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ベルギーの育成モデルからプレイヤーズファーストを学ぶ
6月5日にマンチェスターまで行き、育成に関するカンファレンスに出席してきました。
お目当てはベルギーサッカー協会の指導者養成の最高責任者、クリス・ファン・デル・ヘーゲン氏のプレゼン。
他のプレゼンターからもたくさんの学びがあったのですが、クリスのプレゼンは期待していた以上の学びがありました。しかしそれと同時に大変な危機感を覚えました。
理論の部分では「うんうん、そうだよね」「これが育成にいいよね」といった、みなさんも聞いたことがあるような育成に必要なことをおっしゃっていましたが、それらを実際に国レベルで取り組めているという事実。
もちろんベルギーの面積や人口を考えれば日本よりも浸透しやすいかもしれません。
しかし彼らがプロジェクトを始めて10年でFIFAランキング66位から1位ですから、このプロジェクトを継続されれば日本とベルギーの差は開く一方では?と思うわけです。
カンファレンスに出席した晩、このイベントについてツイートをしたところ、まあま反応があり、みなさんが興味を持っていることがわかりました。
この情報は共有することに意味があると思います。僕だけが持っていても日本のサッカー界は変わりません。(僕が発信したところでというのもありますが…笑)
もちろんあのプレゼンは国レベルでの取り組みなのでサッカー協会という大枠の話にもなるんですが、プレイヤーズファーストはクラブで実践できることなので、何かしらが参考になればとてもうれしいです。
1. ベルギーの指導者教育概要
ベルギーのこのプロジェクトはThe Belgian Wayと呼ばれるもので、その中でもBelgian Football DNAを核に位置付けて指導者を育てています。特にこの3つ;
- 4-3-3
- 選手のプロフィール
- クリエイティビティ
に絞って、指導者教育をサッカーの発展において最も重要なカギと認識しました。
特にクリエイティビティは重要視されていて、
「ゲーム形式の練習を数多くやることでクリエイティブな選手は育つ」
「ただゲームをやらせればいいわけじゃない。そしたらコーチはいらないからね。その日のテーマに沿って、その現象が出るようなオーガナイズをしなければならない。このためにコーチは本当に頭を使わないとゲーム形式で学ばせることはできないよ」
とクリスは言っていました。
ここで言うクリエイティブな選手とは、トリッキーな事をする選手を指しません。次々と起こる問題をその都度もっとも適した答えを出せる能力を持った選手を指します。
Belgian Football DNAとは
- Who we are? レベルによって変わりますが、クラブ/自分の存在意義
- How we play? →プレー哲学
- How we identify and develop talent? →タレント育成の哲学
→タレント発掘の哲学
→未来の選手像
- How we coach? →コーチング哲学
- How we support our players? →選手の身体的、心理的サポート
こと5つを指導者に落とし込んでいます。
ここまでがざっくりとした指導者教育の概要です。
余談ですが、これを聞いたとき、イングランドはベルギーのモデルをかなり参考にしていることがわかりました。この5つはイングランドのライセンスでも取り組みますし、ゲーム形式の練習を作るように言われます。
この5つは個人でもできる事なので、考えてみてはいかがでしょうか?(特にコーチング哲学はやった方がいいですよ)
2.プレイヤーズファーストとは
簡単に言えば、
選手の上達のためになること、いいことはすべてやる
ということです。
その中でも、日本でも散々言われているであろう2つを紹介したいと思います。
その前に。このあと述べることはどこかで聞いたことがあるようなことを紹介しますが、クリスがカンファレンスで口酸っぱく言っていた事を。
「いいと言われている事はみんな知ってる。でもそれ、実行できてる?みんなファーストフードは体に悪いって知ってるけど食べるよね?知ってる事とできるって事って違うんだ。だからやらなきゃ意味ないよ」
選手の育成とコーチのエゴ
育成における最大の問題はコーチのエゴだとおっしゃっていました。
コーチのエゴとは
「勝利だけを追及し、チームのパフォーマンスを気にする事」だそうです。
それを「選手個々人の育成に意識を向ける」方向へと変えました。
ベルギーはこの意識改革に6年ほどかかったそうです。
意識が変わったのは、そのコーチたちが選手の変化に気づき、うまく行っている実感を持てたからだと。
そして個々人が上達すればチームとしてのレベルも上がる、という実感もあり、コーチたちはエゴを捨てられるようになったそうです。
ただしこれはバラバラに選手を育てるというわけではありません。
「ゲームモデルに選手を当てはめるのではなくて、チームのスタイルが前提にありながら個々人が成長できるように、その個人特有のタスクを与えることで個人の成長を促す」
とおっしゃっています。
つまり、「右ウイングはこうプレーすべきだ。誰が出てもこうプレーすべきだ」という考えではなく、チームとしての戦い方はあるにせよ、選手個々の特徴を潰さない育成が何よりも重要だということです。
ここで個っていうと「ドリブルだ!パスだ!1v1だ!」って話になりがちですが、あくまでも選手がサッカーというゲームを学べているか。これが個の育成である、ということです。(だからゲーム形式の練習)
そしてこれが2.2に繋がります。
個の育成>トーナメントでの結果
プログレス>勝利
年齢に応じた学びとゲームフォーマット
先ほどの章の最後に、選手がゲームを学べているかが大事だという風に書きました。
サッカーでは年齢に応じた学びが非常に重要です。
8歳児に3人目の動きを説明しても、まぁ時間の無駄でしょう。
この章ではベルギーが実践している事例(方法論)を紹介します。
3-5歳:基本動作(歩く、走る、投げる、蹴る、掴むetc)を運動遊びで。必ずしもサッカーとは限らず、多様な運動経験を(マルチスポーツは11人制になるまで推奨)。サッカーではボールを運んでシュートをメインに学ぶ。
U6-7:自分とボール。ドリブルを中心に。
試合形式はU6は1v1+GK(20×12m)、U7は2v2+GK(25×15m)
U8-9から集団プレーを学びますが、自分の近くにおいて。サポート、マークにつく、などのボールに直接関与していない時のプレーを少しずつ学びます。
試合形式は4v4+GK(35×25m)
U10-13は範囲を広げて集団プレーを学びます。それは試合形式にも出ており、7v7+GKで行います。
U10-11は小さめに、U12からピッチを広げます。
U14+から11人制に移り、大枠での集団プレーを学びます。
ただ、割合としては13,4になるまでは圧倒的に基礎を学んでいるようです。
基本とはボールコントロールやドリブル、運ぶ、パス、シュート、サポートのためにマークを外す。守備ではプレス、1v1のデュエル、シュートブロック、インターセプト、スペースを埋める、マーク、などなど。13,4からチーム戦術が半分を超えるようなイメージです。
試合時間の正確なのはわかりませんが、クウォーター制を導入しており、各クウォーターが終わるたびにベンチの選手を全員出す義務があります。
またU17までは最低でも50%のプレー時間を全選手に保証しなければいけないようです。
これらはほんの一例ですが、選手を取りこぼさず全員を育てていくという姿勢がベルギーから感じられます。
ベルギーで育つ選手はサッカーの事を嫌いにならないかもって思うほど選手の事を考えた施策と実行力だと思います。
それは人工1000万人という小さめの国ならではのアプローチでもありますが、日本でも実践できることは数多くあるのではないでしょうか?
しかし、これをそっくりそのまま真似はできません。たとえば日本ではU13中1にあたり、U12からのスムーズな連携は難しい。またベルギーはU14から11人制ですが、日本だとU13がキリがいいでしょう。
日本なりのプレイヤーズファーストってどういう形でしょうか?僕も考え続けます。
最後におまけ
3. クリスに聞いた日本とベルギーの違い
プレゼンのあとに5分ほどですが、直接お話を伺えることができました。ベルギーとはW杯で二度対戦していますが、2002では引き分け、2018では2-3。しかし2018に関しては僕は点差以上の大きな力の差があったと感じています。16年でこれだけ差がついたのはプロジェクトの影響ですが、クリスが日本をどう見ているのか気になったので聞いてきました。
以前日本人選手と仕事したけど、彼らは本当に技術があった。技術の高さはトップクラスだ。しかし上手だったのはボールを右から左、左から右に動かす事。クリエイティブやリスクを冒せない選手が多いと感じたよ。
これは価値観にもよるが、僕はあんなサッカーを見ていたら眠たくなってしまう。ゴールは常に前にある。キーワードはVerticality(縦)だ。
勇気をもってプレーできるようになったら、これからもっと強くなるな。技術はあるんだから。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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