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ジョブ型人事制度を深く理解する7つの質問:人事の専門性を高めるための探求

「ジョブ型人事制度」 – 人事パーソンであれば、誰もが耳にする言葉でしょう。しかし、その本質を理解し、導入の意義や設計、運用について自分の言葉で語れる人はどれほどいるでしょうか?

私は約5年間メンバーシップ型の企業と言われる人事制度の企業に勤めた後、縁あって現在の会社に転職することとなりました。

そこで、ジョブ型人事制度というこれまでとは異なる手法による人材マネジメント出会い、徐々に社内の雰囲気・そして自分自身の意識が変わってきていることに気づきました。

「無意識レベルで私たちの考え方や行動を導いているこの制度への理解をもっと深めたい」と感じ、今回は分かっていそうで分からないジョブ型人事制度について、改めて基礎から学び直しました。

今回の学び直しのゴールは、以下の7つの質問に対して、自分の言葉で語れるようになることです。

ジョブ型人事制度への理解を深める 7つの質問


1. ジョブ型人事制度とは従来日本で一般的であった人事制度と何が違うのでしょうか?
2. ジョブ型人事制度の導入をする企業の狙いはなんでしょうか?
3. ジョブ型人事制度を導入するためにはまずジョブの定義(ジョブディスクリプション)の作成が必用です。ジョブディスクリプションにはどのような内容を整理するべきですか?
4. ジョブ型人事制度を効果的に運用するために、評価・報酬制度とどのように連動させるべきでしょうか?
5. ジョブ型人事制度の導入により、社員のキャリア形成はどう変わりますか?
6. ジョブ型人事制度を導入するための社内変革をどう進めますか?
7. あなたが企業の経営者だとして、今自分がいる会社にはジョブ型人事制度が適していますか?また、それはなぜですか?


前職での経験:メンバーシップ型人事制度


ジョブ型人事制度について考える前に、私が前職で経験したメンバーシップ型雇用人事制度について、自分自身の体験を基に振り返ってみたいと思います。(≒職能型人事制度)

一般的にメンバーシップ型制度では、従業員の能力伸長を前提とし、年功的に賃金が上昇する長期雇用を前提とした仕組みを取っています。その特徴として、担当する職務が変わらなかったとしても定期的な昇給・数年毎の昇格が実施され、長く勤務すればするだけ処遇も上がっていくため、入社から退職まで長期的に一社に勤め上げるインセンティブがあります。また、配置・異動についても会社側が命じるアサインメントによるものが大半であり、キャリアの主導権は従業員ではなく会社にあると言えます。

会社目線でこの人材マネジメント手法のメリットは、

- 長く勤めてもらい、その会社で必要なスキルや経験を積み上げさせることができる
- 柔軟な従業員配置や異動が可能

従業員目線でのメリットとしては、

- 年齢が上がるにつれて徐々に給与が上がっていく
- 長期的な雇用を前提としており、雇用を会社が保証してくれている

といったことがあげられます。

デメリットとして、

- 従業員の年齢構成が高くなると人件費が高止まりする
- 社員等級は時間をかけて徐々に上がっていくため、上位ポジションへの若手の抜擢が難しい

といった課題も存在します。

当時部門人事として現場を駆け回っていた私は、この人事制度の運用において、まさにデメリットで挙げたような難しさを実感していました。

例えば、管理職ポジションの空きが出た際に、

- 社員等級が要件を満たしている入社10年目のAさん
- 社員等級は満たしていないものの、非常に優秀で管理職にチャレンジさせたい入社7年目のBさん

という2人の候補者がいたとします。

職場からは「Bさんを管理職に任命したい」という声が上がりましたが、当時の制度では認められず、職場の思いに応えられないもどかしさを感じた経験があります。

一方で、この経験を通じて人事制度を深く理解した上で職場の組織設計をサポートする人事の介在価値を実感しました。

例えば、「5年後にBさんが管理職ポジションを担うためには、3年後にこの社員等級に上がっている必要があるため、優先的に昇格対象として推薦しましょう」といったシミュレーション・提案を行いました。

しかし、同時に「ポテンシャルのあるBさんを、社員等級が満たしていないという理由で却下するのは、本当に正しいのか?」という疑問も持ち続けました。

転職を機に、ジョブ型人事制度に出会う

メンバーシップ型の企業での勤務経験を経て、私はジョブ型人事制度を採用している会社に転職しました。

ジョブ型導入初期の会社だったため、制度導入が会社や従業員にどのような変化をもたらすのか、目の当たりにする貴重な経験となりました。

ジョブ型人事制度のメリットとしては、

- 年功制の打破
- グローバル化への対応
- 高度なスキルを持つ専門人材の活用

が挙げられ、これらが今さまざまな企業がジョブ型人事制度を導入しようと動いている背景になります。

デメリットとしては、

- 柔軟な人員配置や異動が難しくなる
- 自身の専門性以外の経験を積みにくくなる

といった点が指摘されています。

実際に、転職先の会社では「先輩の言うことは絶対」で過ごしてきた学生時代の部活経験、前職での経験で植え付けられてきて年功意識の変化を感じています。

優秀な若手が従来より早く上位ポジションに就いたり、管理職に昇格するケースが増え、上司部下の年齢が逆転することも珍しくなくなりました。

私自身も、専門性を高めることへの意識が格段に上がったと感じています。ジョブ型人事制度の導入とともに、キャリア自律がこれまで以上に求められるようになりました。

会社主導のアサインメントに身を任せていれば良かった時代ではなくなり、「自分はどんな仕事で成果を出して生きたいのか?」という問いが、常に意識されるようになったのです。逆に、「なんでもやっていいよ?」と言われてそこに自分の答えがなければ、自分の責任だと思うことができるようになりました。

ジョブの定義から全てが始まる

ジョブ型人事制度を成功させるために、まずやるべき事は、経営戦略事業戦略の実行に必要な組織とジョブを定義することになります。組織を設計するためには、まず各事業においてどういったスキルを持った人がどれくらい必要なのかと言うことを定義します。

この組織設計において非常に重要な役割を果たすのがジョブディスクリプションです。ジョブとは、職種とキャリアレベル(等級、レベル)の掛け合わせで定義することができます。例えば、〇〇業界に担当する営業部長はどのような成果責任を持っているのか?また、そのポジションを担うためには、どんなスキルどんな経験が必要なのかといったことを整理していきます。

ここで非常に重要なのが、ジョブと人を分けて考えるということです。初めてジョブディスクリプションを作成し、そのポジションを格付けする際に、どうしても現職の人を意識して決定してしまうということが見られます。ここを分けて考えられるかどうかが、ジョブ型雇用を正しく理解できているかどうかのポイントになります。

また、運用名を考えたときに、あまりに成果責任について細かく具体的に整理しすぎるのは現実的ではありません。ビジネスの環境は常に移り変わるもので、具体的に達成するべき指標などは毎期毎年変わっていきます。そのため、ジョブディスクリプションの中では、その職務において達成すべき役割や責任について整理することが重要です。

例えば、私は、人事業務の効率化や高度化を推進する部署で働いていますが、JDに記載されているのは、人事部門のオペレーションに関する効率化、高度化、高品質化を目指すといった抽象的なレベルの内容です。

具体的な業務内容は、毎期の目標設定の中で上司とのコミュニケーションを通してすり合わせていきます。

JDで達成すべきことを抽象化し、目標設定で具体的に落とし込む。この流れが、ジョブ型人事制度の運用の成否を左右すると言えるでしょう。

※ジョブ型雇用導入におけるよくある誤解:明確な職務記述書はチームワークを阻害するのか?

ジョブ型雇用を導入する際に、よく耳にする懸念があります。それは、職務記述書(JD)を明確にすることで、従業員は自分の担当業務以外を一切やらなくなってしまうのではないか?というものです。

「メンバーとメンバーの間に落ち込むグレーな仕事」や「チームワークを必要とする仕事」は、誰かが率先して引き受けなければ、放置されてしまうのではないかと心配される方もいるかもしれません。

しかし、私はこの考え方は、ジョブ型雇用の本質を正しく理解していない証拠だと考えています。

職務記述書は、細かい作業内容を羅列するものではありません。

大切なのは、その職務において達成すべき役割を示すことです。

例えば、細かい作業内容を詳細に記述してしまうと、その内容が変化した際に、修正作業が大変になります。

しかし、ジョブとは個々の作業レベルの話ではなく、そのポジションにおける成果責任を指すものです。

実際に、私のいる会社の例を挙げます。私のポジションは人事業務の効率化のためのソリューションを検討する部署です。

私の職務記述書には、「人事部門のオペレーションに関する効率化、高度化、高品質化を目指す」といった抽象的なレベルの内容が記載されています。

具体的な業務内容については、職務記述書ではなく、毎期の目標設定の中で上司とのコミュニケーションを通してすり合わせていきます。

つまり、職務記述書で達成すべきことを抽象化し、目標設定で具体的に落とし込むという流れが、ジョブ型雇用の運用における成功の鍵を握っていると言えるでしょう。

ジョブ型人事制度における報酬制度

ジョブディスクリプションを作成しただけでは、ジョブ型雇用とは言えません。このジョブ起点として、様々な人事制度と有機的に連携させていくことが、最大限ジョブ型雇用制度の効果を発揮することにつながります。その最も重要な要素の1つであるのが、報酬制度になります。

メンバーシップ型制度における報酬は基本的に公平性をより中止したものになっています。なぜなら、職種をまたいだ柔軟な移動が可能な職場において、ジョブごとに報酬が異なっている場合には、従業員の中に不公平感が生まれて本来のメリットでもある柔軟な従業員の移動や配置を実現できなくなるからである。

一方で、ジョブ型雇用における報酬制度は、社外競争力をより意識したものになっています。
ジョブ型雇用における報酬制度は、2つ特徴があり、1つは人ではなく、ジョブによって報酬が決定されること。

優秀な若手にとっては、非常にモチベーションの上がる状況であり、若くしても高い職責を担っていれば、それに応じた報酬を獲得できることになります。一方で、年齢が上がったとしても、担当する職務が変わらなければ、報酬も変わらないことになります。

もう一つが、職種や専門性において、報酬の水準が異なることです。
私の感覚としてはそこまでドラスティックに差をつけている会社と言うのはまだ多くないと言う気がしていて、基本給的な部分では差をつけずに、高度専門人材といった手当てやセールスのインセンティブといった形で還元しているケースが多いのではないかと言うふうに思いますが、本来の趣旨としては、外部市場と無関係の中で報酬が決定していくイメージになります。

ジョブ型人事制度における人材配置

ジョブ型人事制度の導入に当たって同時に考えるべき人事施策が、社内公募制度です。

なぜ、ジョブ型人事制度の導入に当たって社内公募制度を検討する必要があるのでしょうか?それは、

社内公募制度が社内に浸透するかどうかが、ジョブ型人事制度の成功を大きく左右するからです。

社内公募制度が一般的になればなるほど、従業員は自分自身のキャリアを自分で主導権を持った上で考え始めます。そして、応募を検討する時点では自然と求人=ジョブを意識することになるからです。そして、ジョブを意識することで、社員の自律的なキャリア開発や能力開発を促進していくことができ、会社としての成長につながります。

※社内公募の難しさ

社内公募、聞こえはいいですが実はなかなか運用が難しいと感じている人も多いと思います。“公募に内定したけど今の上司が異動を認めてくれません“ “重要な業務を担当しているのに異動させることはできない“ と、現職場から悲鳴の声が上がることが多いと思います。

実際の運用にあたり、職場や従業員の納得度を高めるコツとしては、選考時点での情報の秘匿化と実際の異動日程の決定です。もちろん自分の意思で現在の上司に相談した上で、次のキャリアに挑戦するもし、そうでなかったとしても、転職活動をしているときと同じように合格するまでの間は、応募者のプライバシーを守ることが必要です。もう1点、合格後に次の職場に移るまでの日程については一定期間設けることをしっかりとルール化すること。(3ヶ月程度を目安として設定)現所属、新所属、それぞれの所属長が納得することが重要で、他のメンバーに十分引き継ぎを完了させれる期間を設けることが肝要です。

ただ、現所属の人が異動を認めないと言うのは原則認めないと言った細かいルール設計は必要になると思います。職場同士の交渉がそこで発生してしまうと、職場間で変なわだかまりが発生しかねません。

サクセッションプランニングがこれまで以上に重要に

メンバーシップ型の人材マネジメントモデルにおいては、従業員の柔軟な異動が可能であり、かつ人材の流動性も低かったため後継者は自然と年功的にある程度作りこみが可能でした。

しかし、ジョブ型人材マネジメントの世界では、比較的自分のジョブ(専門性)を磨くキャリアを歩むことが一般的であり、スペシャリスト人材が多く生み出されます。

ただ、上位レベルのポジションを担う人材は自分の専門領域だけではなく、幅広い視野を持って経営に関与していく必要があるため、意識的にリーダー人材には幅広い経験を積ませることが必要となります。

また、それに加えて人材流動性も高まっていくことを踏まえると、重要ポジションの後継者は1人ではなく複数人作り込んでおく(または外部市場とのコネクションを作っておく)ことが重要になります。

私が在籍する会社の役員の方に話を聞いたところ、こんな話がありました。そのかたは、前職では外資系企業の社長を担っていた方ですが、当時社長就任した初日にやった仕事が「自分の後継者計画」だったそうです。

自分の後継者となりうる人材の候補を人事とともに話し合い、その人物の強みや弱みを踏まえた上で、どんな経験が必要かどうか?などを、まさか社長就任初日にやることになるとは思わなかったとおっしゃっていました。

ジョブ型人事制度に移行するための課題

最後に、ジョブ型人事制度に移行するための課題について触れたいと思います。

一つ目の課題は、日本の労働慣行との相性です。ジョブ型雇用に関する書籍を何冊化読んだかたは感じた部分もあるとおもいますが、ジョブ型雇用制度では一社による長期雇用を保証せず、活躍できない人材には退場も含めた選択肢があると整理されています。

ただ、日本の労働慣行のもとではやはりまだそこまでドライに社会全体の変遷が追い付いておらず、労働組合との関係も考慮しつつ慎重に進めていく必要があります。

また、従来の制度を変えると言うことは、既得権益を持っている人たちからの反発を受けることも多いです。これは、ジョブ型に限ったことではないですが、私が考えているベストなタイミングは昇給原資をある程度確保でき、そもそもの給与水準を引き上げることができる時に合わせてジョブ型の導入も進めると言うことです。

もちろん、本来の導入意図などをしっかり理解させることは必要ですが、マスへのアプローチという観点では、「なんか全体的に色々変わっていくけど、“自分自身“にはあまり不利益がない。」と感じる人が7割くらいいないと、抵抗勢力の強さに変革が頓挫してしまう可能性があると思います。

何事も変化を起こすことは非常にエネルギーがいることですが、実際に導入後変化を好意的に受け止めている実例がたくさんありますので、他社事例も参考にしつつ、進めるのが良いです。

参考書籍:

・ジョブ型雇用はやわかり マーサージャパン 
 ↑こちらの方が個人的には実務感覚に近くておすすめ

・ジョブ型人事制度の教科書 柴田彰 加藤守和

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!

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