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幽刃の軌跡 #58

第58話:「動乱の予兆」

翌朝――

平安国宮殿の大会議室には、平安国軍の軍隊長たちが各地から招集されていた。


会議室の正面では、玉座に座る平安王・藤原真彦、その右隣に参謀総長・熊谷景虎、左隣には新たに篠原景秋の後任として任命された藤原明清が控えている。彼らを囲むように配置された左右の座席には、軍隊長たちが向かい合う形で座っていた。


右側最前には、平安国将軍であり第一軍軍隊長の源尊。その向かいには、第二軍軍隊長の飯伏綾人。続いて第三軍軍隊長・宇都宮影治、第四軍軍隊長・那須弘明、第五軍軍隊長・赤司史郎(あかし しろう)、第六軍軍隊長・猪戸欄(ししど らん)、第七軍軍隊長・兵庫源八(ひょうご げんぱち)、そして第八軍軍隊長・菊政宗(きく まさむね)といった名だたる指揮官たちが揃っている。


厳かな沈黙の中、熊谷参謀総長が口を開いた。


「これより、第121回軍隊長会議を始める。まずは、平安王からのお言葉だ。」


熊谷の号令を受け、藤原真彦がゆっくりと立ち上がる。


「皆の働きのおかげで、町もようやく瀬戸内の乱以前の状態を取り戻しつつある。そして何より、四国との同盟締結により、我らの国土は広がり、九国および大和国の動きも監視しやすくなった。これも諸君らの努力の賜物である。」


王の言葉に、軍隊長たちは一斉に頭を垂れる。しかし、真彦は表情を緩めることなく言葉を続けた。


「だが、その一方で――よからぬ噂がある。これが事実であれば、我らは再び大きな戦火に巻き込まれるかもしれぬ。それゆえ、忙しい中を承知で君たちを招集したのだ。」


真彦が玉座へ戻ると、藤原明清が立ち上がり、話を引き継いだ。


「国王のお言葉にもあった通り、先日、私は四国参謀総長の篠原景秋殿と会談した。そこで驚くべき情報が得られたのだ。」


明清は言葉を切り、軍隊長たちの目を見回した後、続ける。


「瀬戸内の乱、さらには平家の乱においても、九国のスパイが主軸となり、我らの内政を乱していたという事実が発覚した。その詳細はこうだ。篠原総長が四国南部の土佐族と話をした際、若き二人の男が九国と手を組み、平真男に偽の情報を流したことが瀬戸内の乱の原因となったと言われている。そして、この話は土佐族の東に位置する阿波族にも伝わっていたが、阿波族はスパイ行為には加担していなかったという。」


軍隊長たちはざわめき始めた。明清は厳しい表情で言葉を続ける。


「要するに、九国は巧妙な策略で我らを揺さぶってきた。そして――」


明清の声が低くなる。


「現在、九国と大和が密かに手を組み、我ら平安・四国同盟に大戦を仕掛ける準備を進めているという情報があるのだ。」


会議室は一瞬で凍り付いたように静まり返る。その中で、源尊が静かに口を開いた。


「その大戦に備え、我々は準備を整える必要がある、ということですね。」


源尊の落ち着いた声に、那須が苦い表情を浮かべながら応じる。


「しかし……瀬戸内の乱でもギリギリの戦いだったのに。九国と大和が相手となれば、被害も規模も、想像を絶するものになる……。」


その言葉を受け、赤司が力強く言い放つ。


「だが、今や四国が同盟国。戦力は十分でしょう。」


飯伏が口を挟む。


「赤司の言うことも一理あるな。ただ……地政学的には、どちらが有利なのかまだ分からん。」


猪戸が続ける。


「挟み撃ちがよいか、その逆か……どちらにせよ、慎重に考えるべきでしょう。」


明清が声を張り、議論を締めた。


「戦略については、私たちも慎重に検討する。そして、源将軍の言葉にもあったように、各隊は駐屯地を活性化し、隊員たちの士気を高めることに注力してほしい。大戦の可能性は非常に高い。」


平安王が再び立ち上がり、全員を見渡して言葉を発する。


「君たちには、いつ来るか分からぬ戦に備えてもらうことになる。その心も身体も、疲れ果てるだろう。しかし、この国と四国を守るためには、君たちの力が必要だ。頼むぞ!」


「御意!!!!!」


軍隊長たちは声を揃え、頭を下げた。


会議後――

源尊のもとに第八軍軍隊長・菊政宗が歩み寄る。


「将軍……昨日、都の方角から非常に大きなエネルギーを感じたのですが、何かご存じですか?」


源尊は微笑みながら答えた。


「ああ、あれか。政宗、お前はまだ知らないだろうが、平安国には新たな大きな力が現れた。その目で確かめれば分かるだろう。楽しみにしていろ。」


菊は期待を込めた目で答えた。


「そうですか。それは楽しみですね。」



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