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幽刃の軌跡 #28

第28話 「平場国時代」

物語は20数年前に遡る――。


ここは、八洲の地にかつて存在した平場国(へいじょうこく)。今では平安国と呼ばれるこの地も、かつては平 政丸(たいらの まさまる)が王として君臨し、平 真男(たいらの まお)が左大臣兼軍の総大将として1万の兵を率いていた。


平場国軍は8つの部隊に分かれ、1番隊から8番隊まで、精鋭たちがそれぞれの役割を果たしていた。総勢1万の兵力は、八洲の地でも屈指の強さを誇っていたが、時代の波と内外の敵による圧力が次第にその力を削っていた。


その中でも、国王の息子である平 真男が率いる少数精鋭の特殊部隊が存在していた。影天部隊(えんてんぶたい)である。影天部隊は、平場国の極秘任務を請け負い、他国へのスパイ活動や国内の内部調査を主な任務とする、非常に高い機密性を持った部隊だった。そのメンバーは、平場国の中でも一握りの選ばれた戦士たちで構成され、軍隊の隊長クラスでさえも、その存在を完全には把握していなかった。


この影天部隊に所属していたのが、後に運命を共にすることとなる二人の若き戦士·平 琴太(たいらの ことた)と源 尊(みなもと たける)である。共に当時20歳の彼らは、若くして影天部隊に抜擢された実力者だった。


平 琴太は、四国の地から平場国に召し上げられたエースであり、その鋭い剣技と冷徹な判断力で数々の任務を成功に導いていた。彼の霊域は「金刀比羅の刃」。黄金に輝く烏天狗を模した力を解放することで、卓越した戦闘力を発揮した。


一方、源 尊は、平家の武門の家系に生まれ育った若き天才であり、その霊域は伝説的な存在であるスサノウノミコトを模したもので、草薙の剣を操る力を持っていた。その力の名は「草薙天雷(くさなぎてんらい)」。尊は、その強力な霊域を駆使し、影天部隊で数々の任務を果たしてきた。


――八洲の平場国都、王宮の中では、藤原 真彦(ふじわらの まさひこ)が王の間に向かって足を進めていた。彼は当時28歳で、平場国の右大臣として重要な役割を担っていた。


王の間に入り、真彦は国王、平 政丸に恭しく頭を下げた。


「国王様……ご報告がございます……」


平場国王、平 政丸は静かに真彦に目を向け、言葉を返す。


「どうした、真彦。何か問題でも起こったか?」


真彦は一瞬、言葉を飲み込んだが、深く息をついて口を開く。


「……静華が身籠っている子ですが……本日、産術師に視てもらいました……」


国王は一瞬表情を変えずに真彦を見つめ、続けて問う。


「おお……で、どうじゃった……」


「それが……女の子ではないかと……」


国王の顔に微かな笑みが浮かび、ゆっくりと頷く。


「そうか……まあよかろう。霊域家系に男が生まれなくなってもう半世紀が経とうとしておる。致し方ない」


国王の言葉には、半ば諦めと半ば期待が混じっていた。霊域家の家系に男児が生まれなくなってから久しい。霊域を継承する者が減少している現実は、平場国にとって避けられぬ課題であった。


――同時期、軍では平 真男がその戦略を巡らせていた。彼は国王の左大臣であり、軍総大将として1万の兵を統率していたが、その中でも特に目をかけていたのが、影天部隊の二人、平琴太と源尊であった。


彼らは戦友でありながら、互いに強い競争心を抱いていた。琴太の鋭い戦闘センスに対し、尊の霊域の圧倒的な力。二人はその若さと実力を武器に、影天部隊内で頭角を現していた。


――しかし、平場国の勢力は徐々に弱まり、外敵の圧力や内紛の影響で、国の基盤は揺らいでいく。藤原家が台頭し、平家との権力争いが激化する中、影天部隊の活躍が平場国の命運を左右する局面に差し掛かっていた。


琴太と尊、そして真彦――彼らの運命は、やがて平場国の崩壊と共に大きく動き出すことになる。

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