幽刃の軌跡 #3 Yuujinnokiseki
第三話: 「運命の呼び声」
真夜中 朱留(まよなか あける)は、仕事の疲れに押しつぶされるようにして眠りに落ちていた。だが、その眠りは長くは続かなかった。彼の意識は突然、暗闇の中に引きずり込まれ、次の瞬間、見知らぬ場所に立っている自分に気づいた。
目の前に広がるのは、朱留が以前訪れた異世界「八洲の地(やすのち)」だった。薄暗い空の下、風に揺れる草木の音が静かに響く。朱留は周囲を見回しながら、心の中で呟いた。
「またここか…」
その時、彼の背後から、かすかな足音が聞こえた。振り向くと、そこには黒髪ショートの少女が立っていた。彼女の瞳は鋭く、しかしどこか優雅さを兼ね備えている。その姿は、まるで過去から蘇ったかのような古風な衣装に包まれていた。
「あなたが朱留ですね。」
少女の声は静かだが、どこか威厳を感じさせるものだった。朱留は少し戸惑いながらも、彼女の目を見つめた。
「そうだが…君は誰だ?」
「私は霊域 明菜(れいいき あきな)。平安の王女であり、この地であなたにお願いがあって参りました。」
明菜はそう言うと、一歩朱留に近づき、真剣な表情で続けた。
「朱留、あなたの持つ霊域「天幽の刃(てんゆうのやいば)」の力が、今この八洲の地に必要なのです。」
朱留はその言葉に驚きを隠せなかった。自分が持っている力、天幽の刃が本当に彼女の言うような大きな力を持っているのか、まだ信じられなかった。
「でも、俺はただのサラリーマンだ。この力も、現実かどうかもわからない…」
朱留は困惑しながら答えたが、明菜は首を横に振った。
「いいえ、朱留。あなたの運命はもう変わりました。現実と八洲の地の間を行き来することができるあなたは、この世界を救うために選ばれたのです。」
彼女の言葉には揺るぎない確信があり、朱留の心を揺さぶった。明菜はさらに続けた。
「この地では、西国と東国の統一戦争が続いています。西国は九国、四国、平安、大和の四つの国が互いに争い、統一国家を目指しています。かつて平安は西国を統一していましたが、今では大和の勢力が増し、私たちは都落ちの危機に瀕しています。多くの貴族は四国に逃げ込み、私たちの国力は日々衰えつつあります。」
朱留は真剣な表情で明菜の話を聞いていた。彼女の言葉から、この戦争がどれほど深刻であり、彼女がどれほど切羽詰まっているのかが伝わってきた。
「あなたの天幽の刃の力があれば、私たち平安は再び立ち上がり、この地を救うことができるでしょう。どうか、私たちに力を貸してください。」
明菜は深々と頭を下げ、朱留に願いを込めて頼んだ。朱留はしばらく黙っていたが、彼女の必死な姿勢を見て、心の中に何かが動き始めた。
「俺に…できることがあるなら、やってみる価値はあるかもしれない。」
彼は自分の中で覚悟を決め、明菜に向かって頷いた。
「わかった。俺が力を貸そう。」
明菜はその言葉に安堵の表情を浮かべ、感謝の意を込めて微笑んだ。
「ありがとうございます、朱留。あなたの力があれば、きっと平安を救うことができるはずです。」
こうして、朱留は現実と八洲の地の間を行き来する運命を受け入れ、平安を救うための戦いに身を投じることを決意した。しかし、彼の前にはまだ多くの試練が待ち受けていることを、彼はまだ知らなかった。