嘘は悪いことなのか
「嘘をつくことに慣れた方がいい、もうそろそろ、そういう年齢になっている」
信頼できる人から、そうアドバイスを受けた。
もちろん、そんなことを言われるのは初めてだ。
私は元来、変に正直でいたいところがある。
例えば、私が無自覚に臭かったとしましょう。
すると対面した相手は臭い、と感じる。
その場合、大抵の人は優しさでもって、そのことを私に伝えないでしょう。
ところが私はそのことに傷つくのだ。
自分が臭いと指摘されることよりも、相手に臭いと言わせずに我慢させてしまったことの方が辛い。
気を遣わせてしまったという罪悪感の方が勝ってしまう。
みんな、自分がされて嫌なことはしない、嬉しいことを人に返しましょう、と言われて育ったよね?
私は子供の頃そんな感じで直球で人と関わっていたから、
まあ、当然うまくいかなかったし、周囲にもあんまり共感もできなかった。
大人になって、こう振る舞えば無難に関係を築ける、というスキルは会得した。でも心から納得はしていなかった。
そして近年。
あるとき職場で、人に迷惑をかけることが重なった。
しかし、直属の上司は優しかった。
明らかな嘘と分かる慰め、励まし。
つゆほども気にしない、といった、いつもと変わらぬ態度。
私は上記の通り、気を遣わせてしまっている、と傷ついた。
…しかし同時に、すくわれた思いがした。
人に気を遣われてしまっている、嫌なのに、わかりやすい嘘までついて、私を元気づけようとしてくれている。
落ち込む私が面倒くさいだけだったかもしれない。
でも現に私はその人の配慮で、心が軽くなったのだ。
それでようやく気づいた。
嘘にまみれた世界は優しい。
みんな優しい嘘をついていた。
自分が優しくしたいから。
みんな馬鹿正直な指摘はしないんだよ、
指摘した自分が嫌な気持ちになるから。
相手が、相手が。
相手にこう思われるから…
そう考える自分とは裏腹に、他人はみんな、
主体性を持って人に優しくしている。親切にしている。自分がそうしたいから。優しくできることが、嬉しいから。
臭い、と人に言うのは辛いよね。
自分が辛いと相手も辛いよね。
優しさってのは、無理に与えるものではない。
自分にも相手にも嬉しいこと、そういうことだ。
「嘘をつくことに慣れた方がいい」
私が言われた言葉は、
「嫌なことは嘘をついてでも断りなさい」
そういう意味だったんだけど、
正直さについて色々と考えまった。
また未熟すぎる自分に気づいてしまい、恥ずかしい。
でも気づくことから、一歩ずつね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?