産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 中学生活 3
龍一が部屋から出て行った後、あやめは座ったまま固まっていた。
あやめがずっと憧れを抱いていた龍一から自分の事を好きだと告白されたりその憧れが【恋】という感情で…【好き】に種類があって…とあやめにとって色々情報があり過ぎて頭が追いつけない状態だった。
(好きって言われた…おでこにキス…)
あやめはおでこを触った。
一瞬だったけど龍一の唇が触れた感触がまだ残っている。
恋愛に疎いけどドラマなどでキスシーンは見たことあるのでキスくらいは知っていた。
(あたし…キスされちゃった…大人になった?)
そう思うと急に恥ずかしくなって両手で顔を隠して寝室に入りタオルケットに包まってミノムシスタイルになった。
龍一は上半身裸で冷房の効いた部屋で熱を冷ましあやめは丸まってミノムシ…やっている事は真逆だけど恥ずかしさでおかしな行動をしているのは2人とも同じだった。似た物同士なのかも知れない。
龍一が冷やしまくっている時、ひょっこり蓮二が部屋に入って来た。
『何だ⁉︎TNレボリューションごっこ?』
『涼んでるんだよ!何の用だよ⁉︎』
邪魔が臭いのが入って来たので鬱陶しく答える龍一。
『どんな涼ませ方だよ?あのさ、明日みんなで一緒にゲーム買いに行かない?あやめちゃんと一緒にオンラインゲームしたくてさ。お前に許可貰わないと色々うるせぇだろ?』
『そんな事より俺…あやめに告白したんだ!』
『…フラれたからこんな事してんの?可哀想に…』
『勝手にフラれた事にすんな!…でも付き合いたいとか言えなかった。なのにおでこにキスして…部屋に逃げて来た!』
『おでこキスして逃げた?初々しいねぇ。別に付き合うとか言わなくてもお前いつもあやめちゃんの近くにいるし何も変わらなくない?』
『…あ…そっか…蓮二のクセにいいこと言うな!』
龍一は両腕を伸ばして蓮二の肩をパンパンと叩いた。
『何だよ。俺はいつもいい事しか言わねぇぞ!で、明日ゲーム一緒に見に行こうぜ。』
蓮二は部屋に入って来た理由を忘れそうになっていた。
『行く行く!』
妙にハイテンションで答える龍一。
蓮二が部屋を出て行った。
1人になった龍一は部屋の温度が下がり過ぎている事に気付いて寒さを感じていた。色んな熱が冷めたらしい。
蓮二の言うようにいつも近くにいる事と付き合う事が特別変わらないと知らされて気分が軽くなった。
(…俺…おでことはいえキスなんかしたの初めてだったのにあんな軽くにあやめに…きっとあやめも初めてなのに…怒ってないかな…明日謝った方がいいかな…)
さっきの事を反芻して急に気が重くなってしまった龍一。思い込みすぎだとは気づいていない。
恋愛話を蓮二としたいが蓮二は女と遊んでいるだけなので詳しい話が出来ない。
まさか親に恋愛の事をする訳にもいかない。
学校に友達はいるが常に蓮二も一緒にいるし考えたら友達に心を開いた事がなかった。以前の初めての彼女の事は自慢していたが。
…17歳になった今、12歳の女の子に本気で惚れたなんて話をしたら【変態ロリコン野郎】とか言われた挙句【ロリコップ】とか変なあだ名を付けられるに違いない。
結局誰にも相談が出来ないという結論に至った。
―—翌日—―
龍一は10時頃に目が覚めた。
洗面所で顔を洗って歯を磨いて鏡に映っている自分の顔を見た。
(…あやめと顔合わせにくいなぁ…)
気が重くなったがお腹が空いたのでキッチンに行くとあやめがサンドイッチを食べていた。
『あ…おはよう…。』
「おはよう!今日も暑いね!」
(あれ?キスしたこと怒ってない?)
あやめは頬を赤らめて恥ずかしそうにしているが普段と変わらなく接して来たので龍一は自分の考え過ぎだという事に気付かされた。
『…今日蓮二があやめとオンラインゲーム一緒にしたいので…ゲーム見に行って…俺も一緒に行くなら断ってもいい嫌だったら?』
テンパり過ぎて変な日本語であやめに尋ねてしまった。
「…一緒に行くのはいいけど、あやめゲーム買うお金なんて持ってないよ?」
龍一の変な日本語があやめには通じていた。
『蓮二が一緒にしたいから買ってやるってさ。素直に買ってもらっとけ!』
言葉が直った。
「いいのかなぁ?今日まだ蓮二見てないけど起きてるの?」
『寝てるんだろ!後で起こしとくよ!』
龍一はキッチンに置いてあったサンドイッチをあやめと一緒に食べながら蓮二が居ないのに出掛ける話をしていた。これがカップルかと思いながら。
『そう言えば母さん見た?』
彩菜が居ない事に気付いた龍一。こんな時間なのに全く見掛けないので気になって両親の寝室のドアをノックして入ったら彩菜は二日酔いで寝ているとの事だった。
と、いう事はキッチンにあった朝食は瑠衣が1人で用意したと思い瑠衣の住む2階に内線をかけて龍一は彩菜の二日酔いの事を謝った。瑠衣からは『大丈夫!大丈夫!』と笑っていたが…一体何があったのか尋ねたら昨日お酒を飲み過ぎて蓮二から【おばさん】と言われた事に急に腹を立てて慶の前で大泣きしたとを聞かされた。
気になったので蓮二を探すことに。
蓮二の部屋のドアを開けたが蓮二はいない。
リビングの隣に大きな和室がある。
そこから慶の声が聞こえて来たので聞き耳を立てることに。
『蓮二、彩菜はお前にとって母親でおばさんなのかも知れない。だけど俺にとって彩菜は惚れた女だ。昔も今もこの先も。その女を勝手に泣かすような事は息子のお前でも許さん。皆が居たから調子に乗ったのか?「他所の母さんより若くて美人で自慢の母さんだ。」って前は言ってたじゃないか。同世代の女と遊ぶようになって若い女以外は女じゃないとでも思っているのか?』
『違う…調子に乗った…。母さんを馬鹿にするような言い方してゴメン…。父さん…母さんを傷つけて本当にゴメン…。ホントはそんなこと思ってない…若い女がどうとかおばさんとか関係なくて…俺…父さんが母さんを想うような…そんな人に出会ったことがない…』
『遊んでるだけの女ならいるってか。やめとけ。そんな事繰り返してたらお前はずっと変わらない。お前自身が変わらない限りこの人を愛したい護りたい支えたいと思う人に出会う事はないぞ?そう重く考えるな。単純に可愛いとか好意を感じる人と恋愛すればいい。続かなくてもいい。別れて辛い思いを経験するのも恋愛だ。身体の関係だけのどうでもいい女としか付き合わないから平気で女を傷つけるような発言が出来るんだお前は。彩菜だって女なんだからな!全く!』
蓮二は慶の言葉で憑き物が取れたような気分になった。
『俺、父さんの言う通り身体だけの中身のない付き合いはもう止めるよ。…最近龍一があやめちゃんの事好きになってるの見て凄く羨ましいと思い始めて…』
蓮二が慶の前でとんでもないことを言い出したので勢い余って龍一は和室の扉を開けてしまった。
『何だ?お前が居たことはずっと気付いてたぞ。』
慶は笑っていた。
『え⁉︎』
龍一はなすすべがない。
『そうか…あやめちゃんの事が好きだったのか。だから何かと口出ししていたのか。でも可愛いからって手を出したらダメだぞ。まだ子供なんだからな。大事にしてあげなさい。』
蓮二の暴露で慶に龍一とあやめとの交際がバレされたが嫌厭されなかったどころか応援して貰えてよかったと思った。蓮二もこのまま気持ちを入れ替えられたみたいだ。慶の言葉がかなり刺さったと思われる。
…そう言えばあやめをキッチンに置き去りにしたままだと気が付いて龍一は戻って行った。
『ごめんごめん!遅くなった。蓮二のヤツ父さんに厳重注意されてたわ』
「え!日本刀を口の中に入れられたの!?」
『どこの親が子供の口に日本刀なんか入れるんだ!』
一体あやめは慶をどういう目で見ているんだと龍一は思った。
「だってヤクザなんでしょ?部屋に虎のマットが敷いてあるの?」
『お前あの和室見たことあるだろ!シンプルな畳の部屋だろ!』
龍一は思わず笑ってしまった。
「だって豚達がレンタルビデオでそんな映画よく見てたから…」
『変なモノに影響されんじゃねぇよ!言っとくけど虎の頭だけ起きてるマットはないからな!金ピカの屏風も!』
龍一は爆笑してしまった。
「そっか…ないんだ…ねぇ、蓮二…怒られちゃったしもう出掛けないのかな?」
『アイツの事だから昼過ぎたら行こうって言うんじゃない?で、この後絶対俺の部屋に来ると思う。あやめは部屋で宿題でもして待ってる?』
「うん。そうする。双子って仲がいいね!」
あやめはビルに渡ってエレベーターで降りて行った。
龍一が部屋で涼んでいると案の定蓮二が入って来た。
『最初から聞いてたんだろ?』
ちょっと不機嫌な蓮二。
『瑠衣おばさんから蓮二が母さんの事【おばさん】って言った話聞いて探してたら声が聞こえたからさ…』
『調子乗って言っちゃってさ。でも皆がいる所で「母さんビキニ超似合う」なんて言えないだろ!』
『何で?超似合うでしょ?調子に乗ってお前が変なこと言うのが悪い!』
『龍一に言われたくないね!あやめちゃんにアレはダメ!コレはダメ!ブスにしてなさい!とか言うクセに。』
蓮二に痛いところを突かれた。
『アレはもう…言わないようにする!蓮二…それより今付き合ってる女いるの?』
『まぁ…一応…でも今日断るつもり。父さんの言う通り俺が変わらなきゃ想える人に出会えないと思った。俺、そういう人に出会うまでは誰とも付き合わないことに決めたよ。龍一とあやめちゃん見てたら羨ましくってさ。』
蓮二は慶に言われたことと龍一を見て固く誓った。
『今付き合ってる子を好きになれないの?』
龍一は素朴な質問を投げた。
『無理無理無理!生理的に受け付けない!』
『じゃあ何で付き合うんだよ…』
『酷い俺は今日で卒業だ!父さんの言葉も刺さったけど…やっぱ双子の影響力って他と全然違うわ。龍一が目の前で恋愛してる様子見てたら俺もちゃんとした恋愛したくなって来た。』
『俺とあやめ?…あぁ~!そう言えばあやめにゲームの話したぞ。行くって言ってたぞ。』
龍一はゲームの事を思い出した。
『じゃあ昼飯食った後にでも行くか!』
という事で3人は昼過ぎにいつものショッピングモールに行く事になった。
昼食時も彩菜は顔を出さなかった。
慶がサイダーを持って寝室に入って行ったのできっと介抱しているのだろう。相手を想いあってる両親を見て蓮二も変われるんじゃないかと龍一は思った。