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昨年ARTIZON MUSEUMで観た、山口晃さんのジャム・セッション展。
美術館を訪れてから、しばらくの間は頭の片隅にほわほわ〜っとその展示のことが存在し続け、鑑賞体験を自分の中で消化するまでにはわりと時間がかかるほうです。
感想を綴っておきたいな〜と思いつつ、時が経ってしまうことも少なくなく……。今さらながら、昨年の10月後半に行った展示についての記事を公開します。(執筆途中で寝かせてしまい、年も越してしまいました)
訪れるたびに好きになるARTIZON MUSEUM
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訪れたのは、JR東京駅、東京メトロ銀座線・京橋駅、東京メトロ・銀座線/東西線/都営浅草線・日本橋駅から徒歩5分の場所にある、ARTIZON MUSEUM(アーティゾン美術館)。
ここ、元々はブリヂストン美術館でした(そう、あのタイヤのブリヂストンです)。ブリヂストン美術館の時にも何度が訪れたことがありますが、ルノワールやコロー、ピカソなどの西洋画のコレクションに加えて、日本の近世美術や日本近代洋画が充実している印象でした。
記憶はもう朧げですが、そのころは落ち着いた感じの、昔からある美術館という空間だったような……。
それが、ビルの建て替えに伴い長期休館し、2020年1月にARTIZON MUSEUMとしてリニューアルオープンしました。
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ARTIZON MUSEUMを訪れるのは、2020年の『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり』展以来、2度目。
10月のこの日、目がけて行ったのは『ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』展。
ガラスと素材感に魅了される美術館デザイン
展示の話の前に、美術館自体の紹介をぜひさせてください!!
ARTIZON MUSEUMの美術館デザインを手がけたのは、TONERICO:INC. 。建物自体も見どころがたっぷりです。正確にいうと、「見る」よりも「体感する」という感じでしょうか。とにかく、館内を空気がスーッと循環するような気持ちよさがあるんです。前回訪れた際に、たくさん建物の写真を撮っていたので、何枚かご紹介します。
ガラスで囲まれた開放感あふれる空間を作り出す吹き抜け
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まず特徴的なのが吹き抜け。美術館入口となる1~2Fを高さ8mの高透過大型ガラスで囲み一体化していたり、3Fのメインロビーから5Fの間もダイナミックな吹き抜けがあります。展示室内でも5Fから4Fを見下ろせる吹き抜けがあります。
オリジナルで開発したサインシステム
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館内全体にスタイリッシュでモダンな印象を抱くのですが、その理由のひとつがサイン計画。ピクトグラムをはじめオリジナルで開発しているそうです!
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美術館は学校などとは異なり、毎日のように通う場所ではないので「どこにトイレがあるのか」「出口はどこなのか」など迷いやすい場所ですよね。しかも、海外の方も来館する可能性があるので「どんな人が見てもパッとわかりやすい」状態を実現する難易度はさらに高いはず。
「親しみやすい美術館」を目指しているそうですが、来館者の行動への配慮が行き届いた、このような細かい点までトータルで設計しているところも素敵ですよね。
光の取り入れ方や素材感が印象的な内装デザイン
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ご興味がある方は、下記のアーティゾン美術館の「建築・デザインについて」のページにとても詳しく書いてあるので、ぜひ覗いてみてください。
6階の展示室入口のロビーには、日本のインテリアデザインを牽引した倉俣史朗による家具の展示があります。実際に座ってもOKなんです!
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そして、山口晃ワールドへ!
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山口晃さんの作品は、ほかの美術展で何度か鑑賞したことがありました。日本の伝統的絵画の様式で現代と過去の東京(江戸)の街並みを描いた作品が面白く、それらの作品を見たいな〜と思い足を運びました。というわけで、予習をせずに訪れたわけですが… 街並みの絵画以外もとても見応えがありました。
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ちなみに、「サンサシオンってなんだろう」と思っていたら、「感覚」を表すフランス語でした。Sensation。
そして、特徴的なのが展覧会タイトルにもある「ジャム・セッション」。この展示は、石橋財団コレクションとアーティストの共演ということで、アーティストと学芸員さんが共同して、コレクションの特定の作品からインスパイアされた作品や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって展覧会を構成するというもの。山口晃さんはそのシリーズの4回目に迎えられたアーティストです。
以下、展覧会の『ごあいさつ』より、館長の石橋寛さんの言葉を一部抜粋します:
今回の展覧会で山口が向き合おうとしたのは、石橋財団コレクションの中の日本近代洋画群ですが、セッションの対象として選んだのは、室町時代の水墨画、雪舟の《四季山水図》と、19世紀末から20世紀初頭に活躍したフランスのポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》です。これらに山口がどのように反応し、展覧会としてどう作り上げたのか、会場にてお楽しみいただければと存じます。
そう、山口晃さんの作品に加えて、雪舟やポール・セザンヌの作品もあり、それぞれの作品との対話が文章や絵画の形で繰り広げられていました。
こちらは、ポール・セザンヌの作品。
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そして、山口晃さんの模写。展示室内には、山口晃さんのセザンヌ観やセザンヌの模写に関するコメントがかなりのボリュームで展示されており、全てを読んで周るには相当な時間がかかりそうでした。(わたしは一部は図録で後から読みました)
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漫画も描いていたことは知りませんでした!
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こちらは、「山口晃さんといえば思い浮かべる方も多いのでは?」と思われる、街の細密描画の作品です。どのように描き進めて行ったのかを考えるだけで気が遠くなりますが、とにかく面白いんです。いつまでも鑑賞していられます。
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こちらの、日本橋を舞台にした作品は、江戸から現在までのさまざまな街並みが巧みに融合されています。じーっと見ていると、地面の位置とかがずれていたりするのですが、ともすれば気づかないくらい自然につないでいる山口マジック。
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今回、調べてみて初めて知ったのですが、東京メトロ銀座線日本橋駅でこの作品を原画としたステンドグラス作品が見られるみたいですね!このWebサイトに山口晃さんが寄せているコメントも素敵でした。
鑑賞している人は意外と気づいていなかったと思われる、《さんさしおん》の作品のからくり。
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街並みの作品以外にも、山口晃さんの作品の幅を感じることができ、とても充実した企画展でした。作品のアウトプットに至る思考も含めて展示されていて、作家さんと対話するように鑑賞できる仕掛けだったのがよかったです(しかし全てを会場でじっくり読むには時間が足りなさそう)。とてもクレバーな方で、ただただ目の前にある作品が美しく面白いだけではなく、世の中に対する意見や批評をしっかりと作品に落とし込んでいるところがすごいなと思いました。
政治的な話題も作品づくりの葛藤も包み隠さずに表現しておられて、東京五輪の際のパラ・ポスターを描いた際の顛末記《当世壁の落書き 五輪パラ輪》は会場でも食い入るように読んでいる人が多かったです。私も会場で読み、図録でも再び読み、山口さんの葛藤とユーモアに「ほぉー」となりました。
かなり大きな展覧会図録
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伝わるでしょうか……
ショップで図録を見た時に驚いたのが、このサイズ!製本はされておらず、バラバラの二つ折りの紙が挟み込まれている形式です。訪れた日は、その後予定があったので購入すべきか一瞬迷ったのですが、とても印象的な展覧会で、会場では読み切れなかった解説などもあったので結局購入しました。
家に帰ってから、またじっくりと図録を見返す時間。
そして、こうして記事を書きながら振り返る時間も含めて、美術館めぐりを堪能できた ジャム・セッション 石橋財団コレクション × 山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』展 でした。
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