産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 中学生活 13
あやめのお腹には双子が宿っているので通常の4ヶ月の妊婦より膨らんでいる。幼い顔の妊婦がウロウロしていると目立つし何かあっても危ないので出来るだけ家から出ないように注意をしていた。散歩も敷地内だけにして。
何かが起きた時にすぐ対応できるようにあやめは母屋の3階の客室で寝起きをしている。龍一は自分の部屋に居たり客間に居たりあやめの調子に合わせて行き来していた。
龍一と居る時に突然あやめが話かけて来た。
「ねぇ!お腹の赤ちゃんは男の子って決まってるんでしょ?私つけたい名前があるの!」
『もう名前考えてるの!?まだ4ヶ月なのに。性別わかってないよね?』
「絶対男だもん!長男が大河、次男が銀河。大地と空に流れる河で素敵じゃない?」
『へぇ〜。いいね!意外といい名前でビックリした!』
「変な名前つけると思ったの?」
ちょっと拗ねた。
『拗ねてる姿も可愛いよ。』
「あ、赤ちゃんが動いてる!」
あやめは龍一にお腹を触らせた。
『うわホントだ!』
月日が経つのは早い。
産婦人科でお腹の赤ちゃんが大きいと言われた。これも吉澤の家系を立派に受け継いでいる。あやめのお腹は7ヶ月なのに破裂しそうになっていた。
代々吉澤家と親交の深い岩崎家のエリック・岩崎の娘の悠梨(ユーリ)もそろそろ臨月だと話をしていた。
悠梨は龍一の幼馴染でモデル活動をしていたが恋人がテレビタレントとなり有名になったので子供が出来た事を彼に黙ってモデル事務所を退社してシングルマザーになると決意したという。
龍一と同い年なので少し年上だがあやめ同時期に子供が生まれるのでいいママ友になれるんじゃないかと思って慶は悠梨をあやめに紹介した。吉澤家と岩崎家の親交は深いのでいい付き合いにもなる。
あやめは同世代の妊婦に出会う事がなかったので悠梨を紹介されて不安が緩和された。出会って間がない内にすぐ打ち解ける事が出来た。
8月の暑い日。
あやめの出産予定日は9月だったけどお盆が過ぎ8月20日突然お腹が痛いと苦しみ出した。双子だし中の子供が大きいし早産もありうるので急いで慶は車に彩菜と龍一とあやめを乗せて病院に向った。
病院に着いたら看護師が大きな声で騒ぎ始めた。
『四ノ宮さん大変!もう頭が出かかってます!!』
主治医も慌てて分娩室に向かった。
『どなたか立ち会いされるんでしょうか?』
その緊迫している状態の時、隣の分娩室に悠梨に似た子が運ばれて来た。
慶は気になって横を向いたら隣にエリックと妻のリリーがいたので凄い偶然だと驚いた。
『OH!慶じゃないか!』
『エリック!!凄い偶然だなぁ…。』
立ち会いに入るのは彩菜だけ。
岩崎家もリリーだけだった。
男は互いに待つだけだ。何もする事がない。
『あやめちゃん…。』
彩菜は手を繋いであやめに声をかけた。
『いきんで下さいね!』
「ううん……」
『フギャーフギャー!』
「うぅぅ…」
『次が来るわよ!頑張って!』
「うぅ〜…ううん…う…」
『フギャーフギャー!!』
あやめは普通分娩で2人を産んだ。
とても安産だった。
『四ノ宮さん、大きな双子ちゃんが生まれたわ。2人とも2500g。よく頑張ったね。こんなに大きな双子ちゃんなのに安産でよかったわね。』
ぐったりと横たわっているあやめの隣に2人の赤ちゃんが並べられた。
「…かわいい…やっと出会えたね。大河…銀河…私の元に来てくれてありがとう…。私がママだよ…。」
痛さなど忘れて嬉しさと愛しさで涙が溢れ出た。
しばらくして分娩室から個室に戻って来た。
慶は初孫を見て嬉しくなって咄嗟に抱えようとしたが龍一が先だと思って我慢した。龍一は恐る恐る抱き抱えた。
『うわぁちっちゃい!』
感慨深いものがあった。
「お母さん…双子にお乳あげるのってどうしたらいいの?」
あやめは妊娠して更に胸が巨大化していた。
彩菜も胸が大きかったので自分がして来た事をあやめに教えた。
『先に搾乳して保存しとくの。片方は哺乳瓶で飲ませて片方は直接授乳してたわ。最初に直接授乳をするのは代わりばんこにしてあげて。贔屓されてるっていじけちゃうから。搾乳したお乳は冷蔵庫か冷凍室に保存して飲ます時に温めてからあげてね。それは龍一がするのよ!哺乳瓶係は龍一だからね!オムツも!』
そうして中学2年の9月の中旬まで休学した後、あやめは保健室登校で学校に通った。
学校は全て理解しあやめの出産は極秘情報として扱っていたので学校ではあやめは身体が弱いという設定にしていた。
実際出産直後なので身体も戻ってない。
とてもいい学校だったので特別対応してもらえた。
家に帰ると龍一と2人で協力し合って大河と銀河の世話をした。夜中に泣き出しても2人で協力しあった。あやめは時々目の下にクマが出ていたので龍一が1人でこなしていた時もあった。
そして慌しくあやめは中学3年生となり
龍一は架空T大生となった。
あやめは中学3年生になってからは出来るだけ頑張って通学した。結局クラスメイトを全員覚える事が出来なかったがいつもの友達がいたのでそれでよかった。
3年生と言えば修学旅行。
修学旅行は2泊3日架空京都府旅行だった。
あやめは彩菜との約束通り参加した。
『四ノ宮さん身体弱いから修学旅行には参加出来ないと思ってた!もし途中で具合悪くなったらちゃんと言ってね!』
殆どバス移動なので動くことはなかったが自由行動の時に皆でお土産を買いに行った。
あやめの目に止まったのは丸い野球ボールのような【新選組マスコット】だった。
「わぁ!かわいい!」
と言って2つ手に取った。あやめは大河と銀河のお土産にしようと思った。触り心地もパフパフしていて子供が好きそうな感じがした。
『新選組好きなのぉ?』
香川に聞かれた。
「新選組?わかんないけどこのマスコット可愛いと思わない?ふわふわしてるし丸いし握るのによさそう!」
『マスコットを握る?小さな子がいるの?』
香川は不思議そうな表情をしていた。
「え…親族に…。」
間違ってはいない。親族だ。
『四ノ宮さんとは転校して来て話すようになったけどもっと仲良くなりたかったなーって。長い事休んでたから会う機会少なかったけど…今からでもいいから心開いて欲しい!』
清水が突然真剣に話しかけて来た。
「え?別に心閉ざしてないよ!」
学校ではあやめの事は極秘なので自分の勝手で発言出来ない。友達に対してあやめは申し訳なく感じていた。
自分の話にならないように違う話題に切り替えた。
「私、旅行って産まれて初めてなの!だからいっぱい楽しみ!」
『恋の話で盛り上がるよ〜!』
香川が聞かせたそうにしていた。
「わぁ!聞きた〜い!」
自分の事は言えなくてもみんなの恋バナを聞くのは楽しみだ。
修学旅行は色んな場所を観光しているのだが中学生の女の子なんて観光よりお喋りがメイン。どこに行ったよりどう楽しんだかの方が心に残る。あやめも例に漏れず。
そして修学旅行も終わりあっという間に時は経ち滞りなく卒業を迎える。
誰とも携帯の連絡先は交換していなかったけど卒業する時にいつもの4人と連絡先を交換した。
厳かに卒業式が終わった。
彩菜はデジカメを持って来ていた。あやめに撮影して欲しいと頼まれていつもの5人で仲良くしている姿を写真に撮った。
彩菜はその時初めてあやめの友達を知った。
皆は高校に行くけどあやめは進路を誰にも教えなかった。そして皆とお別れをした。
その後彩菜からあやめに可愛い花束を渡された。それを持った写真も撮った。
それから車に乗った。
「お母さん…私を学校に行かせてくれてありがとう。色々あったけど楽しかった。学校に行かなきゃ修学旅行も行けなかった。あの時条件出してもらってよかったと思ってる。だってお母さんも言った通り学生の時って今だけだもん。その機会を与えてくれて本当にありがとう。」
あやめは目に涙を浮かべながら彩菜に感謝した。
『あやめちゃん…通学頑張ったわね。これからはママとして頑張ってもらうわよ!』
「卒業したら大河と銀河の側にずっと居られるんだぁ。これから頑張らなくっちゃ!学校に通った日数は少ないけど友達も出来た。学校では普通の中学生になれた。お母さんがいなかったら大河と銀河を産めなかった。本当にありがとう。」
あやめはずっと目に涙を浮かべていた。
『やぁね…改まって。』
彩菜の目に涙が溢れている。
「私、お母さんみたいなママになりたい。それにお母さんの背後を見て…」
『あやめちゃんには今出来る事をやって欲しいわ。まだあやめちゃんに私の背後は着いて来れないわよ!それより子育ての方が先ね!』
「うん…。そうだね。家に着くまでが今日は長く感じちゃった。」
あやめは車から降りて彩菜と母屋の玄関に向かった。そこには慶と龍一と蓮二と大河と銀河が待っていた。
『おかえり』
3人でハモった。
『ママぁ〜!』
2人はあやめに抱きついて来た。
「大河、銀河、明日からママずーっといるからね!」
あやめは2人を抱き上げた。
『俺も大学生だし、あやめがこれからは家にいるから4人で過ごす時間が増えるぞ!』
龍一はあやめと目を合わせ微笑みあった。
子供が産まれてからあやめ達はビルの1階から3階に移動した。母屋のキッチンの横につながっている。あやめは子育てに関して何も知らないので彩菜や瑠衣がより近くにいた方が安心する。
7人は母屋から3階までエレベーターで上がってあやめ達4人はキッチンの前を通り自分達の部屋に入った。
「ただいま。大河、銀河…リュウ。」
『卒業おめでとう。あやめ。』
龍一は後ろに隠していた花束を渡した。
「やだ!嬉しい…ありがとう!」
『ママぁ!!』
龍一はあやめの顔を見て微笑んだ。
『今日はあやめの卒業パーティだ。夜は母屋のリビングに集合だな!』
「もう制服もこれで着なくなるんだね…なんだか寂しいな…。」
『大人へ一歩仲間入りじゃん?』
「そっか…もう中学生じゃなくなったんだもんね。リュウ、すっとず〜っと一緒にいてね。」
『あやめ…大河と銀河の成長を一緒に楽しもうな!』
「うん!」
この先ずっと4人が幸せでありますように。
そう願う二人だった。