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【エッセイ】サーモンメンチカツに致す

 どのような用事に集中してようが、仕事に心奪われていようが、妻からの呼び出しは優先順位・一位だ。そんな家庭環境のせいか、排便が自由意志で手早く切り上げられる人造人間になった。

朝五時前、ベッドを整えている僕にキッチンから「ちょっと」と声がかかった。夫婦揃って毎朝四時起きで、妻は息子と自分のお弁当、朝食の準備。僕は猫のお世話と洗濯、ベッド整えという役割分担だ。役割分担というよりも僕ができることまたは、できないことの消去法で僕の朝の仕事が決まったようなもんだ。

ちょっとの声には機敏に対応だ。ちょっとのアクセントで怒りなのか、質問なのか、わかるようになった。今日は業務改善命令だった。

「ちょっと冷食さぁ、なんでまた同じの買ってるのよ」
キッチンに昨日買ったばかりの「サーモンメンチカツ」が置かれている。
パッケージが旨そうに見える。サーモンなのでカツにしていてもヘルシーだろう。それに、お手頃の価格だ。自然解凍タイプで、お弁当に放り込んで置けばいいタイプというのもよい。

先週もサーモンメンチカツを買っていたらしい。買い物に行く前に冷凍庫を覗けばいいのだが、忘れてしまう。行動フローに入っていないのを悔やむがあとの祭りだけあって、静けさのなかに緊張感が漂う朝となった。

同じものを手にする、近いことがよくあった。

ツタヤのアダルトコーナー。大人たちの社交場とは言えない、沈黙の中の狩場のような場所。年齢問わず男たちが流れ込んでくる。じいさんから若者まで、大衆浴場のようなごった煮だ。風呂屋なら気にもならないのに、とかくアダルトビデオのレンタル場となるとどうにも落ち着かない。

じっくりパッケージの裏面を読み込む人、とりあえず気になるものをカゴに放り込む人、手早くパパっと持ち去る人、グルグル回って同じところに戻る人、そして僕、迷ったあげく観たことあるのをもう一度借りてしまう人。

家に帰ってから気づく、既視感。デジャヴは異変が起きている合図、マトリックスではそういったがまさにそう。異変が起きている。あぁ、コレは観たことがある!保険に借りたもう一本も、観たことがあるとなった日は、小さく膝を抱える。

サーモンメンチカツとアダルトビデオに共通するのは、迷った時こそ我が最善を繰り返されるというものだ。そういうスタンドなのか。学校から帰って来た息子の弁当箱は、いつものように空っぽで米粒一つ残っていなかった。

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