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産業廃棄物のお姫様 あやめ外伝 中学生活 12
あやめはお腹に宿った子を産むことを決めた。
彩菜に色々条件を出されて全てを守ると約束した。後で出来ないというと子供を施設に預ける言われたので絶対に守らないといけない。既に今の状態でわがままが通っているのだからこれ以上のわがままは許されない。
あやめはつわりの酷い日とそうでない日に落差のあるタイプだった。もしも学校でつわりが来たら困るので冬休み明けに通学できない。つわりが落ち着く頃には双子なのでお腹が目立ってしまう。そもそも安定期が来るのかすらわからない。なので冬休み明けから翌年の9月か10月まで学校を休むしかない。
慶はまず祐二に連絡をした。
ただひたすら謝るしかなかったが既に子供を宿していてあやめが産むつもりでいるのなら何も言えないので全てを託された。祐二もあんな事があったし預けている以上何も言う事は出来ない。
まだお腹が目立ってない内にあやめの責任を取る意味で形式上の結婚式を行うことを裕二に伝えた。吉澤家には神事を行うための部屋があるのでそこで結婚式を行うことになった。
吉澤家は代々婚姻年齢が早いが互いに婚姻出来ない年齢での結婚式は初めてだった。花嫁は白無垢、花婿は紋付き袴を着て1階の長い縁側を歩いて皆にお披露目する。
庭には下積みや幹部や組員総出でお祝いすることになっている。
祐二は親族なので神事の部屋で家族とあやめを祝う。
裕二には大きな客間があるのでホテルを使わず家に泊まって欲しいと慶から願い出た。
祐二は義母に内緒で家族を連れて式の前日に吉澤邸に訪れた。
裕二は慶に迎えられ部屋に案内された。
挨拶を交わした後であやめを呼んで来た。
「パパ…一緒に居る人は麗華さん?妹?生まれた赤ちゃん?」
あやめは初めて見る新しい四ノ宮一家を見て嬉しくなった。
『やっとみんなで会えたな。最初からこっちで会っていればよかったよ。隣に居るのが麗華。その横が美憂。赤ちゃんが加恋。2人ともあやめの妹だよ。』
裕二は会うだけだったら義母に黙って吉澤家で最初から会えばよかったと後悔した。
「赤ちゃんかわいい。…私も何ヶ月かしたら赤ちゃん産むんだよね。すごく不思議…。」
『不思議なのはパパだって一緒だぞ?急におじいちゃんになるし加恋なんて1歳で叔母さんになるんだぞ。それよりもあやめが親になる事がまだ不思議で仕方ないよ。』
「私のわがままで産むって決めたの。エコーで赤ちゃん見たら可愛く思えて…。」
『…あやめどうした?【あたし】もしくは【あやめ】だったのに急に【私】だなんて。』
「だって…ママになるし吉澤のお母さんにそろそろ【あやめ】は止めようねって言われちゃった。」
『はっはっは。そうだよな。それにしてもあのあやめがなぁ~…ママになるんだなぁ。』
裕二の中ではまだ小学生のままで止まっていたので不思議な感覚だった。そこから数年しか経ってないのにまさか結婚とは…。
「…ここ大きな部屋でしょう?食事は注文してあるから時間が来たら仕出し屋さんが運んで来るしお風呂も付いてる客間だから食事の時以外は誰も入って来ないから家族でゆっくりして行ってね。どこか寄りたかったら玄関にいる誰かに声かけてくれたら門開けてくれるから気を使わないでね。」
下手にその辺のホテルに泊まるより豪華だった。流石は吉澤邸だ。
あやめは祐二ともう少し話をしたかったが明日の準備もあったので部屋を離れた。
ーー翌日ーー
あやめは白無垢を着てしばらくしてから龍一と顔を合わせた。
綿帽子を被らない今風のスタイルにして花を見せるように髪に飾った。
時期外れだったがアヤメの花だった。
『あやめ、可愛いな。』
龍一はこそっと耳元で囁く。
「ホント?嬉しい…」
着慣れない着物を着てはにかむあやめ。
龍一は長身だったので小柄なあやめに歩幅を合わせるのがとても難しい。しかも着物。何度も練習したが難しい。
本番でもぎこちない動きをしながらもゆっくり縁側を歩くと皆が庭で一斉に拍手してくれるので恥ずかしいがここは堂々と歩いて奥にある神事の部屋に入って行った。そこで神主を迎えて式を厳かに終えた。式そのものは短い。式を終えたらまた縁側に出て来る。
それからが写真タイムとなった。
12歳の花嫁なんて今後見ることもないだろうから記念にあやめを中心に全員集合と祐二家族と吉澤一家と写真を撮った。
式当日あやめは少しつわりがあって着物でぐるぐる巻きの上、ギュウギュウに締め付けている着物が苦しかったので写真の後、洋服に着替え1階の宴会場に入って食事をもてなした。
2人は上座にちょっこりと座っていた。
あやめの目の前に裕二が来た。
『あやめ花嫁姿可愛かったよ。まさかこんな歳で花嫁姿を見られるとは思ってもなかったよ。君が龍一くんだね。初めまして。まだ結婚は出来ないけど形式上だけでも責任取ってくれてありがとう。あやめの事どうぞよろしくお願いします。』
裕二は龍一に深々と例をした。
『どうぞ顔をあげて下さい。私の方こそ色々順番を間違った事になってしまって大変申し訳ございません。でもあやめさんの事はこの先もずっと大切にします。どうぞこの先の事も見守って頂ければ幸いです。』
龍一はこういった場ではちゃんとしている。元々こういう家で育った人間なので言葉や所作には子供の頃から気をつけるように躾けられている。
『あやめ、しっかりした彼じゃないか。幸せになるんだよ。』
裕二はあやめに優しい笑顔を向けた。
「パパ…あやめ…私、リュウの事大好きなの。だから今も幸せでいっぱい。」
大きな瞳から涙がポロッと出た。
『…大人の勝手な都合で振り回してしまって…ちょっと早いけどあの時があって今の幸せに辿り着いたんだと思うと人生何がどう転ぶかわからないものなんだなと思うよ。』
裕二はあやめに今の状況に対してしみじみと感じる物があった。歳はまだ幼いがこうやって幸せに過ごせているのは吉澤家に預けたから得た物だ。
「パパ…私、リュウと幸せになる。だからパパも麗華さんと妹達と幸せに暮らしてね!」
『一丁前な事言って…。』
裕二は嬉しそうな顔をしているが嬉しくて泣きそうになったので家族が座っているところへ戻って行った。
『12歳の花嫁…か。』
龍一がぽつんと呟いた。
「…。」
『本当は法律上で言うと2人共アウトで捕まっちゃうけど祝福されてる。ウチの家族って変わってるよなぁ。普通形式上って言ってもこの年齢で結婚式なんか挙げさせないと思うけどウチの家だからやってしまうんだよなぁ。実際母さんも15歳でこの家入ってるし。何でもありって言い方はよくないけど許されてしまうのが吉澤流なのかもな!』
龍一はあやめと顔を見合わせて笑い合った。
「私この家大好き!リュウに出会えてよかった。これからもずっとずっと好きでいてね。あ、でも耳が聞こえなくなるのは治してね!」
2人で話に花を咲かせているとあやめの前に森本さんが来た。
「おばちゃん!?来てくれてたの!?ありがとう!嬉しい!」
『花嫁姿可愛かったわぁ。髪飾りも可愛くて…。まさかあやめちゃんの花嫁姿をこんなに早く見るとは思わなかったわ。これから龍一さんと幸せになってね。おばちゃん応援してるわ。』
ハンカチで涙を拭う森本さん。
「おばちゃんが居たからここに来れた。私が不良になっても見離さずに声をかけてくれた…。全部おばちゃんのおかげだよ。貰った教科書今も使ってるよ!もう悪い事は一切してないからね。…この年齢で赤ちゃん出来ちゃったのはいい事じゃないけど…。」
あやめは照れながらちょっと自虐しながら照れ笑いをした。
『赤ちゃんを授かった事は悪い事じゃなくて祝福されることよ。これからが大変だと思うけど龍一さんが側にいてくれるから百人力ね!』
森本さん持ち上げ過ぎだと言わんばかりに龍一が横から入って来た。
『森本さん!かいかぶり過ぎですよ!俺なんかただの高校生だし…高校卒業したら大学に行くつもりだけど学問だけじゃあやめを護っていけない…だけど…この先家族を護る為にも沢山勉強しておかないとこの時代ヤクザだって置いて行かれる。時代に合ったインテリヤクザを目指すには…』
『龍一さん、ヤクザ連呼し過ぎですよ。』
森本さんは笑った。
『ウチの主人がここにいた頃吉澤さんにお世話になったわ。あの人と3人でここで暮らしていたのに突然ホステスと浮気していなくなっちゃって…加奈子と2人だけになって路頭に迷ってた時に彩菜さんがお金が貯まるまでここに住めばいいって言ってくれて。私は組となんの関係もないのに。何処に行ったか知らないけど急に大金を送金されて来てそれっきり…彩菜さんと慶さんが近くにいる限り道を外れたことなんて出来ないでしょ!絶対に暖かくて幸せな家庭を築いてね。結婚出来る歳になればもしかしたらまた赤ちゃんが増えてるかもね!お祝い言いに来たのに自分の話しちゃってゴメンね。』
森本さんはめでたい場所で自分の家族の話をするつもりはなかったがついつい口を滑らせてしまった。
「おばちゃんも吉澤組の関係者だったんだ。だからお母さんと知り合いだったんだ。」
あやめにはそんなことは関係なかった。
『今は彩菜さんからコンビニの店長を任して貰えてるの。本当に頭が上がらないわ。』
「へぇ!あれ?リュウって最近バイト行ってないよね?」
あやめは龍一に尋ねた。
『あやめが妊娠で大変な時にバイトなんて行ってられないよ。何かあった時に直ぐ動けないと!』
『やっぱり龍一さんは頼もしいわ。じゃあ私は席に戻るわ。末長くお幸せにね。』
森本さんは席を立って料理が並べてあるテーブルに戻って行った。
「リュウが加奈子お姉ちゃんのこと知ってたのってここに住んでたからなんだね。」
前に聞いた事に納得したあやめ。
『そうそう。俺と蓮二と明菜と加奈子でよく鬼ごっことか侵入禁止の部屋でかくれんぼしてよく怒られてた。懐かしいや。』
龍一は昔を思い出してふっと笑った。
まさか結婚式で森本さんと吉澤家の関わりを知るとは思わなかった。
形式上だけとは言え大勢から祝って貰えた二人。結婚出来るのはまだまだ先だけど二人の新しい門出となった。