛おしい夫に。

あなたが好きだからあなたとの子供が欲しいと思ったのに。パパとママになったけれど、でも男と女でいたかったのに。もう私は家政婦以下なのか。どれだけ時間をかけて料理を作っても、みんなが気持ちよく使えるようにお風呂をキュッキュッいうまで磨いても、1円ももらえない。逆にできてないと文句を言われる始末だ。      「仕事好きだから子供預けてまで仕事してるんでしょ?」って専業主婦だった義母に言われたこともあった。夫の給料が少なくてやっていけませんなんて誰にも言わなかった。給料が少なくても、自分のやりがいを持って仕事してる彼が好きだったから。でも、外でフルタイムで働いてきて、疲れて癒して欲しくて夫の肩に寄りかかったら、スッと立ち上がられた。「あー、お茶飲もうっと」って。

めくるめくセックスがしたいんじゃなかった。ただ暗い中でギュッと抱きしめられたかった。この人に愛されている、と確信できたあの頃のように。

結局は、夫はその頃から浮気をしていた。離婚の時にわかった事実だった。

何が家族として大切だよ、って思った。外でしてきてただけじゃん。他の人から、「それ、旦那さん浮気してるんじゃない?」って言われてもそれはない、って信じてたのに。もしかしてEDなのかな、自分でも苦しんでんのかな、なんてことも思ってた。バカみたいだわ、私。

何年間も、必死になってこっちを向いてもらおうと思ってた自分を抱きしめてあげたい。    かわいそうに。よしよし。

あー、これ思い出すとヤバい。暗黒時代だったからなー。まぁ、その頃ちょうど私の体も、熟してたって言うんですかね、すごく性欲も強くなってた時期が来たから、余計辛かったですよね。さっさと浮気すればよかったのかもしれないんだけどね、まぁ無料マンガの有料ゾーンに行けないくらいチキンなんで。私。笑           絶対浮気とかワンナイトとかダメ!って思ってたんで。余計しんどかったんですよね。     


てことで。夫側拒否のセックスレスの妻ってば、声なく泣いてんですよ、って話。

そんな同志たちに。よしよし。頭ポンポン。