上生菓子は心通わせるメッセンジャー
昨今、SNSのおかげで上生菓子にこれまであまり縁がなかった人たちにもその季節を感じさせる美しさや愛らしさへの親しみが広まっているのを感じます。
一方で、和菓子の中でも菓銘(名前)を付けることで完成する上生菓子はその美しい意匠を愛でて味わうだけのものではありません。伝統的な銘には歴史や文化を背景とした豊かなエピソードをもっており、「すこやかに、しあわせに」と願う意味合いを含むものも多く、もてなす側と召し上がる方との間に心を通わすメッセンジャーとなってきました。
風習などのはっきりとした意味合いを持たない意匠であっても、いち早く季節の移ろいを感じていただくことで気分が一新し(=「ハレ」の効果)、ともに分かち合っている今このひとときの有り難さや尊さ(=一期一会)を感じさせます。
そうした心のやりとりはこれまで茶席という特別な時空間の中で堪能されてきましたが、茶道が広く嗜みとされた時代が過ぎ、文化的な多様性が広がっていく中でお菓子がもつメッセージを解する人の層はずいぶんと薄れてきています。
せっかくなら視覚的な楽しみだけでなく、ひとつの小さなお菓子から広がる世界やメッセージ、良い材料で丁寧に仕上げることで生まれる心に馴染む美味しさを一緒に味わってもらいたい。語りながらもてなせばもっと多くの人にこの魅力が伝わるはずと思い、これまで上生菓子をこしらえては言葉を添えてきました。
私は職人ではなく、ただ一介の和菓子好き。より良いと思うものを求めて自分にできうる最大限の範囲で学び続けている身ですが、神戸でも和菓子から広がる世界や美味しさに心浮き立ったりしみじみと感じ入ったり、心で楽しむ機会がますます増えることを願って、今年も尽力していきたいと思います。
*日々することが山積してちょうど丸1年、投稿を休んでおりました。その間、人と人、あるいはこの世界と自分自身を結んでくれる和菓子が与えてくれる素敵な出会いや関わりに恵まれて、たくさんの栄養をいただきました。過去1年の和菓子はご容赦いただいて、次回「啓蟄」より投稿を再開いたします。
汐音屋 山崎ちひろ拝