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孤立の末路 マイリトルゴート

こんにちは、モルカーを見てニヤニヤする日々を過ごしている涼井です。
「マイリトルゴート」は”PUIPUIモルカー”が話題の見里朝希監督の作品。
大学院の修了制作で国内外で数々の賞を受賞されています。

結構衝撃的でいまだに脳内で映像が浮かぶので感想と考えたことをまとめて書きます。
この感想はネタバレを含むので見てない方はスクロールしないでください。

1時間を凝縮したような10分

見た最初の感想を一言で言うと、「10分の短編なのに1時間分の内容の濃さと衝撃」。

グリム童話の「狼と七匹の子ヤギ」のラスト、母ヤギが狼のお腹を切って我が子を救い出すシーンから始まります。

6匹は助けられたものの、最初に食べられた長男が狼の胃液で溶けて死んでいるショッキングな事実から始まり
昼でも薄暗い家に戸締りをしてひっそりと暮らす、狼の胃液で皮膚がただれ、眼球が歪んだ子ヤギたち(初めの方に食べられた子ほど損傷が大きいのもリアル)
人間の男の子を長男の代わりに誘拐して優しい笑みを浮かべて監禁し、相変わらず外出する母ヤギ(苺とってきたわよ〜みたいなセリフがあるので食料調達?)
そして実の父親に虐待を受けている人間の男の子、ナツキ(主人公)

ここからネタバレになりますが、ナツキを探しに来た父親がヤギの家に侵入し、空き家だと思ったのか性的虐待を始め、子ヤギたちが結束して父親に立ち向かい時間を稼いでいると、帰宅した母ヤギがトドメを刺し、ナツキは救出されます。
ラストでは相変わらず子供たちを小さな家に閉じ込め、さらに頑丈な戸締りをさせて外出する母ヤギ(大きな動物を捕らえる罠を家の近くに仕掛けながら)
子ヤギたちと仲間意識が生まれ、笑顔を見せるようになりましたが、薄暗い家の窓からよく晴れた明るい外の世界を眺めるナツキ。
父親かナツキを捜索していると思わしきヘリコプターの音。

ヘリコプターに乗った人間たちがあの家に押し入り、ナツキは人間の世界に戻されるのか?戻されたとして、優しい大人に保護されるのか?
家に閉じこもりっぱなしの子ヤギたちは母ヤギのように1人で外出できる大人に育つのか?

ナツキが父親からの性的虐待から逃れ、子ヤギたちと仲間意識が芽生えて笑顔を見せたのは嬉しいのですが、暗い未来が待っていそうな不穏な終わりでした。

愛があればなんとかなる!(嘘)

自分が成人女性だからか、映画を見たあと、ナツキでも子ヤギでもなく、母ヤギの立場になって「自分ならどうするだろう」と考えてしまいました。
ナツキに性的虐待を行っていた父親の気持ちは全くわからないのですが、母ヤギに少し共感してしまう自分が怖いのです。

もし自分に7人も幼児がいて、しかも自分たちを捕食できる強者が家の周りをウロウロしていたら、私も我が子を失う恐ろしさのあまり、子供たちを家に閉じ込め、陽の光を浴びて外を駆け回る楽しさや、自分の食料を得る学びの機会すら与えないかもしれない。
かといって7人の子供をぞろぞろ引き連れて歩いたら、それこそ狼や他の捕食者に素早く子供を攫われてしまうかも…

母ヤギはどうすれば良かったのだろう?
私が母ヤギの立場ならどうすればいいのだろう?
そもそも、野生のヤギって狼がウロウロしてる自然界でどう生活している?

思い出してみれば簡単なことで野生のヤギは群れで行動しています。
大人1人に右も左もわからない子供7人は負担が大きく、少し目を離したうちに足を滑らせて怪我をしたり捕食者に襲われるかもしれませんが、周りに他の大人がいれば子供が危ないことをすれば止めてくれるし、集団行動を通して子供も大人の真似をしながら生き抜く方法を学びます。

今作も元のグリム童話でも母ヤギは1人で7人を守ろうとするので、慎重な判断ができない子供たちだけで留守番をさせ、狼や人間の侵入を許してしまいます。(アメリカだと12歳以下の子供だけで留守番をさせた親は罰金が課されるので、ベビーシッターが活躍しているそうです)
自分だけで子供たちを守ろうとするので、子供たちに出す指示も「とにかく戸締りをして誰も入れてはダメ」と短絡的な指示しか出せません。

・家の中にある刃物や道具を使って侵入者にどう立ち向かうか?
母ヤギは道具を使うし、家にも刃物があるのに子ヤギたちはずっと丸腰で侵入者に立ち向かっているのも気になりました。怪我をするかもしれない道具には触らせたくないと触るのを禁じているのかもしれませんが、あの状況で丸腰で留守番させるのも危険でしょう。

・侵入された時、どのような手順で外へ逃げるか?
子ヤギたちが内側から施錠しているドアは一つだけです。侵入者がドアを背にしていると逃げられません。窓から有事の際は脱出できるように訓練しておくべきです。

我が子を守れるのは愛より群れ

そもそも初めから他のヤギがいる集落に住み、集団で生活するのがベストですが、今の家に住み続けるにしても他に話し合いができる大人のヤギがいれば母ヤギも緊急時に役立つ多様な指示が子供たちに出せると思います。
7人から順番に1人もしくは2人ずつ母親の外出に付き添い、外の世界を学ばせるといったアイデアも出てくるかもしれません。

もし母ヤギが頑なに「私のやり方に口を出すな」と怒り出すならそれまでですが…(辺鄙なところに一家だけで住んでいるあたり、元々気難しい性格で他のヤギと馴染めなかった可能性もありますね)

私も上京してから友達が作れず、近所の知り合いは旦那とその家族、あとは隣の県に住む親戚家族くらいしかいません。地元の友達も子育ての相談には乗ってくれるかもしれませんが、有事の際に子供を預けたり、見ていてもらうことはでいません。
現代社会の住宅街に人間として生きているので、狼が家に侵入して子供が食べられることはありませんが、ナツキの父親のような変質者が侵入する可能性、家電製品のトラブルや火事、気温による熱中症や低体温症など危険はすぐそばにあります。

たとえば私が妊娠して、なんと三つ子だったら?
やるべきことは一つ、1人で育てない、とにかく群れを作ること。

無料で参加できる地域の集いには積極的に参加し、たとえ他の人と仲良くなれなくても、周りに「あのお母さんは3人の子供がいて、あの辺に住んでるんだな」くらい最低限認識されること。
遠慮せずに義実家や親戚を頼ること。
実家の家族、地元の友達やSNSなど距離の離れた人々とも悩みを打ち明け、心の繋がりと余裕を作ること(こうやってnoteに書いたり、同じ考えの人の記事を読んだり)。
自分の「恥ずかしい・気まずい・面倒くさい」などの感情は不要です。
保育園や幼稚園に入れば自然と群れが形成されるのでその点はやはり安心。

母ヤギだけでなく、ナツキの両親について考えてみると
虐待をした父親が元々そういう傾向があり、母親も何かしらの被害に遭って別れているのか、母親と死別・離別した結果精神が歪んでしまい、弱い子供を性欲と支配欲の捌け口にし始めたのかは作中に描写がないのでわかりません。
ただ、おそらくあのお父さんに心を許せる関係の人間はおらず、孤立しているはずです。
元々自分より弱いものを虐待すると快感を感じ、大人には巧みな演技で友人関係を築ける生粋のサイコパスならどうしようもありませんが、元々普通の人だけど精神が歪んでしまったなら、他者が関わることで虐待が防げるかもしれません。
少なくとも「子供と自分だけの世界」でないと、虐待はしづらいので。

パペットが可愛いのでダークファンタジーかな?と対して身構えずに見てしまうと、かなり衝撃的・社会的な作品で、自分の将来起こりうる子育てや、社会へのつながり方まで真剣に考えることになり、結構気力を消耗しました…
10分の動画でここまで人間を真剣に考えさせられるってすごい。

もちろん、滑らかに生き生き動くパペットや、リアルでおどろおどろしい雰囲気満載の映像も見応えがあります。涙や液体の表現がパペットであることを忘れるほど生々しくリアルです。
見ると辛くなるのに不思議と何度も見たくなる作品なので、動画ファイルやDVDの発売を待ってます。

今は「あたしだけをみて/Look at Me only」が監督本人のYoutubeチャンネルで公開されていて、こちらはマイリトルゴートほどダークではないので見やすく面白かったです。(モルモットも出てきた!)

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
それでは、さようなら。

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