【水産加工業・事業承継】阿部久仁雄・亜希美さんご夫妻
家業を継ぐ
日本には何社の企業があるかご存じだろうか。
その数、およそ420万。
そのうち99.7%が中小企業と言われている。
特に小規模企業(従業員20人以下の製造業、従業員5人以下のサービス業)は、85%以上を占めている。
経営者とその家族が中心となり、従業員を雇用する形が一般的だが、近年、事業の継承が注目を集めている。
資金、顧客、商品(技術)と、ビジネスに不可欠な要素を持ちながらも、後継者が見つからず、やむなく事業をやめてしまう会社が少なくない。
今回、紹介する阿部久仁雄さん・亜希美さん夫妻は、一時は廃業を考えていた父親の水産加工業を引き継ぐことを決めた。
決意に至るまで、そしてこれからの展望について聞いてみた。
―― まず、お仕事について詳しく聞かせて下さい。
亜希美さん:
父は漁師から陸に上がり、塩釜の市場(塩釜水産物仲卸市場)にて魚のプロ相手に魚卸業から、日本各地の百貨店へ夫婦で行商してまわったそうです。
その後、藤崎百貨店の食品売り場に出店し50年になります。
―― ご主人の久仁雄さんは、お婿さんということですが、これまで水産業の経験はあったんですか?
久仁雄さん:
いえ、もともとは足場を扱う建設会社の営業マンでしたので、工場で何かを作る仕事もしたことはありませんし、ましてや食品づくりの知識もありませんでした。
―― まったくの異業種参入ですね。肉親にあたる奥様は、お父様のお仕事をご自身が継ぐ、という強い気持ちはあったのでしょうか。
亜希美さん:
私は三姉妹の末っ子で、父としては”女子が継承するには難しいだろう”と「いずれはやめるから自分の代で終わり」という感じで話していたので「いつか、時が来たら閉めるんだろうな」という雰囲気のまま過ごしていました。
―― それが、一転して夫婦で継ぐ、となったきっかけは何だったんでしょう?
久仁雄さん:
(妻の)お姉さんが、時々「この仕事をやってみないか」いう感じで声をかけてきたんですけど、身内が商売をやっているとこういう話ってよくあることなので、どこまで本気なのかはわかりませんでした。
2016年に結婚したのですが、この家に入ってから「やってみないか」と言われたときに「やろう」と思いました。
―― 不安もあったと思うのですが、大きく踏み出せた理由は何ですか?
久仁雄さん:
それまでは、食べるものに無頓着で、毎日コンビニ弁当でもOKでした。
ただ、結婚して子供が産まれて、食べるものは本当に大事だなと思ったんです。
意識してからは、子供たちの未来、日本人の魚食文化、食育など、この仕事を通じてできることが思い浮かびました。
亜希美さん:
私は学校を卒業してから、よその土地や会社で働いた経験もなく、ずっと家の仕事を手伝ってきましたから、夫が決意してくれたことはうれしかったです。
もしかしたら、私よりも父や母…一番は祖母が喜んでいたかもしれません。
―― お仕事をされてて、いちばん嬉しかったことは何ですか?
久仁雄さん:
いろいろありますが、一番は「美味しかった」と言われることですね。
あとは、魚が嫌いだったお子さんが、うちの商品を食べてから魚も食べるようになったと電話をくれた方までいて、そういう声はすごく励みになりますね。
―― 逆につらいことはありますか?
久仁雄さん:
いま、この業界はつらい時期なんですよね。円安ドル高で仕入れ値がかなり上がりましたし、原油価格の高騰もあって資材関係は全部上がっています。
かといって、それを価格にまるごと乗せることはできませんから…いま、つらいのはそこですね。
―― 夫婦でお仕事をされていて大変なこと、ありませんか?
亜希美さん:
よく言われるんですけど、もともとケンカもしないですし、友達みたいに仲良く仕事しています。
久仁雄さん:
そうですね、なんでも話し合ってますし、そこはありがたいです。
―― 先代の仕事を継承したお二人ですけど、これまでの仕事を文字通り引き継ぐことだけではなく、新しい取り組みなどは考えていらっしゃるのでしょうか?
久仁雄さん:
はい、7月から販売を開始した「おさかなの素」というものがあります。お茶漬け、炊き込みご飯を簡単に美味しく食べてもらえるものです。
―― これは、どういう経緯で生まれた商品なのでしょう?
久仁雄さん:
業界経験の浅い自分だから気づいたのかもしれませんが、例えば鮭1本をさばく際に、ギフト用の規格に満たない切り身は全て除外しているな、もったいないな、と思ったのがきっかけでした。それらも活用できる、何かを作れないかと思ったのが「おさかなの素」です。
塩竈市の商工会議所にも通うようになりました。自分たちの漠然としたイメージを伝えると、具現化するために必要な情報をいつも提供してくださいました。
―― なるほど、SDGsですね。
亜希美さん:
今回、一緒にブランディングに協力してくださったのが奈良の中川政七商店さんです。会長さん自ら当社の商品に大変関心を持ってくださり、売り場や塩釜市内も見に来てくださいました。今回のコンセプト「おさかなの美味しさを余すことなく。」はまさに地元の活性化と美味しさを余すことなく活用しようという想いが詰まっています。
ギフト用の商品として選別している魚を丸ごと活用していますので、噛めば噛むほど味が出るような美味しさです。
私たちが、干す・焼く・ほぐすを丁寧に手をかけた自信作です。
―― これから、この仕事をどういう形で発展させたいですか?
亜希美さん:
売り上げを伸ばして、大きくしたいというのもありますけど、ほかにもいろいろな商品を作りたいですし、お店も出してみたいですし、やりたいことはたくさんあります。
いずれは外国の方々にも、私たちの商品を食べてほしいです。
久仁雄さん:
多分、突拍子もないこと、何でもかんでも手を付けるのではなく、今回、自分たちが作った「おさかなの素」のように、いまあるものから、何かを連想して新しいものを作っていく、そんな風になっていくんじゃないかと思います。
(義理の父からは)いいものを作っていけば大丈夫、と背中を押されています。
―― 最後に、お二人にとっての宝物は何でしょうか?
亜希美さん:たくさんありますけど、やっぱり人…人間関係ですね。
久仁雄さん:人もそうですし、平和ですかね。平和だからこそ、やりたいことも実現できますので。
インタビュー中でも触れたように、水産業界には強い逆風が吹いている。
覚悟をもって立ち向かう、というよりも、アゲインストすら楽しみに変えてしまうようなポジティブさに満ち溢れる阿部夫妻。
これから、さかなの街、塩竃に新しい風を吹かせてくれるという期待がいやが上にも高まる。
阿部守商店さんの商品は、藤崎のサーモンハウス、おさかなの素はECサイトのみでの販売となります。
阿部守商店
985-0061
宮城県塩竈市清水沢二丁目26−13
050−5329−5517
オンラインショップ『おさかなの素』https://abemamoru-shouten.com/
Instagram https://www.instagram.com/abemamoru_shouten/
Twitter https://twitter.com/abemamoru_shop
メディア掲載
おさかなの素を食べた感想
https://twitter.com/umai_shiogama/status/1547107574821990400
記事執筆:竹田知広