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産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 中学生活 11

あっという間に冬休みとなった。
冬休みは年末年始に行事が集中している。
クリスマス、お餅つき、お正月…それが済んだら何もないが大家族ならではの楽しみ方が出来る吉澤家。

ーークリスマスーー
皆で集まって夕食を済ませた後…。

あやめの部屋には可愛いピンクのクリスマスツリーが飾ってあった。龍一と2人で部屋を暗くしてツリーを眺めながら寄り添っていた。2人きりのロマンチックな時間。

ハロウィンの時に怒った事など遠い昔の話になっていた。

クリスマスが終わると年末行事になる。吉澤家では28日にお餅つき大会を庭で行う。
3組に分かれて石臼と杵でつく。ここは下積みvs幹部でのアツい戦いの場となる。
あやめは初めてお餅つきを見たので感動した。
お餅を丸めた事がないあやめは上手く丸めることが出来なかった。

『あやめちゃん、両手を動かすからお団子になっちゃうんだよ。片方は固定するの。もう片方を動かしたら中から熱いのが出てこない?』
秋乃があやめにレクチャーしている。

「あ!熱い!ホントだぁ!」
嬉しくて丸めすぎて不恰好な薄皮饅頭みたいになっていた。
全て出来上がった後、大鍋で作ったお吸い物に出来立てのお餅を入れて皆で立ったまま雑煮を食べる。大家族ならではの楽しみ方だ。あとはお正月が来るまで待つばかり。

ーー正月ーー

「あけましておめでとうございます!」
あやめは皆が集まっている和室に入って挨拶をした。
「明けましておめでとう!」
彩菜からお年玉を渡された。裕二から預かった物と吉澤家一向からと。

「え…こんなに沢山!嬉しい!ありがとう!」

『あやめちゃんはいい子にしてるからね~。龍一と違って。』
嫌味ったらしい言い方をする彩菜。

『俺だっていい子にしてるぜ?』

『アンタは最近ロクなことしかしてないでしょ!』
皆に笑われる龍一。彩菜に見つかった所業はもれなく吉澤家全員が知る所業となっていた。

『さぁおせちも用意したし…お雑煮もあるわよ!』

「お母さん、あやめお雑煮食べたい!」
あやめは自分が丸めたお餅もあるので当たるかも知れないと思うと嬉しくてたまらなかった。彩菜があやめの前に雑煮を持って来たのであやめはおもちを伸ばしながらふーふーと息で覚ましていると何か変な感覚に陥った。

「ん…。」
あやめは口を手で押さえた。

『どうしたの?』
彩菜が飛んで来た。

「ムカムカする…」
様子がおかしいので彩菜はあやめをリビングに連れ出して背中をさすった。

『困ったわね。風邪かしら?』
正月早々困ったことが起きた。病院が開いてない。闇医者も休んでいる。働け!

「においが…この前大丈夫だったのに…」

『ニオイ!?』
秋乃と明菜以外の女性陣はその感覚に身に覚えがあったので嫌な予感が脳内を走った。

「お餅のにおいが…急に…嫌なにおいに感じたの…」
明らかにおかしい。

『瑠衣ちゃん私、近所のドラッグストア行って来る!あやめちゃんの事みてて!』
彩菜は急いでドラッグストアに行こうとして財布と車のキーを用意していた。

『彩菜ちゃんが近くにいてあげて!私が買って来るわ!』
瑠衣が立ち上がった時に明菜が瑠衣に近付いて来た。

『ママ…もしかして妊娠検査薬…?私持ってる…』

『なんでそんなもの…って今それどころじゃないわ!持ってるなら今すぐ持って来て!』
明菜は急いで妊娠検査薬を持って来た。

『とりあえずこれを…。』
彩菜は妊娠検査薬の説明をしてあやめをトイレに連れて行った。

数分がとても長く感じた。
男連中も龍一以外全員ピーンと来ていた。

「プラスのマークに色がついたよ?何?」
あやめは無邪気だったが周りは凍り付いた。

『陽性のマークがついてる…あやめちゃん…妊娠…してる…。』
彩菜は戸惑った…。

「妖精を妊娠?」
あやめは何のことかわからなくて怖くなった。

『妖精じゃなくて陽性ね。心当たりはある?龍一がまたコンドームなしでしようとしたとか?』
疑うべきは龍一しかいない。

「絶対使わないとしない!って言って来たもん!お母さんと約束したもん!」

『龍一…アンタつけるの失敗したとかは?』
彩菜は男性陣のいる部屋で龍一をとっ捕まえて尋問した。

『…』

『龍一?』

『…』

『正直に言いなさい!大事なことなのよ!』
彩菜は大変な事だとわかっていない龍一に怒りをぶつけた。

『1回……。』

『は?』

『…なかったから…着けたふりして…した…。』
龍一はとんでもない暴露をした。

「そんなの知らない!いつ!?」
半狂乱になるあやめ。

『背後から見えないように…外で出したらバレるから中に…。でもあの日3回目だったしもう薄いだろうから大丈夫だって思ってたのに…。』

『バカ!!濃度の問題じゃないわよ!今何が起こってるかわかってるの!?』

「…あの背後からの時?着けてなかったの?」
あやめは彩菜にしがみついて大泣きし始めた。

『手元になかったし…。3回目だし…。』

『最低…あやめちゃんはとりあえず私が部屋に連れて戻るから…お正月休みが済んだら病院にも行かなくちゃいけないし。それより四ノ宮さんに何て説明しなきゃいけないのよ…。ウチで預かるって啖呵切ったのに息子といい仲になって妊娠させてしまっただなんて…』
彩菜はがっくり肩を落とした。

ーーあやめの部屋ーー

『あやめちゃん…龍一が本当にごめんなさい。』
彩菜はあやめに謝った。

「お母さんは何も悪くないよ…あやめ…本当に妊娠してるの?嫌だ…怖い。だってまだ子供なのに…。」
泣き出してしまった。

『ごめんね…私が甘かったわ。もっと注意して大人になるまで関係を持たせないようにすればよかった…私、自分が早く妊娠したから偉そうな事言えなくて…。』
彩菜も涙を溢した。

「…でもまだ病院行かないとわからないんだよね?」

『そうね。…でも妊娠してるのはほぼ間違いないと思うわ…』

「やだぁ!赤ちゃんなんか産めない!怖い!」

『…年齢的にも中絶した方が…。』

「それって手術なんでしょ?怖い…」

『どんな手術するのかは私も知らないわ…』

正月からあやめの妊娠騒動が起こるなど全く考えてもいなかったので彩菜もどうすればいいのかわからなくて頭を抱えた。

あやめはまだ12歳。産むとしても13歳…早過ぎる。

あやめは妊娠を怖がっているので中絶を勧めた方がいいのかも知れないが同じ女として中絶を強く勧められない。医者に行っても医者はそこまで介入して来ない。

騒動のせいで慌しく正月が過ぎ5日となった。病院が開いている。

あやめのつわりのような症状はずっと続いている。妊娠は間違いはない。
彩菜はあやめを産婦人科に連れて行った。

「お母さん…あたし赤ちゃんなんて産めない…」
待合室で彩菜の腕にしがみついて泣くあやめ。

『とりあえず先生に診てもらって相談しましょう。』

順番が来たので診察室に入った。

あやめを落ち着かせるように背中をなでながら歩いた。
そこであやめはエコーを見ることになった。確実に妊娠していることがわかった。6週目か7週目と言われた。しかも双子だということが判明した。やはり吉澤家のDNAが強く出た。

あやめは中絶すると決めていたがエコーを見たら何か暖かい気持ちになった。

「これが赤ちゃんなの?かわいい…あやめ…この子達産みたい…」

豆粒のような赤ちゃんを見て母性が出たのだ。彩菜は産むことが無理だと言えなかった。自分も10代で妊娠して同じように感じた記憶が残っていたので強く言う事が出来なかった。
中絶する予定だったが本人の気が変わったので今回は一旦考えるという事にして家に帰った。

『…あやめちゃん…その歳で産むのは大変よ…』
当然だ。生理が来てまだ1年未満の未熟な身体で子供が育つかどうかも分からない。しかも双子。

「あやめのお腹には双子の赤ちゃんがいるんでしょ?まだモヤモヤしてたけどかわいかった…。」
愛おしそうに下腹を見つめるあやめ。

『帰ったら龍一に報告しないとね。』
彩菜は家に着いたらリビングに龍一を呼びつけた。そして龍一に双子を妊娠している事を告げた。

『大体2か月過ぎくらい。心当たりは?』

『…ハロウィンの時…だからあってる』

『もしかしてあの電話の前…』
かかと落としの前にしていたのか…とがっくりする彩菜。

『あの時以外でゴムなしでしてない…』

「リュウ…あたしこの子達産む!産みたいの!」
あやめは龍一に今の思いを告げた。

『え!?無理でしょ!どうやって育てるの!?』
龍一は困惑している。

「学校行かない!1人で育てるもん!」

『あやめちゃん…それは無理よ。もし本気で産む気だったら私と約束して。中学校には通う事。出産まで休んでいいけど身体が落ち着いたら保健室登校でもいいから通って。修学旅行もちゃんと行く事。そしてちゃんと卒業証書をもらって学校を卒業する事!それが産む条件よ!1個でも出来ないと言うなら中絶よ。産んでから約束破ったら施設に連れて行くから覚悟して。そのくらいの覚悟は持って。』
彩菜はあやめが子供を産む条件を述べた。彩菜なりの本気だった。

「学校に行ったら赤ちゃんが…」

『双子を産んだ女はこの家に2人いるの!私とお義母さんよ。あやめちゃんは中学生なの。だからちゃんと学生生活を楽しんで欲しいの!学生生活は今しかないの!それが終わってからは好きにすればいいから…学校には色々頼む事にするわ。』

「お母さん…。」

彩菜は条件を出しつつも自分が甘いと感じてポロっと涙をこぼしてしまった。そして部屋を出て寝室に入って行った。慶に報告しなければいけない。

それを見た龍一は申し訳なく感じた。
龍一はこの数日のあやめを見ていたので子供を産む選択を取るとは思ってもなかった。

『本当に子供産むのか?だって出来た理由が…』
龍一はあやめに申し訳なく感じていた。

「出来ちゃった理由なんて今は関係ない。あたしがリュウの事好きな事には変わりないもん。お腹にいる赤ちゃんは幸せの塊だから産みたいの。」
龍一を笑顔で見つめるあやめ。

『俺のせいでごめんな…。学校に行けない間の勉強教えるくらいしかできないけど…。』
あやめをぎゅっと抱きしめた。その時エコー写真をあやめに見せられた。

「これがリュウとあやめの赤ちゃんなんだって。まだ何だかわかんないけど可愛いでしょ?母子手帳っていうの?貰っちゃった。」
その時微笑んだあやめは母の顔になっていた。

『人の形してないからよくわかんないな…。』
龍一はまだ高校生だ。母性の事などわかる筈がない。

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