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スタンフォード大学アメフト部に学ぶ「東京五輪開催の条件」

東京五輪開催の雲行きがさらに怪しくなってきた。 

日本時間1月22日、イギリス紙・タイムズの電子版が「日本政府は非公式に東京五輪を中止せざるを得ないと結論付け、2032年の開催を目指している」と報じた。

国民の支持も得られておらず、Yahoo!ニュースのアンケート「みんなの意見」では約85%の人が「中止になると思う」に票を投じている。

開催そのものが危うくなっており、仮に開催できたとしてももはや通常の形での開催は難しいだろう。

それでも日本政府が五輪に向けて走るのであれば、日本国民および世界に対して“プランB”を示す必要がある。

そんな現状を憂いて行動を起こしたのが、スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチの河田剛だ。

河田は2007年から同部に在籍しており、これまで日本政府関係者のアメリカスポーツ視察のアテンドを通して、政治家や官僚と交流してきた。東京五輪の関係者にも太いパイプがある。

河田は彼らにこんなメールを送った。

「アメリカの新型コロナ蔓延は日本よりひどい状況ですが、プロだけでなく大学スポーツのリーグも開催しています。参考になるかもしれないので、スタンドフォード大学アメフト部で得た知見を資料にして、みなさんに共有したいと思います」

どんな資料を大会関係者に送ったのか? 今回のnoteではその要点を紹介しよう。

 <条件1:高頻度の検査> 

スタンフォード大学アメフト部では、人の接触を伴う競技ということだけでなく、大きな放映権料が動く超人気リーグに所属していることもあり、毎日何かしらの検査を行っている。 

「スタンフォード大学のアメフト部では、選手110人、スタッフ26人に対して週に3、4回のPCR検査、毎日の抗原検査を義務付けています。さらに試合日は競技開始の4時間前に抗原検査を受けなければなりません。

コンタクトスポーツでなければ毎日は必要ないでしょうが、選手やコーチ、トレーナー、関係者などに対して、PCR検査と抗原検査を組み合わせて頻繁に検査をすることが、国民の安心につながると思います」

<条件2:アプリで選手の行動を管理> 

スタンフォード大学では「ゾーニング」(区域分け)も徹底されている。 誰がどこに入っていいか、どこから出て行けないかを明確に定めるのだ。選手を一定のエリアから出さないようにするため「バブル」(泡の中に閉じ込める)とも言われる。

ここでアメリカらしいのが「アプリ」の活用だ。

「行動制限を課しても守られるかわからないですよね? そこでスタンフォード大学では、管理のための専用アプリが導入されているんです」

選手とスタッフは毎日およそ10の質問に答えなければならず、回答すると大学への立ち入りを許可するスタンプが携帯電話に送られてくる。もし取得せずに大学に入ると、携帯にアラートが飛んでくる。

試合会場では4時間前の抗原検査で陰性になると、携帯にQRコードが表示され、それを会場入口の読み取り機に通さなければならない。

選手の移動制限・行動制限を徹底するには、東京五輪でも似たようなアプリが不可欠になるだろう。 幸い東京五輪組織員会はアプリを準備中のようだ。

<条件3:セルフ検査で医療負担を減らす> 

スタンフォード大学の事例で、最も参考になりそうなのがコロナ検査のやり方だ。

日本では医療従事者が行うのが一般的だが、スタンフォード大学では自分で行うスタイルが定着している。

「検査場に行くと検査官がいて、その人から指示を受けながら、自分で綿棒を鼻に入れて粘液を採取するんです。綿棒の入れ方が甘いと『もっと深く入れて』と言われたりしながら。採取したら自分で試験管に入れ、バイオハザードと書かれた袋に入れ、クーラーボックスに入れる。検査官は数メートル離れた場所から指示するので、感染リスクはほぼありません」

セルフ式の最大の利点は、医療リソースへの負担を抑えられることだ。

「日本では『五輪を開催したら医療従事者を取られる』と心配されていますよね。アメリカのようにセルフ式を導入できれば、この問題を緩和できるかもしれません」

厚生労働省の管轄であるため、セルフ式の実施には障害が多そうだが、縦割り意識にとらわれている場合ではない。

<条件4:選手村を一人部屋に>

河田の資料を見ると、ハードルが高い課題も浮かび上がってきた。

河田が問題視したのは、選手村の「相部屋」だ。

「スタンフォード大学のアメフト部の遠征時、通常は相部屋ですが、現在は感染予防のために必ず1人部屋にしました。アメリカの感覚からすると、東京五輪の選手村も1人部屋がマスト。でも東京五輪の選手村は、相部屋を前提に建設されてますよね。1人部屋にするには部屋数が足りない」

新たに選手村の外のホテルを手配する手もあるが、そうするとゾーニングが難しい。現時点で選手村は相部屋が濃厚だ。

「アメリカの選手は『1人部屋でなければ日本へ行かない』と言うかもしれない。各国政府が要求する可能性もある。日本としてはすごく悩ましい問題です」

有事では朝令暮改が良さになる

河田はあくまで個人的な意見として、開催するなら無観客にすべきだと考えている。

「無観客にすれば観客間の感染リスクをなくせるし、ボランティアスタッフの感染リスクを減らせる。そうすれば選手と関係者へのコロナ検査とゾーニングにより集中できます。誰にとっても初めての経験で、誰にも答えなんてわからない。思い切った決断が必要だと思います」

河田は昨年11月、アメフトの大学リーグ「パシフィック12カンファレンス」でこんな経験をした。

「リーグ開幕戦前にクォーターバックを含めた主力3人が陽性になり、私たちは試合で負けてしまいました。でも翌週の試合前日、リーグから『ごめんなさい、検査のやり方が間違っていた。次の試合に出ていい』と連絡があったんです。

みんな激怒するかと思ったら、『3人出られる。すぐに準備するぞ』と次の試合に向けて切り替えていた。文句も非難もなし。それどころか、うちのドクターは『このミスからあなたたちが何を改善できるか一緒に探ろう』と提案していた。

朝令暮改は平時だと悪い意味ですが、有事では良さになりうる。最初に言ったことと違うじゃないかと非難されるのを恐れず、どんどん変化して行っていいと思います」

どんな決定が下されたとしても、逃げの決断ではなく、攻めの決断になることを願いたい。

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