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【代理人研究】三角移籍の謎。悪徳代理人の人助け(後編)

「三角移籍」で中間のクラブが移籍金を中抜きしたら、売り手クラブと買い手クラブ、双方に損が生じるでしょう。

たとえば1997年のゼロベルトの「三角移籍」では、538万ドル(約6億円)が中抜きされたと報じられました。

 三角移籍:①ポルトゥゲーザ→②セントラル・エスパニョール→③レアル・マドリー

①ポルトゥゲーザ→②セントラルの移籍金:460万ドル

②セントラル→③レアル・マドリーの移籍金:998万ドル

差額:998万 – 460万 = 538万ドル

セントラルはファン・フィゲル代理人が支配していると言われるウルグアイのクラブ。フィゲルは同クラブとレンティスタスの2クラブを通じて多くの「三角移籍」を手がけてきた。詳しくは前編を参照。

もし報道が正しければ、ポルトゥゲーザは得られる移籍金が少なくなり、レアルはより高い移籍金を払わせられた。

なぜ彼らは怒らないのか?

結論から書きましょう。

事実はまったく逆でした。フィゲルのおかげで、両クラブとも得していたのです!!!

2017年に出版された「Football's Secret Trade」(Alex Duff、Tariq Panja著)に、その経緯が書かれています。

まずレアル・マドリーがゼロベルトの獲得を問い合わせたところ、ポルトゥゲーザは600万ドルの移籍金を請求しました。

当時レアルは損失がかさんでおり、とてもこの額を払う余裕はありませんでした。

そこで「三角移籍」の出番です。

フィゲルの差配により、セントラルが移籍金の75%を、レアルが25%を負担することになりました。

セントラル:600万ドル×75%=450万ドル

レアル:600万ドル×25%=150万ドル

この“割り勘”によって、ポルトゥゲーザは希望額の600万ドルを手にした。一方、レアルは移籍金を150万ドルですませられた。さらに選手視点で言えば、ゼロベルトは初のヨーロッパ移籍を叶えられた。

つまりフィゲルのおかげで、両クラブ、選手、誰もが得をしたのです!

(レアルが払ったとされる「移籍金998万ドル」はメディアの誤報でした。レアルが払ったのは150万ドルだけ)

ちなみにセントラルが用意した450万ドルは、フィゲルが投資家を募って集めたとのこと。

移籍金が壁になって移籍が実現しない例はよくありますが、代理人の知恵がそれを崩したというわけです。

誤解してました。この場合、「三角貿易」は“搾取”ではなく、投資を用いた“人助け”だったのです。

もちろん代理人はボランティアではありません。フィゲル自身ものちに利益を確定させています。

鍵は「保有権」です。

移籍金の支払額に応じ、セントラルがゼロベルトの保有権の75%を、レアルが25%を持ちました。

1998年夏、ゼロベルトは1400万ドルでレバークーゼンへ移籍。保有権の割合に応じて、セントラルが1050万ドル、レアルが350万ドルを手にしたと推測できます。

利益(移籍金の支払額と受取額の差)を計算すると、 

セントラル450万ドル→1050万ドル:600万ドルの儲け

レアル150万ドル→350万ドル:200万ドルの儲け

セントラルとしては約5億円の投資が約12億円に! わずか1年半で7億円の利益です。

フィゲルは「悪徳代理人」のレッテルを貼られながら、なぜ干されずにビジネスを続けられるのか。両クラブ、選手、そして代理人の4者全員が儲けるシステムをつくっているからなのでしょう。

とはいえ、前述の「Football's Secret Trade」によると、2001年にフィゲルが代理人契約していた37人のうち、半分が現役中にセントラルとレンティスタスのどちらかを1度は経由したとのこと。

すべてが「代理人の投資による移籍の手助け」ではないかもしれません。

フィゲルのグループはいまだにJリーグとの関わり合いが強い。もし彼らがブラジル側の利益を優先したら——。

メディアもファンも、やはり代理人のビジネスを注意深く監視しなければならないでしょう。

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