えいやっと物事を決める

 会社で働くようになってから、はじめて覚える知識や観念ばかり、と改めて思う。例えば、私の仕事のほとんどが大学で学んだ内容と異なり、求められる答えが一般法則ではなく個別事例である。とくに後者は、大学と会社の目的がそれぞれ、未知の現象を解明することと、既知の知見を応用することである。ゆえに両者は根本的に異なるから、働き始めて戸惑うことは当然なのかもしれない。そうした狭間で過ごしているうちに、「えいやっ」という観念が分かるようになってきた。

 「えいやっ」とは、何らかの意思決定をする際に合理的な疑いを差し挟む余地があるにもかかわらず、えいやっと決断するものである。例えば、ヒストグラムの階級幅や、反復法で計算する際の上限回数をどうするかなどがある。これらを厳密に決定する方法は一応あるものの、計算が煩雑でほんとうに妥当なのか分からなくなる。それならば、結果が大きく変わらないという前提で、えいやっと分かりやすい数字を与えたほうがマシだと感じる。

 知識労働にしろ、現場作業にしろ、理詰めに考えることで各作業で最適な判断を下せる余地は大いにある。また、絶え間なくある工程における問題を見つけて改善することは、効率的な仕事につながる。しかし、仕事の全てを理詰めで考えてから行うのはあまり戦略的でないと思う。投じた労力の割に、対価があまりにも小さすぎる場合もあるからだ。

 もちろん仕事の全部をえいやっと済ましてしまうのは、それを仕事とは言い難く、ただの思いつきに近い。適当に決断して良いものは、その判断が大した影響を与えることがなく、仮に誤っていたとしても後からのリカバリーができそうなものに限られる。このような、えいやっと決断して良い作業と、じっくり丁寧に行うべき作業を見極めができるようになりたい。

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