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ベルギー対日本、後半の分析

「ある試合を選び、そこで行われた戦術的変更を正当化しなさい」という課題を出され、最初に頭に思い浮かべたのは2018年ワールドカップでフェライニを投入して流れを変えた試合でした。

この記事は、フェライニの投入が試合にどのような影響を与えたのかを検証し、ベルギーの視点からどのように正当化できるか、という課題を日本語に翻訳したものです。

動機としては、試合における「流れ」を明らかにしたいというものです。

なのでガチガチに固い文章になっています笑

また1週間でデータを集めて書き上げる課題だったので、データの収集方法などにケチをつけられても困ります笑

なのでほどほどに読んでいただけたらと思います。

参考文献等使って書いています。原文に当たりたい場合は直接連絡ください。

イントロは読む必要もないので、結果に飛んで読み進めても問題ないと思います笑


イントロ

スポーツは様々な要素で構成されており、特にフットボールは「技術・戦術・フィジカル・メンタル・ソーシャル」要素で構成されている(The FA 2020a; Tamarit 2015)。伝統的にこれらの要素は個別に、もしくは独立した要素として扱われていたが、「複雑系」的考え方はこれらの要素は相互依存関係であり、共通した特徴がある、と主張している(Balague et al. 2013)。つまりひとつのことをひとつの視点で議論することは不可能である、ということである。

例えば、サッカーに必要なフィジカルを論じる研究もあるが(Wisloff et al. 2004; Di Salvo et al. 2013; Stewart and Springham 2018)これらはフットボールにおいて必要な要素であるにも関わらず、フットボールからわかれた要素でテストされている。監督やコーチが選手に求める戦略・戦術・スタイルが必要なフィジカルの要素に影響を与える(Bradley et al. 2018)。守備の戦略で例えれば、ハイプレスにおいてもマンツーマンなのか、罠にはめる戦術なのかで走る負担が変わるのだ(The FA 2020b)。加えて攻撃においてもボール保持は高強度走に影響がある(Bradley et al. 2013)。

技術的な要素も戦術やフィジカルの要素から切り離すことができない。攻撃戦術は簡単にポゼッションとダイレクトに分けられる(Bangsbo and Peitersen 2016)。ポゼッションスタイルは短いパスを忍耐持って繋ぐものを指し、ダイレクトプレーはロングボールを多用し、素早く攻め、相手DFをプレッシャー下に置くスタイルを指す。スタイルがどのテクニックを実行するかの判断や、フィジカルパフォーマンス、ゲームでの態度や心理面などに影響を与えるのは明らかである。例えばダイレクトプレーはロングボールとヘディングが増え、違った種類のフィジカルが求められる。文脈なしで言えば、Hughes(1990)は枠内シュートが10本に届けばほとんど負けることはなく86%の確率で勝てる、と述べており、テクニックが試合に与える影響もある。加えて、シュート数・枠内シュート数・パス成功率・パス総数・ボール保持などの数値がいいと勝つ傾向があることがわかっている(Szwarc 2004; Lago-Penas et al. 2010; Lago-Penas, Lago-Ballesteros and Rey 2011)。

技術・戦術・フィジカルの要素だけでなく、メンタルもフットボールのパフォーマンスに大きな影響がある。FA(2020c)はスタイルによってメンタルも変わり、例えばビルドアップでは慎重さや勇気が求められ、それによって特定のテクニックアクションが内包される。例えば選手が勇気を持っていなければ、ボールを前に運べない。心理面でさらに言えば、コーチが明確なタスクを選手に与えることで選手は自信を持ってプレーできる(Hays et al. 2007)。選手が何をしなければならないかをわかっていることで、アクションを自信持って実行できるのだ。

加えて、フットボールはこれらの要素が相互依存しているだけではなく、パフォーマンスは相手のクオリティによっても決められるのだ。例えば、ポゼッション戦略や技術パフォーマンスは相手のクオリティによって変わる(Lago 2009; Taylor et al. 2008; Castellano et al. 2013)。さらに、試合の状況も影響がある。チャンピオンズリーグのベスト4に進むチームは、負けている時や引き分けている時の方がボール保持の時間が長くなる(Paixao et al. 2015)。

サッカーにおける複雑系が明らかにしたように、この記事は技術・戦術・フィジカル・メンタルなどの相互作用から、選んだ試合の戦術的変更を議論を試みる。戦術的変更といえど、スタイルの変更が戦術だけでなく他の要素に影響を与える、もしくは他の要素が戦術に影響を与えるのかなど、なるべく多角的に検証するつもりだ。

シーンと仮説

この記事は2018 FIFAワールドカップ、決勝トーナメント1回戦のベルギー対日本の戦術的変更を調べ、議論していく。シーンの簡単な紹介をすると、日本は後半開始3分で先制し、52分に2-0とした。するとベルギーは65分に2枚替えをし、69分、74分に得点した。そのうちの1人は2枚替えで入った選手である。さらにラストプレーで決勝点を挙げた選手も交代で入ってきた選手の1人である。

得点と交代は試合の流れを変え得る重要なイベントであり、コーチは戦術的な変更をするかどうかの決断を迫られる(Higham 2006; Cale 2006)。さらには試合の経過(得点状況)によってシュートまでのパス本数や時間の経過が変わると主張する研究(Paixao et al. 2015)もあり、それによればチャンピオンズリーグ準決勝に進むチームは、負けや引き分けの状況にいる時には勝っている時よりもパスを多く繋いでシュートまでいき、勝っている時は少ないパスでシュートまで行く。これは試合の状況が戦術の変更を強いているとも言える。

この記事は、日本が2点目をとった52分と、ベルギーが試合の流れを取り戻すために行った65分の2枚替えを、試合の流れが変わった局面と定義する。そのためこの記事は後半を4つの局面に分ける。後半開始から52分、52分から65分、65分からベルギーの同点ゴールがおきた74分、そしてそこから試合終了までの4局面である。

検証方法

手動によるデータ収集をした(Carling, Reilly and Williams 2005)。上記したような4局面に分けるが、それぞれに時間の長さが違ってくるため、アクチュアル・プレイイング・タイム(実際のプレー時間)を算出し、テクニカルアクションは1分あたりのアクションとして検証してみた。
収集するデータは、パス総数・パスミス数・パス成功率・シュート総数とその内訳(枠内・枠外・ブロック)とそのシュートテクニック(足・ヘディング)である。

結果

実際のプレー時間はそれぞれ、Phase 1, 280秒; phase 2, 438秒; phase 3, 256秒; phase 4, 659秒。

表1はそれぞれのフェーズにおける総パス数とミスの数を表しており、()内はパス成功率を表している。【総パス数:パスミス(成功率)】

黄色で示しているのは両チームの最もパス成功率が高いフェーズで、オレンジは最低のパス成功率を示している。お互いパス成功率が高かったフェーズで2得点した形になっている。日本は得点後、大きくパス成功率を下げた結果となった。

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表2は1分あたりのパス総数とパスミス数を示している。【パス総数:パスミス】

総数に大きな違いは見られなかったが、両チームともパスミス数が少ない時間帯に得点していることがわかる。

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表3は各フェーズにおけるシュート総数を示している。両チームとも1分あたりのシュート総数が多いフェーズにおいて得点していたことがわかる。(黄色)

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表4は各フェーズのシュートテクニックを示している。ベルギーは交代後にヘディングシュートが増えており、ファイナルサードでの戦術が変わった事が見える。

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ディスカッション

まず初めに本記事は、チームのクオリティと、ボール保持・パスの正確性に相関が見られ、先行研究(Lago 2009; Taylor et al. 2008; Castellano et al. 2013)と似た結果となった。2018年6月時点でベルギーはFIFAランキング3位で日本は61位であり、この事前の予想で日本は普段の戦略からこの試合用に替えた可能性もある。

ベルギーはより多くのパスと高いパス成功率を出した。この結果はパス総数と正確性が成功の指標とした他の先行研究と似た結果である(Paixao et al. 2015; Szwarc 2004; Lago-Penas et al. 2010; Lago-Penas, Lago-Ballesteros and Rey 2011)。ブラジルで行われた研究ではボール保持・パスミスと結果には相関がないとしている(Barreira, Vendite and Vendite 2016)。確かに2018年ワールドカップ優勝国のフランスの平均ポゼッション率は全32か国中20番目で48%である(FIFA 2018)。

Szwarc(2004)の分析によれば、負けるチームはプレッシャーのない状況ではパス成功率が高い。ベルギー戦の日本を見てみると、得点したフェーズでは96.5%のパス成功率を出しているが、2-0とした後は劇的にパス成功率を落としている。詳しい守備の分析が必要となってくるが、この結果はベルギーが日本にプレスをかけて日本がそれに耐えられなかったか、日本が守備ブロックを深く敷き、2-0を守ろうとした結果なのかもしれない。1分あたりのパスを見るとより明らかで、得点を決めたフェーズはミスが少ない。この結果は、得点を決めるにはミスを最小限にとどめることが示唆される。

シュート結果を見てもベルギーが試合を優位に進めたことが示唆される。シュート本数と結果に関係があると先行研究でも述べられている(Szwarc 2004; Lago-Penas et al. 2010; Lago-Penas, Lago-Ballesteros and Rey 2011)。これらの研究はそれぞれ別の環境下で行われたのでそのまま当てはめることはできないが、本記事の結果はベルギーの方がシュート・枠内シュートを放っており、シュート数と結果にはある程度の相関があるのかもしれない。

シュートに関してベルギーは最初のふたつのフェーズはそこまでだった。日本は最初のフェーズでは効果的で、2本のシュートで2得点した。しかしベルギーは交代後にシュート数が劇的に増えた。ベルギーは1,2フェーズでは3本のシュートしかなかったが、フェーズ3では5本、フェーズ4では6本のシュートを放っている。シュート本数だけでなく、シュートテクニックも変わった。ベルギーはフェーズ1,2でのヘディングシュートが1本しかなかったが、フェーズ3,4では5本に増えており、そのうち2本は得点になっている。これは交代による戦術的な変更が示唆される。

65分にベルギーはメルテンスを下げてフェライニをピッチに送っている。メルテンスは169㎝でフェライニは194㎝である。監督はこの交代によって選手たちに高さを利用した攻撃をしてほしいとメッセージを送ったのかもしれない。これは日本との比較でも明らかだが、この交代後、ベルギーは185㎝以上のフィールド選手が8人いたのに対して日本は吉田だけである。

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またフェライニはMF登録ではあるが、この試合ではFWのようなポジションでプレーしている。

この変更によってベルギーはヘディングでのシュートが増え、ヘディングで2得点している。さらに日本の視点から言えば、ベルギーの高さに対する不利は危ないものだった。最後のプレーで日本はコーナーを放り込んだが、結果として楽々キャッチされ、カウンターから決勝点を決められてしまった


結論

結論として、日本視点では、得点後のプレッシャーのある状況でボールを繋げる能力がなかった。さらに言えば、ベルギーの2枚替えのあとに相手の策を無効化するプランを持つべきだった。ベルギーの視点からは、選手交代が大きなインパクトを与えた。2チームの比較から、ベルギーが空中戦で優位性があったことがわかった。ベルギーの戦術的な意図はポジティブな方に傾いたのだ。

数値の話をすれば、本記事は他の先行研究と似たような結果が出た。興味深いことに、得点を決めるなどの流れがあるチームは、ミスが少ない傾向があった。

今後の研究ではクロスの数やペナルティーエリアへの侵入数などこの記事では省かれた数値を含むことでより詳細な「試合の流れ」がわかるかもしれない。また、ミスが少ないことが得点の要因かもしれないと書いたが、日本のパス成功率が下がったことを見て、守備の効率を調べるのもひとつかもしれない。

イントロでも触れたが、フットボールは複雑なスポーツで様々な要素が相互に依存している。本記事では、フィジカル、特にサイズが戦術に影響し、実行するテクニックも変わったことがわかった。したがってパフォーマンス分析は文脈が非常に重要で、パフォーマンス要素がどのように関わりあっているかに焦点を当てる必要がある。HughesとBartlett(2002)はデータの比較が重要だと述べている。確かに本記事は1試合、それも後半だけの分析であり、この試合以前の3試合の影響は考慮していない。これらを加味することで違った視点を加えることができるかもしれない。


最後に

ガチガチな文章を最後まで読んでくださってありがとうございました!(もしすでにこのような分析をされている方がいらしたら、本当に申し訳ありません)

ベルギー戦を振り返り、最後のカウンターのシーンを見るといまだにザラザラとした気持ちになるのですが、何とか書き上げました。

研究っぽい文章とか検証って、「当たり前じゃない?」っていう結果を出すプロセスでもあるので、今回の「ミスが少ない時間帯に得点が生まれるかもしれない」っていう当たり前の結論に辿り着きました。しかも断定できないっていう…笑

でもその積み重ねがフットボールの理解へと繋がるのかなって思います。


さて、このコロナ期間で本当にいろんな人が僕のツイッターや記事を見ていることがわかったので、誰に見られているかわからないという保険として言わせてください。

本記事は日本代表を貶めるためのものではありません。ある意味で失敗の検証とも言えます。

思い返せば2014年もドログバが途中から出てきて流れを変えられてしまいました。日本代表がパワープレーで負けるところをできればもう見たくありません。

この記事の結果が影響を与えられるとは思っていませんが、何かしらに貢献できたらなと思っていますし、なんならサッカー協会の方々はこのような分析も行っておられると思うので、貶める意図はないということだけわかっていただければなと思います。

本記事はサッカーにおける「流れ」を解明したいという動機で書いていますので悪しからず。

拙い英語で書いた原文を読みたいという方は直接連絡をください。参考文献などはそちらにありますので。連絡いただいたらお送りいたします。

それではまた!

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