令和の虎569人目 講演会で障がい者兼医療従事者として発信力をつけ社会福祉を改善したい レポート

1.動画概要

 世界に1人の難病を抱える門傳佑子(27)による「障がい者兼医療者として、福祉・医療を改革し、社会福祉を改善したい」希望金額210万中、890万円でEXCEED。

・今回の虎

 ゆうじ社長/田中雄士(有限会社RANGER 代表取締役 株式会社ユージーエース 代表)
 矢神サラ(社団法人アジア包括支援センター 代表理事 六本木 GENIEオーナー)
 唐沢菜々江(クラブNanae オーナーママ)
 トモハッピー(株式会社カードン 会長 株式会社ハッピー商店 社長)
 林尚弘(株式会社癒し~ぷ 代表 株式会社FCチャンネル 代表取締役)

・司会

 岩井良明(株式会社MONOLITH JAPAN 代表取締役)

・ソーシャル版タイガーファンディング

 今回の通常の形式とは異なり、虎からの支援額が目標金額に到達しなくても、集まった金額を持ち帰ることが可能となる「ALL IN」方式が採用されている。提示された出資額が希望金額を超える場合は「EXCEED」として扱われ、この額を超える支援を持ち帰ることは出来ない。

2.動画考察

・志願者の経歴から見るポテンシャル

 志願者は国際医療福祉大学を首席で卒業後、言語聴覚士として勤務していたが、就職直後に気管支喘息の重積発作を発症し、その後の精密検査で若年性ALS(※1)や上咽頭狭窄症(※2)など、複数の難病が次々と診断された。病状の進行に伴い、スティッフパーソン症候群(※3)や重症筋無力症(※4)など十数種類の希少疾患を抱え、現在では人工呼吸器を使用する全介助生活を送っている。最近では世界で唯一の症例と診断される病気も発見され、厳しい状況にある。
 難病と向き合う生活の中で、患者自身の視点を活かし啓発活動を行うことを決意。2021年にSNSでライブ配信を開始し、自身の経験を共有することで多くの人々に希望を届けたいと考え、活動を広げていった。2022年には国内の難病患者として初めて出産を経験し、その後も啓発活動を継続したが、病状のさらなる進行や、生活上の負担が増大したことで耐えきれなくなった夫との離婚協議に入ったこともあり、活動を一時停止することとなった。
 現在では人工呼吸器を使用する全介助生活を送っており、いつ心臓が止まってもおかしくない状態にある。それでも、残された時間を最大限に活用し、自身の配信を通じて多くの人々に影響を与え続けることを目指している。
 本来は付き添いが来る予定だったが、前日にその人物が新型コロナウイルスに感染したため、志願者は単独で本収録に参加。「ビジネスの話をするのだから、約束を守る」ことを重視し、また時間を無駄にしたくないとの考えから、一人での来場を決断した。この姿にサラ氏は涙が止まらず、林氏も涙ぐんでいた。

※1…若年性ALSとは、運動神経が障害され、筋力低下や萎縮が進行する疾患で、最終的には呼吸機能にも影響を及ぼす。治療法はなく、進行を遅らせる対症療法が中心となる。
※2…上咽頭狭窄症とは、鼻の奥の部分が狭くなることで、呼吸困難や飲み込みの障害を引き起こす。
※3…スティッフパーソン症候群とは、体の筋肉が硬直し、動きにくくなる自己免疫疾患。特に歩行や姿勢に影響を与え、強い痛みを伴うこともある。
※4…重症筋無力症とは、神経と筋肉の接続部に異常が生じる自己免疫疾患で、筋力が低下しやすくなる病気。

・志願内容

 本プランは「医療者でもあり当事者でもある志願者が、講演会、講師活動を始めるにあたり出資を募る」という内容で、希望出資形態は融資、希望金額は210万円。
 志願者は、自身が難病患者であり医療従事者でもある経験を活かし、日本の福祉と医療を改革することを目指している。その最終目標は、インクルーシブ教育(※5)を実現する新しい形の学校を設立することである。
 この目標を達成するため、志願者はまず、講演活動を通じて資金を調達する。初期段階では、自主開催の講演会を予定しており、1回あたり約15万円の費用を見込んでいる。講演会では、志願者自身の経験を基に福祉や医療に関する課題を提起し、多くの人々とつながりを持つことを目指している。SNSを活用して集客を行い、参加費や物販による収益を得る計画である。講演活動を通じて認知度と信頼を高め、企業や医療機関からの依頼講演へと展開することで、安定した収益基盤を構築し、学校設立のための資金を積み上げていく。
 次に、法人化を視野に入れた事業基盤の整備である。志願者は、スタッフを雇用し、医療ケアの資格を取得させることで、自身のケアを支援すると同時に業務を遂行する体制を整える意向を示している。この仕組みにより、志願者自身が講演活動や学校設立に向けた準備に専念できる環境を整えることを目指している。
 これらの活動を通じて得た収益や信頼を基盤に、最終的には学校の建設を実現し、障害者と健常者が共に学べるインクルーシブ教育の場を提供することを計画している。
 
※5…インクルーシブ教育とは、障がいの有無や個々の違いにかかわらず、全ての子どもが同じ場で学び合い、共に成長できる教育のあり方を指す。

・人間性

 志願者は、高校時代に参加した株式会社設立の授業を通じてビジネスに興味を持ち、起業への意欲を抱いた。この経験をきっかけに、事業を通じて社会に貢献するという目標を持つようになった。その後、国際医療福祉大学に進学し、福祉医療分野への関心を深めながら、社会貢献への志をさらに強めた。中学・高校時代には劣等感を抱えていたが、大学時代には学業と活動を両立させ、成績トップを維持したことで自信を得た。国家試験に向けた勉強だけでなく、介護施設でのボランティア活動や現場を意識した学びに力を注ぎ、論文を通じて実践的な知識を深めるなど、福祉と医療の現場で役立つスキルを積極的に追求した。
 社会貢献を目指して本格的に行動を起こそうとしていた矢先、志願者は難病を発症した。この突然の出来事は困難を伴ったが、志願者は病気と向き合い、自らの経験を通じて社会の課題をより深く理解し、それに立ち向かう決意を固めた。現在、難病を抱えながらも、自身の体験を発信し、福祉や医療の改善を目指した活動を展開している。
 特に、重度障がい者として直面する現状の課題に対する発信に力を入れている。志願者の症状は日々変動するが、現行の重度訪問介護制度は、症状が安定した利用者を想定して設計されているため、適切な支援が得られない場合が多い。また、ヘルパーの人材不足、賃金の低さ、研修の不足といった構造的な問題も、制度の課題を浮き彫りにしている。これらの現実を発信し、福祉制度の改善を求めるとともに、支援の輪を広げることを目指している。
 志願者の人間性は、向上心が強く、目標に向かって努力を惜しまない姿勢が特徴的である。難病という逆境にも屈せず、自身の経験を社会課題の解決に役立てようとする前向きさと強い精神力がうかがえる。また、自分の困難を他者の立場に重ね合わせ、共感力を持って福祉制度の改善を訴える姿勢からは、社会貢献への熱意が感じられる。

・出資する意義

 志願者への出資は、困難に立ち向かいながら活動を続ける姿勢を応援する意味合いが強く、障がい者福祉への支援という側面では多様性を尊重する社会の実現に直結し、社会的意義も大きい。志願者が目指す講演活動や学校設立の取り組みは、共生社会の形成に向けた具体的な一歩であり、その努力を支えることは、社会全体の未来につながる重要な意義を持つ。

3.まとめ

 本プランは、志願者が目指す社会的意義が高く評価され、最終的に890万円の出資が集まった。林氏は4人の虎が全額出資を決める中、唯一50万円の出資を提示したが、志願者が法人を立ち上げる際に具体的な発注が可能かどうかを検討する意向を示した。志願者は「虎たち全員と関わることは、お金以上の価値がある」と述べ、自ら車椅子を進めて全員から均等に出資を受け取った。
 「ソーシャル版TF」は、事業プランの実現性よりも志願者の人生背景や人間性に焦点を当て、共感や社会的意義を重視する傾向がある。今回は、志願者の難病との闘いや活動への思いが中心に描かれ、事業の成功可能性よりも、彼女の努力や志に対する応援が出資の決定要因となったことがわかる。


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