【エッセイ】解雇前のガスコンロ、モーレツに働く
ガスコンロを壊したのは二年前。カミさん休んでていいよ!おれ、主夫もできるもん!的なイカレアピール男のすることは、ろくでもない。吹きこぼし王の名を欲しいままにして、ガスコンロを沈黙させたのだ。
そして買い換えた、ガスコンロ。二年間、特に不具合もなかったが、最近どうも左のメインエリアが付きが悪い。「チチチチ、ボッ!!(火が付かない)また、チチチ、ボッ(火が付かない)沈黙」ガス漏れ状態になるので一旦、プッシュ式の点火スイッチをオフにして、もう一度押し込む。すると、点火する。
そんな、ちょっとイラッとするレベルの不具合だ。一日のうち、点火スイッチを押す回数は、さほど多くない。朝、ヤカンで湯を沸かす、味噌汁を温める、お弁当の卵を焼く、ぐらいですべて左メインエリアでこなすわけじゃぁない。右のメインエリアだっている。二本柱だ。奥には小さいサブコンロもある。とはいえ、こういう不具合ってのは、なんだかテンションが下がる。
交換・修理に依頼するほどでもないし、いつも付きが悪いわけではない。朝に不具合があっても、それ以降は大丈夫みたいなパターンが多いのだ。
来るぞ!来るぞ!ガス周り点検隊
マンションのオプションサービスで、ガス周りの点検ってのがある。ガス警報器の点検とは別に、ガス機器のチェックをしてくれる。とてもいい機会!渡りに船だ!と歓喜!無料でチェックしてくれるらしいから、診てもらうとカミさんと盛り上がった。
不具合は、朝イチに起こりやすい。点検は午前中。実際に点火してみたら、スンナリ問題ナシなんてこともあり得るだろう。これは、いっちょ動画でも撮影しておいて、こんな感じなんですぅーと見せるのがいいだろうと相成った。
点火するときには、姿勢を下げて、iPhoneを用意し、ビデオで録画。ピロって録画の起動音がしたら、点火スイッチを押す!「チチチ、ボウッ!」と普通に点火する。おい、おい、どうしたんだい!付いちゃったよ!とカミさんに動画を見せる。その後、朝の5時20分~30分あたりまで点火の儀式をおこなった。点火するたびに、録画する。
買い替えの話をすると、急にな。
我が家では、壊れそうな家電たちには、日々解雇通達を臭わせるようにしている。「もう、そろそろ買い替えかぁ」「早かったなぁ、コイツ」「このままじゃぁ、ダメだから、もう次はないよね」「ヨドバシいついく?」と言った具合だ。
今回のガスコンロも、買ってまだ二年だが調子が悪いとこんな風に解雇通達をチラつかせていた。「随分早い終わりですね」「ここは、あなたのくる場所ではなかったようですね」「もう結構、お帰りなさい」などと、フリーザーさま張りに丁寧かつギリギリの嫌なコメントを放り込む。
もしかしたらの、復活を期待して。
それが今頃になって、効いてきやがった。「俺!やれるよ!」といわんばかりに。別れ話をしたとたんに、改心するかの如く。今は、付きにくくあって欲しい。せめてあの動画を説明用に撮影させてくれよぉう。
何度やっても、あの「チチチチ、ボッ!!(火が付かない)また、チチチ、ボッ(火が付かない)沈黙」にならないのだ。まさにハートに火が付いた状態。
溜まる無駄な動画。私のiPhoneの画像フォルダはガスコンロのローアングル動画で占拠されていた。ただ無駄に点火するガスコンロの動画。もし何らかの事故に巻き込まれて、スマホが誰かに見られようモノなら、新種のフェチ発見!と声高に叫ばれることだろう。
そんなありもしないリスクを避けるためにも、日の終わり・寝る前にガス点火動画を消去する。
もう、あの付きそうで付かないガスコンロには会えないのか?と。真人間ならぬ真ガスコンロに改心したのか。だが、苛立ちを感じる。ガスコンロからしたら、相当理不尽な話だろう。
油断した昼下がり
カップ麺でも食うかと、昼過ぎのこと。ヤカンを左メインスペースに。点火!「チチチチ、ボッ!!(火が付かない)また、チチチ、ボッ(火が付かない)沈黙」
おい!付かないじゃないか、反射的に左手を見る。スマホを握っていないし、動画も撮影していない。油断だよ。人生で何が一番厄介かって?自分さ。油断しちまうんだから、誰がって、自分だよ。厳密に言えば、油断する自分ってのが最も厄介なのさ。コイツはいつかお前を滅ぼすのさ。
という具合で、ガス点検がくるまでにあと7日。
「チチチチ、ボッ!!(火が付かない)また、チチチ、ボッ(火が付かない)沈黙」
の動画は撮影できるのか?もはや、手段は目的と化し、ガスコンロがまともに機能しないことを願う、きっと頭がどうにかしているのでしょう。さぁ、湯を沸かそう。いや、沸かない方がいい。(後半につづく)