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子育て疑似経験
私には、年が近い妹がいる。学年は2つ違いだけど、年齢差は1歳半。ほぼ年子だ。距離感はアナとエルサぐらいの近さ。お互い30代になったけど、結構仲は良い方だと思う。
小さい頃から、私は働いている両親に代わって妹のお世話をしていた。両親が子育てを放棄していたわけではない。私は「お姉ちゃんである」という勝手な使命感のもと、甲斐甲斐しく妹の面倒をみていた。
私が料理を作れば、彼女は「おいしい」といって嬉しそうに食べてくれ、宿題を教えると「おねえちゃん、なんでも知ってるんだ」と目を輝かせていた。そんな妹の反応が嬉しくて、家事も勉強もそれなりに頑張った。
妹が友達を連れてきたとき、「おやつ作るから待ってて」と言い、台所でドーナッツを揚げた時は、仕事から帰ってきた母がブチ切れた。当時小学4年生。
それから中学、高校とお互い進学していっても、私の妹に対する行動は変わらなかった。母が昇進し、父が転職し、妹が部活に打ち込んでいる間、私は家事と勉強の両立に励んでいた。家事以外にも、地域の防犯パトロールに親の代わりに出たり、親に代わって妹の欠席連絡を担任の先生にしたりと、短大を卒業するまでそんな感じだった。
気付けば10年近く母親のようなことをしていたので、生活スキルはそれなりに備わっていた。そんな私を見ていた学友たちは「アンタは良いお母さんになりそうだね」と口々に言った。
思えば妹が出来た頃から、私はいつか自分が子どもを産み育てるシミュレーションをしていたのかもしれない。
中学の頃、カースト上位の同級生たちが陰で「私と妹は親が違う。今の両親は妹の親で、私は父親か母親のどちらかの連れ子である」と噂をしていた。
それを聞いたとき、私は根拠のない話を広げた奴らへの怒りよりも先に、妹にこの話が届かないように彼女を守らなければ、という気持ちが出てきた。
それ以降、私は外で妹の文句や愚痴を言わなくなった。家の中で多少衝突することはあったけど、それでも妹に注げられる限りの愛情を注いできた。
妹が結婚したとき、旦那さんから「お義姉さんの彼女に対する愛情が羨ましいです。俺も同じぐらい、彼女を大切にします」と言われて泣いた。
娘を嫁に出す母親の気持ちとはこのことか、と思った。
そんな子育て疑似経験をした私だが、自分が子どもを産み育てる未来は一生来ない。
28の冬に卵巣がんになり、30の夏に再発した。
学童の仕事をしたり、自分の法人でこの先やっていこうと思っている事業を考えていくなかで、やっぱり自分の子どもが欲しいと思う。
でもこれまでの人生で、妹を通して子育てのようなことを経験できたのは、きっとこれからの人生に役立つだろう。
だからあの頃の私に何か伝えられるのなら、「大変かもしれないけど、妹育てを楽しんで。今しかできない経験だから」と教えてあげたい。