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【連載小説】 産業廃棄物のお姫様 プロローグ③
紗希は柚子を風呂に連れて入った。
まずは髪を洗う事にした。産まれてから一度も切ったことがなさそうだ。普通なら子供は髪を洗う時嫌がるのだが柚子は大人しく目を瞑ってじっとしていた。恐らく耐える事に慣れていたのだろう。
『怖くなったら言ってね。』
スムーズに髪を洗う事が出来た。髪が長いので紗希が使っている髪ゴムを使って頭のてっぺんで団子にしてから身体を洗った。昨日お腹を蹴られて痛かったと言うのでそこは力を入れずに洗ってあげた。顔も同様に蹴られたらしく瞼や頬が腫れていたので優しく洗ってシャワーで流した。しかし全身傷の痕が酷い。
柚子はお風呂に入れた事が嬉しくてウキウキしていた。
「ねぇお母さん、アソコは?まん…」
『言わないで!どこでそんな下品な言葉を!!そこは【大切な場所】って言おうね。もうその言葉使っちゃダメ!大切な場所はキレイにしてないとばい菌入っちゃうからキレイに洗ってあげるからね。』
身体の汚さに比べたら大事なところは意外とキレイな状態だった。トイレの時拭くからな?と紗希は考えていた。
「ねぇお母さん、そこ触られたら「あぁん」って言わなきゃいけないんでしょ?」
『言わなくていい!…まさか言わされてたの?』
「ううん。ママが言ってたから…。」
『…一旦ママの事は忘れましょ!お母さんがいるんだから!』
紗希はサッサと自分の髪と身体を洗って柚子と一緒に湯船に入った。柚子は2歳にしたら小さいので抱っこして入らないと湯船が深いので溺れそうになる。
紗希は柚子を抱き抱えて湯船に入った。
「お母さん…おっぱい触ってもいい?」
柚子が頬を赤らめて尋ねて来た。
『ん?いいわよ。』
紗希は優しく頷いた。
「お母さんのおっぱいおっきいなぁ。ゆず、おっぱい触ってみたかったの。ママはおっぱいは男の人に触らせる物だから子供が触る物じゃないって言ってた。お母さんのおっぱいもそうなの?」
『私のおっぱいにそんなルールないわよ!』
「じゃあゆずが触ってもいいんだぁ…。赤ちゃんっておっぱい吸って育つんでしょ?ゆずもお母さんのおっぱい吸ってもいい?」
『お母さんのおっぱいからは何も出ないわよ?』
「んん…いちごみるくの味がする!」
『嘘だぁ!』
「ホントだもん!」
そう言うと柚子は紗希にもたれかかって胸に顔を埋めてウトウトして完全に寝てしまった。
柚子が寝てしまったのでとりあえず脱衣所に出てタオルで身体を拭いてタオルをおしめのようにパンツ代わりにしてモコモコのバスタオルに身を包みブランケットで赤ん坊のように身を包んだ。髪は解いてタオルドライで乾かした後タオルを巻いて暖炉のあるリビンクに連れて行った。上から電気毛布をかけてあげた。
『奥様…本当にこの子を見るつもりですか?』
西田は心配そうに紗希に話しかける。
『ウソか本当かは聞かなきゃわからないから歳三さんに電話してみるわ。まだアメリカは夜中よね。きっと起きてると思う…しばらく柚子の事見ててくれる?私は3階の寝室で歳三さんと話してくるわ。』
紗希はスマホを持ってエレベーターで3階に上がった。紗希は柚子の惨状を見てこのまま柚子を見放す事が出来ないと感じていた。
歳三に電話をして「アン」と言う女と関わりを持ったか尋ねたところ、3年前に接待の場で使ったスナックでアンと名乗る女と会った事は覚えているがその後の記憶が殆どないが翌日その女と知らないホテルで半裸で寝ていた事実はあったらしい。もしかしたら酒に睡眠薬を盛られていたのかも知れない…。と聞かされた。
歳三の記憶の限りでは実際そのアンと言う女と寝たかどうかがわからない。気になるならDNA鑑定に協力するという話にまとまったので日本に戻ったら即座に検査を受けるという事になった。
歳三は来週に日本に帰って来るので細かい話は日本で出来そうだ。
その結果、柚子が歳三の子供じゃなかったら…
紗希は若い時に大病にかかって子供が産めない身体なので柚子を養子に迎えたいという旨も歳三に伝えた。
全ては歳三が日本に戻ってから決める事となった。とりあえず歳三が日本に帰るまで柚子と過ごせることは確実だ。
紗希はリビングに降りて来た。
『どう?起きた?』
『いえ、髪にドライヤーかけても起きませんでしたよ。それでどうなりました?』
紗希はさっき歳三と話した事を西田に伝えた。
『DNA検査受けられるんですね!』
『もしかしたらって事があるからって…。この子には悪いけど複雑な気分だわ…私と結婚する前の出来事とは言え…。』
『旦那様に限ってそんな事はないと思うんですけどね…。』
『あぁもどかしい!でもこの子は可哀想…』
紗希が柚子を見つめていると柚子が目を覚ました。
「お母さん、どうかしたの?」
『うぅん何でもないわ。それにしても柚子はまだ2歳なのにハッキリ喋れるのね。どうやって言葉を覚えたの?』
「ゆずの周りは大人ばっかりだったから。ママと仲良しのおじさん達がママが寝てる時に話しかけてくれるの。パンとかおにぎりくれるし…ゆず、ベランダに住んでたんだけどベランダには新聞紙が置いてあったの。その新聞紙の文字でひらがな教えて貰ってたの。色んなおじさんが面白いって言って教えてくれたから漢字も少し読めるの。おじさんが小さい【国語辞典】くれたから言葉も覚えたの。捨てるテレビのリモコンが部屋の中のテレビに使えるっておじさんが教えてくれたからママが昼寝してる時リモコンでチャンネル動かしてドラマやニュース見たりして話し方覚えたの。」
紗希は柚子の能力に驚いた。
『凄いわね!そのおじさん達はどうして柚子を通報しなかったとか…流石にわからないか…。』
「児相のこと?お尋ね者だから連絡できないって言ってた。あと出所したばかりとか?ちょっとゆずにはわからない言葉だった。」
『あ…なるほど…。』
「ゆず、こんなあったかい所で寝るの初めて!もう少し寝てていい?」
『いいわよ。その間柚子の下着や服を買いに行ってくるわ。途中で目が覚めて何か食べれそうだったら西田さんにお願いしたら作ってくれるから。』
「うん。こっちのおばちゃんが西田さんでいいの?」
『そうですよ。柚子ちゃん、何でも言ってね。』
『じゃあ私、近くに出来た【しめむら】に行って来るわ!あそこ色んな物売ってて楽しいのよね〜!』
紗希はそういうと【しめむら】に嬉しそうに出かけて行った。
紗希は社長夫人だがかなり庶民派であった。
ーー45分経過ーー
『あーもう!子供服って何であんなに可愛いの!?すっごく一気に買い込んじゃったぁ!下着でしょ?家着でしょ?パジャマでしょ?ちょっとお外に出かけれる服…靴でしょ?小さなバッグ…見てたら全部欲しくなっちゃう!』
紗希が賑やかに大荷物で帰って来た。
「…んん…お母さん??」
『奥様、柚子ちゃんが起きちゃいましたよ!』
『あら!ゴメンなさい!柚子、起きたついでだから下着とお洋服着ようか?』
紗希は柚子を裸にしてパンツを履かせたら柚子が大喜びした。
「ゆずのパンツ?初めて!」
柚子は初めて自分の下着や服を与えられた。パンツの上には長袖のシャツ。
そしてタイツと毛糸のパンツも。毛糸のパンツにはウサギの尻尾のような小さなボンボンが付いていた。
「お母さん、パンツにうんち付いてるよ?」
柚子は尻尾がうんちに見えたらしい。
『やだぁ!尻尾よ!うんちじゃないわよ!(笑)』
紗希は柚子が大人のように話していてもその中に無知で子供らしいところがあるんだと思うと微笑ましく思った。