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母は泣く、娘を想って

私は普段、ヨルダンの公立学校を巡回して活動をしている。今日もいつものように学校に行き、先生(全員女性)たちと授業がない空き時間にコーヒーを飲んでいた。会話はもちろんアラビア語なのでそうぐいぐい会話に入れず、いつものようにぼーっと先生たちの会話を聞き流していた。ふと気がつくと先生の一人がとても悲しそうな声を発し、泣いていた。他の先生達が慌てて慰めの言葉をかけているようだった。

最初は何か先生同士でトラブルでも発生したのかと思ったけれど、そうでもなさそうな様子だった。授業終了のベルが鳴ると同時にその場は収まり、先生たちはみんな授業があるのか散り散りになっていった。
私は泣いていた理由が少し気になったので、仲の良い先生にこっそり「どうして彼女は泣いていたの?」と訪ねた。「彼女の娘のタウジーヒの結果が良くなかったから」とその先生は答えた。タウジーヒか。娘のタウジーヒの結果のことで泣いていたのか。

7月、ヨルダンではタウジーヒという試験が行われた。タウジーヒは日本で言うと大学入学共通試験(旧センター試験)と高卒認定試験が合わさったような試験で、大学に入るための試験でもあり、高校の卒業認定がかかった試験である。基本は12年生の学生が試験を受ける。1日1科目で1日おき、2週間にわたってマークシート形式の試験が行われる。そして、その結果発表が8月上旬に発表されたばかりだった。

このタウジーヒ、ヨルダン人にとってはものすごく大事な試験らしく、結果発表の日は試験に合格した若者を祝うために車でのドリフト走行や花火があがったり、(違法らしいが)祝砲の銃声が聞こえたりするなど、日本大使館から注意喚起のメールが来るくらいだ。
私の学校ではタウジーヒで優秀な結果を得た生徒の名前とスコアが掲示板にどーんと飾られ、教育局では優秀な生徒を表彰する式典が行われる。
そしてこのタウジーヒのスコアは一生ついてまわるのか、うちの大家さんが息子たちのタウジーヒのスコアについて話をしているのを聞いたことがある。息子たちはもうすでに大学を卒業して就職をしているというのに。

でもどこの大学に入学するのか、希望の学部に進学できるのかもこの試験にかかっているので、気持ちもよく分かる。しかし、それで母が同僚たちの前で泣いてしまうのは日本とはちょっと違うところだなと思った。それは母も娘もプレッシャーがかかりすぎでは…とちょっとかわいそうだった。彼女は別の日も他の同僚の先生の娘がタウジーヒで良い点を取ったという話題が出たときに少し目に涙を浮かべていた。

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