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【エッセイ】シン・新幹線に混沌と秩序が横一列に並んだ朝

新幹線はもっぱら京都・東京間の移動にのみ乗車する。席は窓側。A席でもE席でもいい。三人掛け、二人掛けのこだわりはない。毎度チケットを予約するのがギリギリなこともあり、だいたいA席になることが多い。

地元のみどりの窓口のお兄さんとも顔なじみになって、今じゃ何もいわなくても窓側の席を探してくれる。今回は「こちらA席ですが、間のB席はあいております。通路側のC席は埋まっておりますが。よろしいですか?」と丁寧に状況を説明してくれた。シミュレーションゲームで彼が参謀なら、効率よく国盗りができるだろうに。

いつものように行きも帰りも窓側A席となったわけだ。行きのA席は、天気が良ければ富士山が見える。席のオプションとしてはとてもうれしいものだ。

朝の6時台、東京行のホームは混んでいた。14号車5列A席を目指す。車内は朝からの会議に向かう人、資料作りをしている人、爆睡の人、たぶんディズニーランドに向かう人、とごったがえしていた。僕が予約していた5列目のA席に座り、その後続いてC席に女性が座った。

僕はお行儀よく、自分のリュックを足元に置き。コートをA席特権のフックに引っかけ、後ろ席の様子を気にしながらシートを倒し、バッグサイドポケットに入れていたボトルコーヒーを取り出した。

C席に座った女性(以降、珈琲Cとする)はなんとなく若そうに見えた。スタバの紙袋を手に、リュックを背負っていた。某コーヒーショップの紙袋をB席に置いた。続けて、リュックを上の荷台に置き、シートを倒して座る。簡易テーブルを倒し、紙袋から取り出したコーヒーを置いた。そのまま、B席には紙袋が置かれたままだった。紙袋からはなにやら、サンドイッチのようなものも出てきた。

B席!空席のB席の扱い。A席とC席は緊張状態にあると思うのだ。B席を挟んでの国家対国家のような。という点でB席は、緩衝地帯でありおおきな国境だともいえる。このB席に、珈琲Cは飲んだコーヒーの紙カップやら食べたサンドイッチの包シートやらをポイポイと捨てていた。家でも椅子の上にゴミ袋置いて捨てるなんてしないぜ、女Cさんよ。

B席の不法占拠は新横浜で終わりを告げた。突然の終了。B席の主が新横浜から乗車してきたのだ。僕が三日前にチケット購入した時とは状況が変わったのだろう。そりゃぁ埋まるさ。

B席の主は、ご年配のご婦人(以降主Bとする)だった。スーツ姿で新横浜から東京まで仕事に向かうような様相だった。

「私の席は、ゴミ箱じゃありませんよ」とひとこと。

そそくさと紙袋を手に取り、珈琲C主BがB席に座れるようにと席を立った。自席に座りなおした珈琲Cは足もとにゴミの入った紙袋を置いたのだった。

言えます?サラッと「私の席は、ゴミ箱じゃありませんよ」。

言いたいことをビシッと言ってのける、胸のすく思いだ。なかなか凡人にはできない。躊躇してしまう。

心のつっかえが取れて、新横浜から東京までの短い旅路を穏やかにと思った矢先、主B

「その肘掛け、私のだと思いますが」

と。主Bは既に珈琲Cの右肘掛けをキープした状態で、僕に話しかけてきた。
・A席:窓のブラインド権、服かけフック権、(昔は)充電権
・C席:トイレにいつでも行ける権、A・B席の住人の通行許可権、(昔は)車内販売優先的に気兼ねなく利用できる権、携帯に電話かかってきたらサッとデッキに行ける権

と権利獲得しているが、B席は何もないと思っていた。今回わかったのは
・B席:両肘掛けを自由に使える権
があったようだ。まだ非公認だとは思うが、B席が両肘掛けを使うことで、A席とC席との領地干渉がなくなる。まさにB席は不可侵条約を体現する砦のような存在なのだ。

もうひとつB席の権利というか、特徴は「座席幅が2cmほど広い」ということらしい。

僕は右肘をそっと下ろし、「すみません、どうぞ」とだけ言い気まずくなったので、居眠りを始めた。B席側に頭が落ちないように、狸寝入りだ。窓に頭を押し付けて、東京まで行った。

おわり

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