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このお話を考えている間は、何もかも忘れて没頭できました。感謝の気持ちを忘れないようにし…

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このお話を考えている間は、何もかも忘れて没頭できました。感謝の気持ちを忘れないようにしたいと思います。

最近の記事

唯川は1987年に目を覚ます【第2話】

破られたルールと 着信したメール このミーティングエリアの温度は一定に保たれているはず。どうして首筋がぞくぞくするんだろう。  「ふしぎな話。唯川夏目のために、長女がタイムリープしたってわけね」   男の子は、善如寺を見つめながら言った。  「あなたは信じてないけれど、ぼくが嘘つきだという確信ももてない。そうでしょう?」  「そうかもね。実はさっきから、ずっと気になっている…。最初にすべきだったけど、そもそもきみは、なにをするために、病院にいたの?」  「バタフライ効果を

    • 唯川は1987年に目を覚ます【第6話】

      ふたりの部屋                        羽根の口からもれた第一声は、意外なものでした。  「あなたも、だれかの〈代替〉をしているの?」  「ぼくが、だれかの代替?」  「いま着ているの、高校の制服ですよね」  たしかにぼくは四つボタンの制服を着ています。深い緑色で胸にエンブレムがついていて、なかなかしゃれた服ですが、どこの高校なのは覚えてません。ただ、死んでからはずっとこれを着ているのです。  「もしかすると、あなたも、別の人の魂と入れ替わっているんです

      • 唯川は1987年に目を覚ます 【第5話】

        トラブルメーカー  未来にしか存在しないものを、過去に持ち込むことは禁じられています。  まだ発明されていないデバイスが過去の時代の人目に触れたら、その後の世界にどんな影響をもたらすか分からない。  そんなことは承知の上です。それでもぼくは、ルールを破ってスマホを持ち込んできました。  2000年代生まれの人と、初めて会話するのに最適と思われたからです。   灰色のセリカのドライバーが、近づいて来る女の子に警戒されないようにステレオの音量を下げたとき、かすかなメロディが、ど

        • 唯川は1987年に目を覚ます【第4話】

          過去の町、未来の子                                   ……このときは、むしろぼくのほうが戸惑い、驚いたかもしれません。    夜の匂いと、頬にあたるひんやりした春風の感触を感じたからです。  長いあいだ(たぶん死んでから)感じることがなかった感覚でした。  理由は不明ですが、1987年にやってきたぼくには、ずっと失っていた〈五感〉というものが一時的によみがえっているみたいです。  どういうことなんだろう――ほんの数秒だけ考えこんでいたぼくが、

        唯川は1987年に目を覚ます【第2話】

          唯川は1987年に目を覚ます 【第3話】

          初めて過去に来たとき、 人はどんな行動をとるか?   ベッドの上で目を開けた彼女は半身を起こし、息をゆっくり吐きながら、自分がいる場所を見回しました。  ――ここは、さっきまでいた病院じゃない。だとしたら「どこ」にいるの?  胸がどきどきする。まるで見おぼえのない部屋にいるから。  彼女のいるベッドの位置から見ると、左側が窓で桜色のカーテンがかかっています。正面の壁には高校の制服が吊るされているから、若い女の子の部屋に見えるけど。  ななめ前には小さなデスク。上に置いている赤

          唯川は1987年に目を覚ます 【第3話】

          唯川は1987年に目を覚ます 【第1話】

          その女の子は、自分の才能を見つけてくれる人が、いつか目の前にあらわれて、すべてが変わると思っていました。 大人になると、そんな人なんか、どこにもいないと知りました。 だけど、もしも「特別な才能」を誰かに与えられたとしたら、人はどんなものにだって、なれるんでしょうか? Ⅰ 特別措置 貴殿におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 このたび、唯川夏目の生命を救うために、その親族の一部を、1987年4月15日に移送することに決定しました。 ついては「医科大学病院

          唯川は1987年に目を覚ます 【第1話】