令和の虎564人目 長崎県に水産加工場を作り漁業の人手不足を止めたい レポート

1.動画概要

 漁協職員・中村竜綺(26)による「長崎県に水産加工場を作り漁業の人手不足を止めたい」 希望金額800万中、800万円で完全ALL。

・今回の虎

 島やん/島田隆史(株式会社お客様みなさまおかげさま 代表取締役) 
 佐々木貴史(株式会社りらいぶ 代表)
 岩崎健人(株式会社喜創産業 代表)
 トモハッピー(株式会社カードン 会長 株式会社ハッピー商店 社長)
 桑田龍征(NEW GENERATION GROUP オーナー)

・司会

 岩井良明(株式会社MONOLITH JAPAN 代表取締役)

2.動画考察

・志願者の経歴から見るポテンシャル

 志願者は愛知県の水産高校を卒業後、工業系専門学校を中退し、派遣社員として旅館に勤務。その後、海の美しい場所で暮らしたいという思いから長崎へ移住し、現在は漁協職員として車海老養殖場の主任を務めている。
 今回の志願では、完全ALLを達成した場合に法人を設立し、漁協での職務と並行して事業を展開する予定である。

・志願内容と、その評価

 本プランは「長崎県南島原市に水産加工場を作り、そこで作ったものを個人客に販売する」という内容で、希望出資形態は投資、希望金額は800万円。資金は、土地代を含む加工場用プレハブ物件の購入費用に充てる。
 志願者は漁協から直接魚を仕入れ、急速冷凍した刺し身や昆布締めを販売することで、仲買人を省き、6次産業化を目指している。この取り組みには、漁協で培ったコネクションを活用し、漁協からの許可も得ている。 
 漁協は港の管理や水揚げされた魚の出荷、漁船用道具の販売などを担っているが、高齢化と後継者不足が深刻である。職員の多くが50歳以上、漁師の半数以上が70歳を超えており、保守的な姿勢が強いため、新たな事業への取り組みが進みにくい。また、職員の給与が低く、将来の生活への不安も大きい。
 志願者はこの現状を打開するため、市場や仲買人を減らして6次産業化を実現し、漁師や漁協関係者の収益を増加させることを目的に本プランを立案した。加工場の運営により漁師の利益向上と地域経済の活性化を目指し、富山県の漁協が成功した事例をモデルとしている。
 しかし、漁協で新たな事業を始めるには、漁師たちの過半数の賛同が必要であり、漁協が赤字の場合には漁師から賦課金を徴収する仕組みもあるため、漁師たちはリスクを負う立場にある。その結果、新たな取り組みに消極的になりやすく、この点が提案の実現を妨げる大きな障壁となっている。
 志願者は試作品として車海老とコウイカ(スミイカ)を持参し、試食を提供した。味については好評だったものの、特別感や独自性が足りないとの評価を受けた。
 本プランは、志願者の熱意や意欲は評価されたが、計画の内容や魅力を十分に伝えられなかった点について厳しい指摘を受ける結果となった。漁師や漁協関係者の人数が減少する中で、本プランを成立させるには、志願者が総合的な強みや突出した武器を示すことが求められた。しかし、志願者はそのどちらも持ち合わせておらず、商品の魅力や個人顧客にとっての具体的なメリットも効果的に説明できなかったため、計画の実現性や競争力について疑問を残すままとなった。

※1…6次産業とは、1次産業(農林水産業)を基盤として、2次産業(加工業)と3次産業(流通・販売業)を組み合わせることで、付加価値を高める取り組みや事業形態を指す。

・志願者の人間性

 志願者は、幼少期に父親と共に釣りやダイビングを楽しんだ経験から水産への興味を抱き、それが水産高校進学のきっかけとなった。その後、漁協で勤務する現在に至り、移住当初には若い余所者であった自身の結婚式を漁協の人々が挙げてくれるなど、温かい受け入れを受けたことに深く感謝している。この経験から、志願者は漁協への強い思い入れを抱いている。
 一方で、志願者のプレゼンにはしばしば漁協のみで本プランを立ち上げることへの諦めが垣間見える。その点は桑田氏からも「(志願者の)仕事はプランや商品の魅力を伝えることであり、商品の良さを具体的に説明する力と、市場や他者の意見を柔軟に受け入れなければ、保守的な漁師と同じ」と叱責されている。
 志願者は熱意や感謝の気持ちを持ちながらも、現実との折り合いをつけきれない部分や柔軟性の不足が見られるが、そこを克服することでさらなる成長が期待できる人物であるといえる。

・出資する意義、メリット

 漁協の高齢化や後継者不足という課題に対し、志願者が提案する加工場の建設と6次産業化は、地域経済の活性化と持続可能性の向上を目指した意義深い取り組みであると考えられる。また、志願者の熱意には評価の声も多い。しかし、商品の特別感や販売戦略の欠如、計画の準備不足が課題となり、投資リスクが高いと判断された。 

3.まとめ

 本プランは、志願者の熱意と計画の社会的意義が評価され、島やん氏、佐々木氏、トモハッピー氏から合計300万円の出資提示があった。さらに、桑田氏は出資を行わなかったものの、志願者の成長を期待して「にっぽんの宝物(※2)」への紹介を提案した。
 目標金額には届かずNOTHINGとなるところ、岩井氏が志願者の若さと挑戦への意欲を評価し「失敗してこい」との言葉とともに残りの全額を提示。これにより、結果は完全ALLとなった。
 岩井氏の言葉は、挑戦そのものの価値を評価する投資の姿勢を反映しており、志願者が経験を通じて成長し、地域経済に貢献する未来への期待が込められていると考えられる。また、この言葉には、こうした志願者や挑戦者がもっと現れ、行動を起こしてほしいという期待や思いも込められているように感じられる。

※2…にっぽんの宝物とは、地方の優れた商品やサービスを発掘・育成し、全国や世界レベルでのヒット商品に育てることを目的としたプロジェクト。


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