野良で聞いた話〜助けたカメに…
こら!
カメをいじめちゃだめだよ!
わー!にげろ!
お得意先まわりをしてる途中、公園を通りかかると子どもたちが大きなクサガメをいじめてた。
パラパラと子どもたちが散っていったあと、クサガメはこっちを見て頭をペコペコしながら、山裾のため池の方に歩いていった。
翌日。
午前中の営業が終わり、ため池のほとりでコンビニおにぎりを頬張っていると、ぽかりとカメが浮いてきた。
昨日はありがとうございました。
私の背中に乗ってください。
いやいや。クサガメにしては大きいけどねえ。
体長30センチの亀の背中には乗れないよ(^_^;)
大丈夫です!
さあ!
あんまり勧めるので、好意を無にしたくなくて、乗るふりをしてみた。ほら、無理だよね…
…と、なんと、カメの上に来ると身体がスルスルと縮んで、ちょうど背中に乗れるサイズになった。
ええええー
ね、大丈夫だったでしょ?さあ、竜宮城にお連れしますよ!
ウミガメを助けて海の底の竜宮城に行くのはわかるけど、クサガメの背に乗ってため池の底へ…
冬には泥しかない底が見えてたため池の底。
ぶくぶくぶく…
緑の水の中に入って行くときはちょっと焦ったよ。
息できたのかって?それは浦島太郎に聞いてくれ。
全然視界のない、緑に濁った水の中をどんどん下へ。すると、白くピカピカ光るものが見えてきた。
もうすぐですよ!
なんと、そこにはシンデレラ城のようなお城が!透明の曲面が塔のあちこちに、未来的な輝きを見せている。
すごいな…
なおも近づいていくとその正体が明らかに。なんと、ペットボトルやガシャポンのカプセルでできている。なのに美しい。
こちらです!
いらっしゃーい!
黄色い声の出迎えを受ける。
中にはたくさんのおたまじゃくしやヌマエビ、ヤゴの踊り子が舞っている。
真ん中には着飾った大きな大きなウシガエルが…
こちらがこの池のヌシのオトヒメさまです!
ボーウモーヴ。はじめまして〜!
あまりの迫力に声も出ない。
おや、外国の方はお嫌いですか?
オトヒメさまはご先祖はアメリカから来られましたけど、ご本人は生粋の日本生まれ、この池生まれですよ。
そ、そうですか…はじめまして。
ボーウモーヴ!素敵なお声!
ささ、もっと近くに!
オトヒメが圧倒的な圧力で迫ってくる。緑の肌が頬に触れる。ぬるりと冷たいけど暖かい。柔らかい肉がどんどん覆いかぶさってきて、息が詰まり、意識が遠のいていく。
…
………
……………
気がつくとため池の土手で眠り込んでいた。
手には藻の絡まったガシャポンのカプセルがひとつ。
ボーウモーヴ!
ボーウモーヴ!
ウシガエルの鳴き声が響く。
オトヒメさまー
小さな声で呼んでみる。
答えはない。
当たり前か。
ぽちゃんと音がして、カメの首が遠ざかっていく。
ありがとー
小さく声をかけてみる。
さ、仕事に戻るか。
手の中のカプセルには何か入っているようだけど、緑に濁ってよく見えない。
開けずに宝物にしよう。