デザイン方法論とセオリーの授業@デルフト工科大学
こんにちは。今回は大学院1年目にデザイン学生が必修で受講するDesign Theory and Methodologyという授業のポッドキャストを紹介します。この授業では、それまでデザインリサーチを経験したことのない学生が、過去のデザイン研究と現在行われている研究を広く浅く学びます。コース名の通りデザイン方法論とセオリーをメインに扱いますが、デザイン研究者がどんなことに興味を持っているかについても学ぶので、結果としてデザインリサーチの世界への入口としても機能しています。
デザインリサーチとは何か
そもそもデザイン研究(デザインリサーチ)とは何なのか?という話ですが、ヨーロッパでは、「デザイナーがデザインプロセスにおいて何をしているのか」をリサーチする分野と定義されています。例えば、デザイナーが無自覚に行なっている行為を言語化していくと、そこに法則性が見えてきます。この法則性をもとにセオリーやより良いデザインの方法を提案することができます。また、逆にリサーチャー自身がデザインを実践することで、方法論やセオリーまたは人間に対する新しい「知」が生まれることもあります。
個人的にオタク心をくすぐるのは、もともとデルフトでこのDesign TheoryとMethodologyはデザインリサーチ界隈で有名なデザイン研究者のNigel Crossが教鞭をとっていたということです。Crossはなぜデザイナーの能力に優劣があるのか?という疑問からスタートして、心理学で使われるプロトコルアナリシスと呼ばれる方法などを駆使し、デザインプロセス特有の認知の仕方についての研究したことで知られています。
ポッドキャストが面白い
ようやく本題ですが、Design Theory and Methodologyコースの教員がデザイン研究者に行なったインタビューをまとめたポッドキャストがかなり面白かったので共有します。授業では実際にこのポッドキャストを聞いて受講をします。デザインリサーチ系で留学を検討されている方や、デザイン英語を学ばれている方にオススメです。現在のデザインリサーチに大きなインパクトを与えたセオリーである"Reflective Practice”と” Co-evolution of Problem and Solution"、さらには当時デルフトにいたElisa Giaccardi教授の"More-Than Human Design"まで全8回のインタビューが収録されています。
ついでに
せっかくなのでこのポッドキャストの初回エピソード、"Reflective Practice"だけ軽く触れてみようかと思います。この回では、シドニー工科大学のKees Dorst教授をゲストに迎えてデザイン界に大きなインパクトを与えたDonald Schönのセオリー、"Reflective Practice"について話します。
MITのUrban Planning Departmentで教鞭をとっていた哲学者のDonald Schönは1983年にThe Reflective Practitioner: How Professionals Think In Actionという本の中で、 ”Knowledge Industry(例:教育、コンサルティング、サイエンス、医療など)”が出現してから、専門的な知識を持った"Professional"と呼ばれる人たちが社会に大きな影響を与えるようになったと言います。
しかし、やがてProfessionalに対する不信感が社会に広がります。それはProfessionalが社会に生み出したテクノロジーなどが、意図していない副作用を生み、結果的に社会に大きな損害を与えることがあることに人々は気づき始めたからです。Professional本人たちもまた、困惑します。自分達が受けたトレーニングと、社会に期待されている成果にギャップがあると感じたからです。そこでSchönは、Professional knowledge(Professionalの持つ知識)が社会の要求を満たすものになっているのかに疑問を持ちます。
Schönは本の中ででまず、現代のProfessionalが対峙している問題が、19世紀から科学技術の発展に伴って信じられてきた実証を重んじる思想(Positivism)で言われるような、セオリーや知識をそのまま問題にアプライして解けるものではないと指摘します。本人の言葉を引用すると、
例えば、エンジニアリングのような、専門性の枠組みの中だけで考えたら、ただ合理的に問題を解くだけで評価されるProfessionalも、環境や人間にどのような影響を与えるかまで考慮することが求められているという風に言います。要するに状況が複雑なわけです。
このような事例を挙げつつ、SchönはProfessionalが共通して持っている(持つべき)問題に対する態度をReflection-in-actionであると提唱しました。Reflection-in-actionは直訳すれば、アクションを起こしている最中にそれによって変化した状況を本人が知覚して内省し、次のアクションを検討することを意味します。
様々な因子が絡み合っている複雑な状況はそれ自体を問題として捉えるには人間にはスケールとして大きすぎます。Professionalは何らかの切り口で、状況を問題に変換する必要があります。これをフレーミングと呼び、それをすることで新しい意味を状況に与えます。そして、暫定的なソリューションを考え、そのソリューションが機能するのか、そもそもフレーミングが適切であるかを内省します。そして、もしフレーミングが間違っていると感じられた場合には、もう一度新しいフレーミングをします。この一連の作業はまるでProfessionalが状況と対話しているように見えることから"Refelctive Conversation with a unique and uncertain situation"とSchönは呼んでいます。
また、Schönはこのようにも言っています。
Schön曰く、Professionalが経験する"驚き"というのがReflection-in-actionでは鍵になるようです。自分の起こしたアクションが引き起こした状況の変化を見て、それが予想に反するものであった場合にProfessionalは次の一手を考えます。こうして、漸進的に本質に迫るのです。
ここで、Reflective Practiceの解説は終わりにしておきます。もし、面白そうだなと思ったら是非ポッドキャストを聞いてみてくださいー
ちなみにデザイナーがセオリーを学ぶことにはどんな価値があるのでしょうか?おそらく1つには自分の物の見方の癖に自覚的になれることが挙げられると思います。セオリーを読んでみると、自分がこれまでしてきた行為が驚くほど的確に言語化されていると気付いたり、逆にあまり共感できないと感じることがあるかもしれません。その経験を通して、自分に見えている現実が他人には同じように写っていないこともあると自覚が持てれば、独りよがりにならないで済むのかなと思ったりします。意外と知覚の仕方はデザイナーによっても異ったりするもので、そう言った多様性を尊重し合えるチームの方が面白いものを生み出しやすいのではないかなと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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