4S:賢く効果的な1v1の守備とは
だいぶ前の話になるのですが、ハンプシャーFA(以下FA)が開いたジュニアユース向けの「Intelligent Defending in 1v1」という講習会に行ってきて、英語では非常に覚えやすい1v1守備のキーファクターを学んだのでシェアします。
(ハンプシャーは僕が住んでいる州です)
イングランドDNA
まず初めに、この守備を理解するにはイングランドではFAが推し進めるイングランドDNAというものの理解が非常に重要になっており、イングランドDNAがベースにあってこその紹介するキーファクターなので、イングランドDNAの守備についてまず説明させてください。
(キーファクターの章まで飛んでくださっても構いません)
FAは守備について
Aim to regain possession intelligently and as early and as sufficiently as possible. All aspects of the out of possession philosophy will take into consideration the state of the game, the environment and the pre-determined game plan.
と示しています。
日本語にすると
なるべく賢く、素早く、効果的にボールを取り戻す。守備のすべての要素は試合の状況、環境、そしてあらかじめ決められたゲームプランに基づいて考えなければならない
となります。
つまりイングランドDNAによって育った選手は守備において「賢く、素早く、効果的にボールを取り戻す」ことができる選手であり、これらを達成できるキーファクターを学ぶことが重要であり、指導者はどのようにしてこれらを達成できる選手を育てられるかを理解しておく必要があるのです。
1v1守備のキーファクター:4S
4Sとは、キーファクターの頭文字がすべてSで始まることからこう名付けられています。
Shut Down
Slow Down
Stay Down
Show Down
FAでも人によってはSlow と Stay の間に Sit Down があって5Sだという人もいますが、ないという人もいます。
個人的にはSit Downはその場に足が居着いてしまう感覚があったので4S派に所属しています。
では細かく説明していきます。
Shut Down:間合いをつめる
これは1v1に持ち込む最初のフェーズで、ボールの移動中になるべくボールが渡る選手と自分の距離をつめるフェーズです。
守備においては相手のプレーできるスペースと考える時間を奪うことが非常に重要であり、そのためにはなるべく距離をつめる必要があるので、アプローチを開始するタイミングとフルスプリントがこのフェーズにおいて大事です。
Slow Down:減速
ボールが相手に渡るタイミングで減速する必要があります。
よく「突っ込むな!」という指導者がいますが、減速しなければボール保持者と入れ替わりやすくなるので、相手がボールを触る少し前から減速する必要があります。
ただし例外もあります。インターセプトです。
もしパスがインターセプトできそうな強さであるならスピードを落とさずにインターセプトするべきです。
そのためこのフェーズでは、パスの強弱から減速するタイミングを読み取ることが重要になります。
減速するタイミングのコツは、失敗・成功体験から自分で発見するしかないので、練習の中で選手にどんどんトライ&エラーを繰り返されてあげてください!
Stay Down:低めの構え
膝が伸びきった高い重心では相手のドリブルに十分に対応できないので、膝を軽く曲げる必要があります。
イングランドでは Soft Knee と言って、膝の力を少し抜くことで相手に素早く対応できると言われています。
膝を深く曲げすぎると力んでしまいその場に居着いてしまうので、軽く跳ねられるくらいの力感で曲げるといいでしょう。
アスリートコレクションでも紹介しているように、ワン・ビサカは膝を軽く曲げた状態で対応しています。この状態が素早い対応を可能にしているのです。
またワン・ビサカはもう一つ重要なキーファクターを実行しています。
それは「前かがみになりすぎない」ことです。
特に相手がドリブルの上手い選手に対しては「絶対止めよう」「絶対抜かれない」といった心理が強く働きます。その結果、極度の前かがみになります。
英語では Neutral Position(ニュートラルポジション)と言って、前後左右どの方向にも対応できる姿勢が重要と言われています。
Show Down:体の向きと最終結果
最後は体の向きを作って相手を一方向に誘い出してボールを取るフェーズです。
この表現が日本と一番違うと感じたところでした。
日本では、相手と対峙した際に体の向きを作って「切る」といって相手が行ける方向を一つ潰すというニュアンスで1v1の守備を教えることが一般的だと思います。
イングランドではShow Down、つまり相手に1つの方向を見せる(Show)ことでその方向に誘導してボールを取るというニュアンスで1v1の守備を教えます。
もう一つのキーファクターとして45°の体の向きを作った際は、後ろの足が行かせたくない方向とボールを結んだ線上にあるのが好ましいです。
何故かというと、前足が線上にあると入れ替わりやすくなるからです。
左利きの選手がゴール前でボールを持っているとしましょう。
相手が左利きなので、守備者は自分の左に行かせたいはずです。この際に右に行かれてしまうのはどっちか?ってことです。
論理的に考えれば左足が線上にある図の右側の方が効果的と言えます。
というキーファクターです。
あと個人的な発見ですが、体の向きにも利き足?があると思っています。僕は右足が前にある体の向きはやりやすく、左が前にあると気持ちが悪いですし対応が遅れます。
おそらく選手も知らず知らずのうちに「利き体の向き」が出来上がってしまっていると思われるので、練習で左右どちらにも誘い込む練習を設定してほしいと考えています。
英語と日本語のニュアンスの違い
この一連の守備は Forcing Play と呼ばれ、相手を一方向に無理やり行かせる守備です。そして日本では一方向を「切る」と言います。
この差は個人的には大きいと思っていて、英語の表現の方は守備側が主導権を持って積極的にボールを取りに行くイメージがわきますが、「切る」という表現は「この方向には行かせない」というニュアンスがあり、「この方向に行かせなければ仕事をした」という積極的にボールを取りに行くイメージが湧きません。
これは英語圏を上げて日本を貶めるものではなく、もっと適切なボールを取りに行けるようなイメージが湧く日本語の表現があるんじゃないか?という提案です。もし何かより言葉があればコメントしてほしいです。
練習例
ますは超基本的な1v1の練習。何も目新しいことはありません。
ただし先ほどShow Down の最後でも言ったように選手には得意な体の向きがあるように思われます。それを改善するためにもゴールやゲートの位置を変えることで選手は相手をどこに追い込むかを勝手に考えてできるようになります。
2v2以上の練習も超大事です。
4Sの最初のS、Shut Down はボールの移動中に距離をつめることが大事と書きました。つまり相手Aから相手Bへとボールが渡る状況が必要で、それには敵味方それぞれ2人以上が必要です。
キーファクターまとめ
- 4S (Shut Down, Slow Down, Stay Down, Show Down)
- アプローチ開始のタイミング
- フルスプリント
- 相手との距離感(2-3m)
- 姿勢(ニュートラルポジション)
- 体の向き(およそ45°)
- 後ろの足をボールと守る方向を結んだ線上に
- ステップワーク
- End Product = 結果(前足でつつく、後ろ足でブロック、体を入れる・当てる、クリア)
これらのタイミングや体の向きや位置などは本当に基本的なことばかりですが、指導する側としてはキーファクターの整理になるのではないでしょうか?
上記のキーファクターを理解した上でこのワン・ビサカの動画を擦り切れるほど見てほしいです。特に相手との距離感以降のキーファクターの参考になります。
キーファクターはロジカル(論理的)な順序で理解することがが大事で、選手のプレーを観察してスクリーニングする際に、どこにエラーがあって何を修正しないといけないかをわかるようになります。
4S の日本語版は自分の中では見つけられていませんが、イングランドの一つの事例の紹介とさせてください。
また、この記事は指導者や選手向けに1v1の技術・戦術を中心に書いていきましたが、アスリートコレクションにて選手向けの1v1守備におけるフィジカルに特化して記事を書きましたので、もしよければ合わせて読んでみてください!
これから先は読んでも読まなくてもどっちでもいいです。完全に夜のテンションで書いてる自己満です笑
一度日本でバスケの練習を見学していてコーチが守備について言及していたことが今も忘れられないので紹介します。
守備で大事なのは、1に気持ち、2に気持ち、3も4も5も気持ちだ!目の前の相手を止めたい、役割を全うする、チームのために頑張る、と強く思っていないと勝てやしない!
これをどう捉えるかは自由ですが、僕は相手を止めたいという強い気持ちがなければ上で書いた守備の技術は役に立たない、という風に解釈しています。
シメオネのアトレティコを見ていて強く感じることは
「守備は高いインテリジェンスと強いメンタリティー」ということです。
全員が正しいポジショニングを取り続け、取りどころでは強度がグッと上がる。また被カウンター時には全員が死に物狂いで戻ります。
これを見ると気持ちの重要性も甘く見れません。
例えばワン・ビサカのこの動画を見ても最後は汚れても醜くても目の前の相手を止めるからこそ彼は価値のあるDFなんだと思います。
多くの選手は攻撃が好きで守備は二の次です。でもボールが奪えなければ攻撃はできないように、ゲームにおいて非常に重要なパートであることは間違いなく、攻守に優劣をつけられるはずなとありません。
そのような選手たちに対してわれわれ指導者はどうアプローチし、どうすれば守備を積極的に取り組めるかを考えることが大事だなってこの記事を書いてて思いました。
最後、感想文みたいになってすみません笑
最後まで読んでくださってありがとうございました!
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